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第40話 決裂

「こいつぁ全部爺さんの趣味だ。勘違いすんなよ……が、まぁよく出来てんだろ」


 ブリッツはメイドの肩を撫で、捻って腕を外して見せた。

 そうしてこちらにホイと投げて来る。


 腕の断面からコードが伸び、その奥を覗き込んでみれば、チカチカと点滅するランプが見えた。

 人の腕のようで、しかしその実生気はない。温かみも、柔らかさも無い。


 どういう仕組みだろうか……見たって分からん。


「……お、俺にどうしろと」


「どうだすげぇだろ」

「いや、まぁ……」


「おうそうだろ。まぁ”腕”は確かって話だな。がはは」


 まぁこの腕がそのままルペールにくっつけば……今より多少はマシになりそうである。


「……これってのは自由に動くもんなのか?」

「自由ではねぇな。慣れるのにも時間が掛かる。その辺はあんたらがサポートしてやんな」


「あ、あぁ当然だ……」


 とは言えリハビリのイロハは知らない……。

 腕だの脚だのが出来上がるまでにナーさんにでも聞いとくか。


 (ふけ)る……そんな俺の横顔をブリッツが眺める。

 何だ。俺の目つきがまだ気に入らないか。


「それでよぉ。相談あんだが」


「……? んだよ」


「オプション付けとくか?」


「お、オプション?」

「追加メニューだぜ。コラ」


 ブリッツは腰のポシェットから4、5枚の紙を取り出す。

 紙には所狭しと文字が並び、手書きのイラストまで添えられている。


 それはまさに近代兵器の設計図であった。


「……は?」


「高熱レーザー、ホーミングミサイル、索敵レーダー、翻訳プログラム。何でも付けれるぜ」

「……腕に?」

「おう。他にどこに付けんだ。コラ」


「……いらん。余計なモンつけるな」


「んでだー! 最高だろ高熱レーザー!」

「あぶねぇだろ! 変なモン付けて事故ったらどうすんだ!」


 レーザー? ミサイル? んなもん死人が出る。倫理の欠片も感じねぇ。

 それにオプションだと言ったな……追加料金なんて払えねぇ。高すぎる。いや、翻訳プログラムは案外使えるか……?


「お。どいつか気に入ったか?」

「……やっぱり無しだバカヤロウ。普通の腕と脚にしてくれ」


「んだよー甲斐性ねぇー……”アンタら”はどうだ?」


「? アンタら……?」


 ブリッツが俺の後ろに目を向ける。

 まさかと、俺もつられて振り返る。


 ロボが居た。

 奴は車椅子ごとルペールを抱え、後ろにフェンが続いてる。

 やられた。


「連レテ来タゼ。コラ」


「ミサイル付けれんのー!? ていうか何この部屋……」

「レーダーも、今後に役立ちそうですね」


「お、お前ら……」

「おうおう! 分かるクチじゃねぇかアンタらー!」

「てめぇ謀っただろ……」

「がっはっは」


 全てコイツ等の思うつぼ……。

 俺の財布はおろか、ドーラの財布も空になるだろう……。あな恐ろしや。


 俺の勘ぐりも他所に、ルペールは設計図を手にとっては目を輝かせる。


「ま、待て待てルペール! 事故ったらどうする……金のことだってある。よく考えろ」

「えー。事故るのー?」

「事故らねぇぜ。たぶんな」

「テキトーすぎるだろ」


「テキトーじゃねぇ! オレぁ散々テストしてきたんだぜ。データだって揃ってる……!」

「マァ『SEC』ニハ認メラレテネェガナ」

「黙ってろ! コラ」


 『SEC』……そうだ『SEC』だ。ドーラもそんな様な話をしていた……倫理がどうのと……。


「……なぁブリッツ。『SEC』ってなんなんだ。よくは知らなくてよ……」


「あ? 簡単に言っちまえぁ、ジジイ共の仲良しクラブだ。コラ。形骸化しちまって(ろく)なもんじゃねぇぜ」

「……それ、ホントか?」

「疑うんだらハナっから聞くな。コラ」


 それはそうだ……コイツが都合よく言い換えているとも限らない。真実を言ってるとも限らない。


「俺の友達が言うには『科学の倫理委員会』だって」

「……まぁコンセプトはそうだな。コンセプトはな」


「そこに所属できてないお前は、危ねぇんじゃねぇかって話だ。そんな奴にルペールは任せられねぇ……どうなんだ」


 ブリッツがグッと口を(つぐ)む。

 俺の疑念の深さを悟ったか、言葉を選ぶのだ。


「……一つ言えるのぁ、倫理で科学は進歩しねぇって事だ。その辺よく考えろ」


「それが答えで良いんだな」


「構わねぇ。オレはオレの信念に従うだけだぜ。コラ」


 ブリッツの眼光。嘘の色は見えない。

 これで俺の腹は決まった。


 もうココには居られない。


「ルペール、フェン。とっとと行くぞ」


「アァ……」

「ちょ、ちょっとカナタ?」


「良いから……」


 俺はロボからルペールの車椅子を取り返す。

 やはり俺の見立ては正しかった。そんな気の焦りのままに足取り早くその場を退散する。


 しかしブリッツはみすみすこれを許さない。


「おい待ちやがれ。コラ」


「まだ何かあんのか……」


「てめぇに『SEC』のこと教えたのは誰だ」


「はぁ……? んで言わなきゃならん」

「クソノボセが。アイツらを盲目に信じてやがるドグサレを紹介しろっつてんだ」


「……殴る気か」

「場合によっちゃあな」


「紹介するわけねぇだろ! ……帰るぞ」


 ともかく今はドーラと合流せねば……いらん時間を使った。階段を駆け下りる。


 急な階段を、車椅子を抱えながら降りるのは骨が折れるが……勢いのままに下る。


「あ、危ないですよ」


「ココに居る方が危ねぇ」


「な、なんで相談なしに決めるのさ! カナタぁ?」


「聞いてたろ。分かったろ。やっぱりココには倫理がねぇんだって……!」

「そ、それは……そうですけど……」

「あんな言い方ないじゃん!」


「……」


 ついに階段を降り切り、玄関の方へ駆け足。

 そこで例の事を思い出す。オートロックだとかいう奴だ。内側から扉が開かない。欠陥だろコレ。


「んでコレ開かねぇんだ……!」

「確かに内側から開かないのは不思議ですね……」


「仕方ねぇ。ぶっ壊して出るしか……」

「え! ちょっ、カナタ!」


 心が急く。いや急かせる。

 瞳に熱を集め、意識的にタウダスを引き出すのだ。


「止メナサイ」


「!」

「うわっ!」


 追いかけて来たのは、ロボではない。ブリッツでもない。

 機関車内で出会った、あの時の爺さんだ。


 ただ、喋り方に微かな違和感を感じる……。


 不気味な違和感である。


「あ、あの時のお爺様?」

「お。ホントじゃん。帰ってたんだ」


「……爺さん。アンタ鍵開けれっか?」


「……貸シナサイ」

「?」


 爺さんが手の甲でノブに触れる。

 するとあっけなく電子音と共に鍵の開く音がした。


「やるじゃんおじいちゃん!」

「どういう仕組みなのでしょう」


「あ、ありがとうございます……」


「……」


 爺さんは無言のままに部屋へ引き返して行った。

 何だったんだ……。


 ともかくこれでドーラ小隊と合流できる。

 今更、どの面さげてという話ではあるが……誠心誠意謝るほかない。


 外はすっかりもう夜で、足元さえ見えない具合だ。


 早くに大通りに出なくては、道に迷ってしまう。



「ドーラってどこいんの?」


「『SEC』の本拠地に寄りたがってたからな……そこに行けばいんじゃねぇか?」

「……で、それは何処なのでしょう」


「駅まで戻れば見える筈だ。駅までは……来た道をなぞるしかねぇ」

「覚えてんの?」


「……ちょいと昼間と景色は違うが……流石に戻れるだろ」


 人通りは少なく、露店だって片付けられている。街灯の少なさも、夜になるまで気付かなかった。


 しかしそれでも駅の方面は分かる。

 『SEC』の総本山の光が空の雲を照らしている。それはまるで怪しげな稲光のようである。

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