表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/66

第46話 共同戦線➂

 シュレッゴンは俺を恨んでいた。

 元々はただ見下す対象だったのに……ルオットゥトで俺に負け、恨む対象に変わったのだ。


 何時か俺に復讐しようと企んでいた。


 念願叶った。


 屋根の(へり)にて、堂々たる屈託のない笑みを浮かべるはシュレッゴン。

 彼の表情さえ、次第に見えずらくなってゆく。



 そうして遂に、俺の身体が道に叩きつけられた。

 全身が痺れる。凍える程に寒い。


 死ぬのだろうか……はたして。

 ピクリとも自由に動く事は出来ず、ただ痙攣する四肢が可笑しい。


 こんな窮地にも、タウダスは顕現しない。

 このままではと鼓動だけが速まる。呼吸が浅い。無理に吸えば、嘔吐感が高まるばかりである。


「はっはっは! 蜂の巣だぜ!」

「カナタさま!」


「……はぁ?? おいおいおい、待てよヌルキぃ。助けに行くんなら殺すぜ」


「めんどすぎー」



 メイドの照準が俺に向く。

 しかし助けは来ない。


 ヌルキは止められ、ルペールは動けず……ブリッツに助ける義理は無い。

 俺は死ぬべくして死ぬのだ。


 涙が溢れる。

 身が震える。


 かの冷酷な銃口が、弾ける。


『何を諦めとるのだ……阿呆が』


 身体が起きる。

 四肢が動く。


 弾丸を寸で受ける。


 タウダス……助かった。


『貴様、妾を顧みず死を受け入れおって……後でみっちり説教じゃ……!』


 死の間際に入れ替わり、微かに動けた……しかし明らかに魔力が少ない。肉体が脆い。弾丸を受けた箇所が破壊されている。

 このダメージ、まるで生身で受けた様。


『魔力が足らん……こんな破壊的な痛みは初めてじゃのぉ……』


 魔力で回復は出来ないのか……? このままじゃ動けても死ぬ……。


『回復できるなら自分にやっとるわ。少し黙っとれ』


 メイドの前衛と後衛が立ち替わる。

 次に連射が見舞われる。


 再び弾幕を全身に浴び、肉体が持たない……。


 ただ、俺はいたって冷静であった。

 何故だろう。痛みが無い。遂に死んだか、この俺は……。


 しかし違う。俺はメイドの隊列を見つめ、銃撃の轟音を聞き、周囲の冷気さえ感じられる。


 痛覚だけだ。

 痛覚は全て、タウダスが肩代わりしているのだ……。


 冷静なのは、俺だけだ。


 今度は俺がタウダスを助けるのだ――――。



 その時、近くの路地裏を見つけた。



 タウダス……身体を右へ……路地裏に隠れりゃ銃弾を避けれる。


『全く、簡単にぬかしおる……!!』


 それしか無いんだ……! 出来るだけ素早く動いてくれ……!


『……女共、借りは返すからのぉ……』


 タウダスが半身を()じる。体が右へ、重心のままに。


 路地裏に飛び込む。


 メイドの銃口が、素早く俺達を追う。

 この時、端のメイドが真ん中のメイドを撃ち抜く。


 端のメイドの射線に、真ん中のメイドが入ったのだ。


 それでもメイドは連射を続け、奴等の隊列が半壊した。


 ざまぁみろという話だ。


『何が”ざまぁみろ”じゃ……貴様の様を見ろ……』


 タウダスが掻き消える様な声を漏らす。


 俺の身体は蜂の巣である……。致命傷とも成り得る傷を、幾つも幾つも受けている。

 もし元の身体に戻ったなら……俺は生きれるだろうか。


『……”銀髪”の合流までは妾が肩代わりする。奴は何処じゃ?』


 さぁ。


『”さぁ”? 貴様おちょくっておるのか?!』


 そう言われても、俺だって早く戻ってきて欲しい。願うばかりだ。


『……女共、此方へ来ておるな……もう少し奥へ……』


 タウダスは傷だらけの身体を起こし、壁に縋りながら路地裏の奥へ。


 路地裏は暗く、街灯も月夜も届かない。


 誰が居ても、気付く事は出来ないだろう。

 そんな胸騒ぎが湧き起こる。


 なぜ”殺戮兵器(メイドロイド)”が、俺に差し向けられたのだろう。


 そもそも、俺が命を狙われる、そのきっかけは何だったか。


 主犯格は、決して”この街の科学者”などでは無かった。



「カナタ・アールベット」



 背後から刺突される。心臓の僅か右。即死は免れる。

 路地裏に隠れていたか。俺の止めを刺そうと、今か今か隠れていたのだ……何とも姑息な者達だ。


『誰じゃ貴様ぁ』


 タウダスが蹴り込む。肉が打たれた様な音、内臓の弾ける音。こっちは即死か。

 ……見知った男、ギルドの者だ。


 そうだ忘れていた。この街にゃあギルドの奴等も居たのだ。


 そして奴等は、デモリールの武器を持っている。


 今胸を突いた”この刃”もまた、デモリール出来ているのだ。

 魔力の循環が破壊され、肉体が、滅びるのだ。


 滅びる筈なのだ……。


「?」


 滅びない……?

 魔力が底を突いて、デモリールの影響を受けなかった……?


「ともかく助かった…………?」


 俺の声がする。


 タウダスの声でない。


「タウダス……?」


 魔力が枯れた。

 よもやタウダスの気配すらない。


 俺の中から、タウダスが消えた……?


 彼女は判断したのだ。デモリールの効力は、魔力が無ければ関係ない。

 つまり、彼女が俺の中から出て行けば……俺だけは、死なんのだ。


「……お、おい……タウダス……おい……」


 身体中から血が溢れる。辛うじての魔力が止めていた出血がぶり返す。

 感覚を失う悪寒。気が触れる程の痛み。


 しかしそれ以上に、欠けた心が寂寥とする。


 もう彼女は……。



 その時、眼前に巨大な体躯が飛来する。

 砂埃を巻き上げ、気圧す程の風圧が起こる。


 シュレッゴン。ヌルキを排除し、俺たちの前に再び現れたのだ。


「……くそっ……」


「やっぱりよぉ。俺が止め刺してぇよなぁ。なぁ?」


 シュレッゴンの丸太の様な腕が振り上げられた。意気揚々。俺を殺す事を嬉々とする。悍ましい笑顔。


 俺は抵抗できない。もう魔力が無い。膝をつき、ただシュレッゴンを睨む。

 後方に這い、どうしようもなく命を守った。



 その時だった。



 シュレッゴンが”光”に撃ち抜かれた。


 強烈で、力強い光線である。


「ぐぅ……?? なん、だぁ?」


 レーザービーム。シュレッゴンは為す術なくのまま後方へ倒れ込む。


 光線の光源は、屋根の上だ。


「カナター!! 大丈夫ー?!」


「ルペール……??」


 ルペールが気高く立っていた。

 彼女の腕から伸びる光線……あれがシュレッゴンを貫いたのだ。


「へっ! どうだ高熱レーザー。最高だろ?」


「これすっごいよー! もう一発出したーい!」

「エネルギー缶は別売りだぜ。コラ」


 ルペールとブリッツのハイタッチ。手と手が打ち合う、


 彼女は義手と義足を手に入れた……。それはもう、俺の思惑とは真反対な程に危険な出来だ……。

 それにブリッツ、やはり奴は金の亡者……。


 ただ恨み節を唱えている場合ではない。

 まして安堵している場合ではない。


 後方からメイドロイド共が迫る。

 俺ははたと後方を見やる。


 ……しかし、路地のメイドロイド共はすっかりと大人しく、もう進行はしていない。

 先程よりもずっと、冷淡な表情を浮かべるばかりであったのだ。


「……?」


「カナタ様ー!!」


「! フェン……」


「遅くなってしまいました……! ご無事ですか……??」


 無事ではない。

 ただ寄る彼女に、ただ(もた)れ掛かるように、俺は前へ倒れ込んだ。



 それから目を冷ますのは、一週間後の事となった。

ご覧いただきありがとうございます!

少しでも『おもしろい!』『たのしみ!』『期待してる!』と思っていただけたら『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!

皆様の応援が力になります……! ぜひ評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ