表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/66

第34話 『テルツ』行き蒸気機関車

「科学の街ぃ……?」


「このルオットゥトから大分と南下した所にあるのさ。非常に豊かな自然の中で作られる最高峰の精密機械の数々……君に適した物もきっと作れるさ」


「おぉ……! まじ! 手ぇ動くようになる?! 脚も?!」

「なる。ただ治る訳じゃないがね」


 心強い話だ。

 ルペールだって何時までもこの状態じゃ不便すぎる。


「……ただ、気になるのは場所だぜ、ドーラ……」

「えぇ」


「まさか、『テルツ』じゃないだろ……?」


「当然『テルツ』だ。それ以外どこなんだい」


 ……バツが悪い。

 なにせ『テルツ』はギルドの本拠地に近いのだ……。んな所に行ったら、いつ追手が来るやら。あいつらプロシェンヌにさえ来やがったんだぞ。


「……君が心配しているのはギルドの事だろう。追放されてるからね」


「そうだ……わざわざ近づくなんて」

「安心したまえ。本部は選挙の真っ最中。数週間はろくに動いてこないさ」


「……」


「とはいえ不安だろう。そこでワタシ達がお供しようと言うのだよ」

「お! まじぃ??」

「先程、救助要請を出したんだがね。忙しいと言って断ったんだあのクソギルド。どうせ通り道だ、こちらは問題ない」


「……心強い、が」


「もー! カナタさー! ”こうい”は受け取らないと!」

「でもよぉ……」


「君とワタシ達が、仲間とバレたら我々も巻き添えを喰らう……そう、心配しているだろ」


「……良いのかよ。危険な旅だのに……」

「だからと言って見捨てられん。それにタダで死ぬ玉かね我々が。此度もこうして生き抜いた」


「ね! カナタ! 大丈夫だって!」

「ルペール……」

「うんうん。それにさ、ウチもずっとお世話してもらっちゃ悪いもん」


 ドーラの厚意。ルペールの人生。これとギルドの脅威を見比べる。

 それとドーラが言う様に、奴等はしばらく動けない。『テルツ産の義手、義足』なんて逸品、手に入れるなら今が狙い目か……。



「よし分かった! だがギルドの奴等が来たら俺を差し出せよ! 囮になるからな!」


「本当に面倒だな。この人は」

「まーこういう奴だからさ」



 テルツへの旅路は蒸気機関車が速い。この村の遥か南に駅があり、そこから乗って下って行くのだ。

 問題はその駅までどう行くかだ。


「それならば、村のトナカイゾリを出しましょう」


 村長が気を利かせてくれる。


「だいぶ遠いですけど、大丈夫ですかね」

「ほっほっほ。問題ありませんよ。さぁ乗りなさいな」


 逞しいトナカイが数頭、ソリを引く。速さは大したことがないと言うが、当然歩くより速い。スタミナだって比にゃならん。有難い限りだ。


「ドーラたいちょー。ボクらも出発―?」


「えぇ間もなく。支度しといてください」


「救助は待たねぇのかよ」

「彼らが末端を優先すると思いますか?」

「クソが」


 ドーラ隊の面々も順次乗り込む。

 追放された時は、まさかこんな大所帯になるとは思わなかったな……。そんな風に噛み締めながら、俺はルペールを抱える。


 ただ、あの子が目に付いた。


「……悪い、フェン、ルペール頼むわ」


「え」

「あ、はい……カナタ様?」


「ムオタ連れて来る」


 俺達を囲む民衆。彼らの脚の隙に彼女が居た。横には尾を振るベアナも居る。


 俺が駆け寄ると、パッと隠れてしまったが、また窺う様にこちらを見た。

 切なく眉をひそめる。


「ムオタ」


「うぅ……カナタさん」


「ホント、ありがとな。そもそも君が、川から助けてくんなきゃ俺ら死んでたからよ」


「……そ、そんなの当然なこと、しただけだべ! それに、ほめるならベアナもだべ」

「あぁ。ありがとベアナ」


 二人の頭を撫でる。

 ムオタは照れながら笑う。ベアナはワンと快活に吠える。


「にへへ……」


「……皆にもお別れ言いに行こうぜ。ほら」

「あ」


 彼女の手を引きソリに寄る。


 まず迎えたのはフェンだ。ムオタをそっと抱き締め、二度三度と頬を合わせた。

 フェンは彼女を抱え、ルペールの隣に置く。二人は抱擁する。ムオタは彼女の腕を、脚を撫で、先の幸せを願った。


 隣のソリへ。ナーさん、ヌルキも抱き締めた。

 ドーラとは軽く握手。その後、互いに会釈した。最後はシュレッゴン、コイツには一瞬(すく)んだが、シュレッゴンの方から頭を撫でた。


「俺にだけ対応ちげぇじゃねぇか!」

「しょうがないってー。怖すぎるもん」



「みなさーん! お元気で―!!」


 村人たちの別れの声、ムオタの別れの声、ベアナの遠吠えに精一杯、手を振り返す。

 そうして、とうとう見えなくなるまで手を振り続けたのだった。



 雪の道を進む。風を切る。顔が冷たくて堪らない。

 道も整備しているとは言えない。ガタンガタンと縦に揺れ、腰やら背中が滅茶苦茶だ。


 とはいえ景色はいいもんだ。

 南下するほど、少しづつ緑が多くなって、雪解けの霜が微かに光り続ける。そして澄んだ空気がこれを邪魔しない。

 本当に顔が張り裂けそうなこと以外、文句は無い。


「ほーれ、もうそろそろですよ」


 ソリの操縦士は村の方。

 雪が薄くなる頃にそんなことを言う。


「ありがとうございました」


「いえいえ。ほんの恩返しですよ。悪魔退治のね」


 村の方は微笑むと、道の先の先を指さす。

 そこには微かに建物が見えた。蒸気機関車の停車駅である。


「駅でチケット買いなさいね。金はある? 文字は読めるかね」


「ご心配無用です」

「本当に何から何までありがとうございます」


「おう。それじゃあ達者でね」


 俺達は荷物をまとめ、久方ぶりの地面を踏んだ。まだ浅い雪はあれど、凍ってる訳ではない。

 むしろぬかるんで転げないように必死である。


「歩幅は小さく、ゆっくり歩きなさい」

「手に荷物は持つなよ。転んだ時、手を使えねぇからよ」

「重心にも意識を向けましょう。大事なのはバランスです」

「もしあれだったら荷物は俺が持つが」


「うるせぇーなーてめぇ等!!」

「うるさいんだけどーコイツ等!!」


「ま、まぁまぁ御二方も心配なさってくれてるんですし……」

「それに医学的にも軽傷は侮れませんよ……」


「そうですよ」

「そうだぜ」


「もーボクこのチームヤなんだけどー……!!」



 駅までの道のりはほど遠くない。

 トボトボと、俺たちは歩いた。


 ふとついて来てるかと後ろを振り向く。


 俺達一行の過ぎた跡には、色とりどりの足跡が残っていた。



 駅には人はほとんどいない。

 当然だろう。都心からこっちに来る人間なんていやしない。

 故に機関車も日に数本しかない。


「お乗りの方はお早く―」


 駅員がそういう。間もなく出発するらしい。

 俺達は不躾に飛び乗った。もちろん皆急ぎ足である。


「はぁ……はぁ……まさか走るとは……」

「もーあっつー! 服脱ぐわ」


 車内は風通しが悪く、蒸し返すような暑さである。

 寒冷地行きの為、窓が閉め切られている……。


「ちょっと窓開けましょうか……」

「さんせー」


 皆は思い思いの席を取る。乗客は俺達くらいだ。悠々自適である。

 フェンとルペールはすぐそこ。ルペールを窓側に座らせる。


 ヌルキは先頭車両に行った。ナーさんもついていく。ドーラもだ。


 シュレッゴンは……何処行った? まぁいい。乗り込めてはいるだろう。


 かくいう俺も窓側の席を陣取る。

 ルペールに目の届くくらいの位置。一人でぽつりと座った。



 その時、何の気なしに駅の乗降場を眺めた。


 人影がある。ただ、駅員ではない。身なりが違う。シュレッゴンでもない。背格好が違う。


 ならば誰だ。


 彼はコチラに背を向けていた。

 車両に背を向けていたのだ。


 今、降りたのか?


 こんな駅で?


 そんな風に思った頃には機関車は走り出した。

 結局その人影が何なのか。とうとう分からぬままだった……。

ご覧いただきありがとうございます!

少しでも『おもしろい!』『たのしみ!』『期待してる!』と思っていただけたら『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!

皆様の応援が力になります……! ぜひ評価お願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ