第33話 その頃の浮世にて
強い酒を呑んで、一人また一人とグーグー眠り始めた。特に早かったのはルペールである。次にドーラ。ナーさんは悪酔いしながら失恋ソングを熱唱していた。そして寝た。
かく言う俺は酔っ払いを見ると酔えないタイプ。
周りの介抱をしながら余り物の飯をつまむ。
「……なぁタウダス。出て来れるか」
そう問いかけても瞳に熱は集まらない……話がしたいんだがな。
俺は目の前にあったウイスキーをショットで2杯飲む。まだ酔えぬ。俺はもう1杯注ぐ。
3杯も呑めば、気分も高ぶるだろうという訳だ。
『待て。もうよい』
タウダスが顕現する。
彼女は手に取ったショットグラスをテーブルに置き直した。
さて、話しと言うのはだが…………タウダスの心持についてだ。
お前はこの村に残り続けたいのか、どうか、という話をしたい。
『……此処に居ったのでは”神獣の魔力”が十分に集まらん。旅に出るなら寧ろ好都合じゃ』
ムオタの事は良いのか?
親心、あの子の事は心配だろう。俺は心中察する。
『……ベアナが居るからのぉ。其れに、此度の宴会でムオタの晴れやかな様を見れた……以前よりも安堵しているわい』
タウダスはくしゃりと嗤う。
ムオタを思い出し、宴会の光景を思い出し……。
『……ところで、この肉は喰って良いか』
タウダスが余ったトナカイ肉を指す。
構わないだろう。
タウダスは一枚手に取り、じっくりと眺めた。後に思い切り齧り付く。
『ふむ。味がせんな』
そう言う事、言うもんじゃない……。シェフが聞いたら泣くぞ。
『仕方あるまい。妾は意識は奪えても、神経は奪えん。五感は何も感じないんじゃ』
……そうか。そうだったな。
じゃあムオタを撫でた時だって、嗅いだ時だって、温度も香りも何もなかったのか……。
同情する。
『同情などいらん。貴様はただ、神獣の魔力を惹きつける餌である自覚を持て……』
そうだな。そうするさ。
何時か必ず、お前が元の姿に戻れるように頑張るよ。
『……貴様、中々純朴な奴よのぉ……くくく。興味が湧いて来たぞ』
タウダス、嗤う。
『……そうじゃ。貴様、貞操は護れよ』
何だ急に。
『純潔を失うと神獣が寄って来にくくなるからのぉ。それにだ……』
タウダスはウイスキー瓶を手に取った。
そして一気に飲み干す。何をする、俺の身体だぞ……。
『くくく……妾が元の姿に戻った暁、貴様の子を産みたいからのぉ』
は?
『…………っぷ。くくく、柄にも無いのぉ。ではな』
そういうと、タウダスは引っ込んだ。
悪魔の突然の告白……俺は困惑する。
しかし直ぐに嘔吐感が込み上げる。噛み締める暇もない。
あの野郎、引っ込む為に酒をラッパ飲み……俺は千鳥足でその場を後にした……。
翌日の朝は晴天。照り付ける日差しが二日酔いのバカヤロウを刺激する。吐きそう。吐くか。
「おぇ~……」
「カナタ呑み過ぎだよー」
「だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫……じゃない」
吐いている間が一番安心できる。体がスッと軽くなるのだ。
対して寝転ぶと余計に気持ち悪い。
胃の痙攣を感じる。脳の血流を感じる。タウダス許すまじ。
「ナーさん呼ぶー?」
「呼んでくれ……おぇ~……」
「あ、えっと、恐らくナー様も二日酔いかと」
「何してんのあの子ー!」
「医者の不養生だな……」
元々酒を呑むタイプでない。しかし昨日は酒乱大暴。普段酒呑まん奴は節度を知らない……。
と、そこへドーラが来た。青い顔をしている。
「お、おやおや……カナタ君……貴方もですか……」
「ドーラ隊長……」
「ははは……ほら、ナー君のキットから拝借して来た頭痛薬だ。それと水も飲みなさい」
「かたじけねぇっす……」
「何やってんのコイツ等」
二日酔いに特効薬はない。俺とドーラは藁にもすがる思いで水を飲みほした。
「ふー……やがて良くなるだろう……それとだカナタ……」
ドーラは懐から”通信機”を取り出す。
これはギルドとの連絡手段、隊長格なら誰でも持ち合わせ、中には隊全員に配っているところもある。
まぁ安価ではないもんで、そんな金持ち部隊は限られているが……。
「”通信機”……」
「君はもう持ってないだろ。追放者は回収されてしまうからね……」
「……んで、これがどうしました?」
「いやね、先程、救助要請を出そうとコールセンターに繋いでみたんだが……どうやらギルドの方が大変な事になっている様なのだよ」
「大変な事……??」
「ギルド長が亡くなった。恐らく病死だ、そうだ」
「は?」
ギルド長とは、俺を追放した張本人……あの老いぼれ、先は長くないと思っていたが……まさかこんな突然に……。清々したのと同時に、ギルドの今後など俺に関係ないと冷淡に構えた。
「……それは、大変っそうすね」
「大変なんてもんじゃないが……まぁ君からすれば他人事だろうな」
「すいませんね」
「いやいいんだ……」
「……それで? ギルドの話はそれぎりですか?」
「ギルド長は改めて決めるそうだ……長が変われば、もしや君も戻って来れるかもしれんな」
「ちょっと待ったー!」
ルペールが飛入る。
「ルペール君。五月蠅いよ。こっちは二日酔いだ」
「知るか―! ともかくカナタは帰らせないから……!!」
「君が決める事じゃない……」
「ドーラ! アンタは知らないかもしれないけどさ、ギルドには”シオン”って奴が入ったの! アイツ危険すぎだし……!」
シオンは執拗に俺を狙っている。
殺そうとしているのか……何か他に目的があるのか……そこまでは分からんが。
ただ、俺の見解では……シオンはそこまで危険じゃない。
ファーラの谷の時だって、アイツは俺を庇ってくれた。
……まぁとはいえ、傍から見てたら不穏に見えるのも分かる。
今は距離を取り、静観するべきと、俺も思う。
ドーラは一考した。
そしてぽつりと言う。
「”シオン”というのは、知り合いかね」
「……? ま、まぁ?」
「今回のギルド長選挙には2名が立候補した……一人は副ギルド長の”エリタージュ”。順当な話だ……それともう一人というのが、その”シオン”だそうだ」
「はぁ??」
「獣人が……?? 嘘だろ」
「アイツゥ……調子のってんね……」
「ほお。シオンというのは獣人なのか……?」
「うん」
「おう」
「……よく立候補が通ったな。ワタシが居ない間にギルドの思想も随分変わったらしい……」
「つっても2週間だろ」
「まぁな」
「……でもさー、どっちが当選してもさー、帰るのは無理そうだよね」
「え?」
「だってそうじゃん。エリタージュの方はさ、ギルド長のイエスマンで……アイツがギルド長と違うことはしなくない?」
「……そうかもな」
「んで、シオンはもってのほか、しょ? じゃあ帰れない! はい決定!」
ルペールはこれからの長旅を想像し満足そうにしている。
一方の俺は懸念もある訳だ。
もしシオンがギルド長になったなら、今まで以上に勢力を挙げてやって来る……。
ルペールだってこんな状態だ、逃げ切れる訳がない。コイツ等に危害が加わるなんて、正直そんなのは御免だ。
「……浮かない顔しないでよ……! いいじゃん自由なんだし!」
「そうは言うがな……」
「……カナタ君。ワタシは分かるぞ。ルペール君のことだろう」
「え、ウチ?」
「今、君には手足が無い。どうだ、それでカナタ君を護れるか……? 足を引っ張らないか?」
「……それは……わかんないけど……」
「お、おいドーラ……」
「そこでワタシから提案だがね。”科学の街”で義手と義足を作らないかね」
第三章完結です!
ご覧いただきありがとうございます!
少しでも『おもしろい!』『たのしみ!』『期待してる!』と思っていただけたら『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
皆様の応援が力になります……! ぜひ評価お願いします!




