第46話 共同戦線➂
シュレッゴンは俺を恨んでいた。
元々はただ見下す対象だったのに……ルオットゥトで俺に負け、恨む対象に変わったのだ。
何時か俺に復讐しようと企んでいた。
念願叶った。
屋根の縁にて、堂々たる屈託のない笑みを浮かべるはシュレッゴン。
彼の表情さえ、次第に見えずらくなってゆく。
そうして遂に、俺の身体が道に叩きつけられた。
全身が痺れる。凍える程に寒い。
死ぬのだろうか……はたして。
ピクリとも自由に動く事は出来ず、ただ痙攣する四肢が可笑しい。
こんな窮地にも、タウダスは顕現しない。
このままではと鼓動だけが速まる。呼吸が浅い。無理に吸えば、嘔吐感が高まるばかりである。
「はっはっは! 蜂の巣だぜ!」
「カナタさま!」
「……はぁ?? おいおいおい、待てよヌルキぃ。助けに行くんなら殺すぜ」
「めんどすぎー」
メイドの照準が俺に向く。
しかし助けは来ない。
ヌルキは止められ、ルペールは動けず……ブリッツに助ける義理は無い。
俺は死ぬべくして死ぬのだ。
涙が溢れる。
身が震える。
かの冷酷な銃口が、弾ける。
『何を諦めとるのだ……阿呆が』
身体が起きる。
四肢が動く。
弾丸を寸で受ける。
タウダス……助かった。
『貴様、妾を顧みず死を受け入れおって……後でみっちり説教じゃ……!』
死の間際に入れ替わり、微かに動けた……しかし明らかに魔力が少ない。肉体が脆い。弾丸を受けた箇所が破壊されている。
このダメージ、まるで生身で受けた様。
『魔力が足らん……こんな破壊的な痛みは初めてじゃのぉ……』
魔力で回復は出来ないのか……? このままじゃ動けても死ぬ……。
『回復できるなら自分にやっとるわ。少し黙っとれ』
メイドの前衛と後衛が立ち替わる。
次に連射が見舞われる。
再び弾幕を全身に浴び、肉体が持たない……。
ただ、俺はいたって冷静であった。
何故だろう。痛みが無い。遂に死んだか、この俺は……。
しかし違う。俺はメイドの隊列を見つめ、銃撃の轟音を聞き、周囲の冷気さえ感じられる。
痛覚だけだ。
痛覚は全て、タウダスが肩代わりしているのだ……。
冷静なのは、俺だけだ。
今度は俺がタウダスを助けるのだ――――。
その時、近くの路地裏を見つけた。
タウダス……身体を右へ……路地裏に隠れりゃ銃弾を避けれる。
『全く、簡単にぬかしおる……!!』
それしか無いんだ……! 出来るだけ素早く動いてくれ……!
『……女共、借りは返すからのぉ……』
タウダスが半身を捩じる。体が右へ、重心のままに。
路地裏に飛び込む。
メイドの銃口が、素早く俺達を追う。
この時、端のメイドが真ん中のメイドを撃ち抜く。
端のメイドの射線に、真ん中のメイドが入ったのだ。
それでもメイドは連射を続け、奴等の隊列が半壊した。
ざまぁみろという話だ。
『何が”ざまぁみろ”じゃ……貴様の様を見ろ……』
タウダスが掻き消える様な声を漏らす。
俺の身体は蜂の巣である……。致命傷とも成り得る傷を、幾つも幾つも受けている。
もし元の身体に戻ったなら……俺は生きれるだろうか。
『……”銀髪”の合流までは妾が肩代わりする。奴は何処じゃ?』
さぁ。
『”さぁ”? 貴様おちょくっておるのか?!』
そう言われても、俺だって早く戻ってきて欲しい。願うばかりだ。
『……女共、此方へ来ておるな……もう少し奥へ……』
タウダスは傷だらけの身体を起こし、壁に縋りながら路地裏の奥へ。
路地裏は暗く、街灯も月夜も届かない。
誰が居ても、気付く事は出来ないだろう。
そんな胸騒ぎが湧き起こる。
なぜ”殺戮兵器”が、俺に差し向けられたのだろう。
そもそも、俺が命を狙われる、そのきっかけは何だったか。
主犯格は、決して”この街の科学者”などでは無かった。
「カナタ・アールベット」
背後から刺突される。心臓の僅か右。即死は免れる。
路地裏に隠れていたか。俺の止めを刺そうと、今か今か隠れていたのだ……何とも姑息な者達だ。
『誰じゃ貴様ぁ』
タウダスが蹴り込む。肉が打たれた様な音、内臓の弾ける音。こっちは即死か。
……見知った男、ギルドの者だ。
そうだ忘れていた。この街にゃあギルドの奴等も居たのだ。
そして奴等は、デモリールの武器を持っている。
今胸を突いた”この刃”もまた、デモリール出来ているのだ。
魔力の循環が破壊され、肉体が、滅びるのだ。
滅びる筈なのだ……。
「?」
滅びない……?
魔力が底を突いて、デモリールの影響を受けなかった……?
「ともかく助かった…………?」
俺の声がする。
タウダスの声でない。
「タウダス……?」
魔力が枯れた。
よもやタウダスの気配すらない。
俺の中から、タウダスが消えた……?
彼女は判断したのだ。デモリールの効力は、魔力が無ければ関係ない。
つまり、彼女が俺の中から出て行けば……俺だけは、死なんのだ。
「……お、おい……タウダス……おい……」
身体中から血が溢れる。辛うじての魔力が止めていた出血がぶり返す。
感覚を失う悪寒。気が触れる程の痛み。
しかしそれ以上に、欠けた心が寂寥とする。
もう彼女は……。
その時、眼前に巨大な体躯が飛来する。
砂埃を巻き上げ、気圧す程の風圧が起こる。
シュレッゴン。ヌルキを排除し、俺たちの前に再び現れたのだ。
「……くそっ……」
「やっぱりよぉ。俺が止め刺してぇよなぁ。なぁ?」
シュレッゴンの丸太の様な腕が振り上げられた。意気揚々。俺を殺す事を嬉々とする。悍ましい笑顔。
俺は抵抗できない。もう魔力が無い。膝をつき、ただシュレッゴンを睨む。
後方に這い、どうしようもなく命を守った。
その時だった。
シュレッゴンが”光”に撃ち抜かれた。
強烈で、力強い光線である。
「ぐぅ……?? なん、だぁ?」
レーザービーム。シュレッゴンは為す術なくのまま後方へ倒れ込む。
光線の光源は、屋根の上だ。
「カナター!! 大丈夫ー?!」
「ルペール……??」
ルペールが気高く立っていた。
彼女の腕から伸びる光線……あれがシュレッゴンを貫いたのだ。
「へっ! どうだ高熱レーザー。最高だろ?」
「これすっごいよー! もう一発出したーい!」
「エネルギー缶は別売りだぜ。コラ」
ルペールとブリッツのハイタッチ。手と手が打ち合う、
彼女は義手と義足を手に入れた……。それはもう、俺の思惑とは真反対な程に危険な出来だ……。
それにブリッツ、やはり奴は金の亡者……。
ただ恨み節を唱えている場合ではない。
まして安堵している場合ではない。
後方からメイドロイド共が迫る。
俺ははたと後方を見やる。
……しかし、路地のメイドロイド共はすっかりと大人しく、もう進行はしていない。
先程よりもずっと、冷淡な表情を浮かべるばかりであったのだ。
「……?」
「カナタ様ー!!」
「! フェン……」
「遅くなってしまいました……! ご無事ですか……??」
無事ではない。
ただ寄る彼女に、ただ凭れ掛かるように、俺は前へ倒れ込んだ。
それから目を冷ますのは、一週間後の事となった。
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