第30話 悪魔祓い
「みんなーかえっただよー!」
「ムオタちゃん! 心配したんですよ……!」
「うぅ……申し訳ないだ……」
出迎えたのはナーさんだった。まぁ当然か。
彼女はよっぽど心配していたようでムオタを見るなり抱きしめた。
「ナーさん……二人の様態はどうだ?」
「は、はい……! 実はルペールさんが途端に黙り込んじゃって……フェンさんは相変らずですが」
「ルペール……それは何時頃でしたかね?」
「本当についさっきです……でもまだ目は赤いままで……」
「隊長とおんなじっすねー」
「だな。それとベアナもだ」
「あ! 本当だ、ドーラ隊長じゃないですか!」
感動の再会……とも言えない。ドーラは今でも傀儡のようにじっとしている。死んでいる訳ではないと思うが……。
「とにかくコイツも寝かしてやらないとな」
「あ。どうしましょう……ベッドは3つ共使っちゃってますよ……」
「え?」
「あーね。シュレッゴンが使っちゃってんすよー。カナタさまがぶっ飛ばしたんすよー?」
「すまん」
家はぐっと狭くなった。気絶が4人、ルペール、フェン、シュレッゴン、ドーラ。
怪我人2人、俺とヌルキ。
健常者2人、ムオタとナーさん。それに犬が1匹、ベアナ。
ヌルキの脚の怪我を治療していたナーさんは、どこか苦しそうな表情をしている。
「あ、あの……悪魔は退治出来なかったという事でしょうか……?」
「そうね」
「……じゃあフェンさんがもし目覚めたら……私達、どうなっちゃうんでしょう」
「わーこわ。ナーってホント変な妄想するよね」
「妄想じゃないもん……」
悪魔はすっかり形を潜めてしまった。
祓おうにも祓えない。
そもそも奴は”実体が無い”とも言っていた……殴る蹴るでは解決しない……。
「あ! い~こと考えたわ」
「なんでしょう……」
「ナー、服脱いでー」
「は?」
「カナタさまに裸見せてあげなよ」
「は、はぁ?? そ、そんなの出来る訳ないでしょ!」
「照れてるー」
「照れとかじゃないでしょ! ムオタちゃんも居るんだよ!」
「それがむしろ背徳感じゃーん。ね? カナタさま」
「俺に聞くな」
「でもー、これって冗談じゃなくてさ。カナタさまが興奮すると”悪魔”が出てくるんだよ。そうですよねー?」
「……そ、そうだが……出て来たとしてどうにも出来んだろ……またボコられるぞ」
「それもそっかー……困るー」
だが、出て来てもらわん事には話が始まらないのも事実……。
どうにか穏便に乗っ取って貰う方法はないか……。
「……ムオタ、ちょっとこっちに来てくれ」
「どうしただかー?」
何も理解してないが、もそもそと近づいて来るムオタ。
俺が両腕を広げると、そこにすっぽり収まった。彼女は顔を埋める。
そしてゆっくり抱きしめる。
「あったかいだー」
「ふふ。かわいい」
「…………ヌルキ、脱げ」
「え」
「俺を興奮させろ。早く」
「……あ、あははー。変態じゃーん……ってかそれさっき却下したくせにさぁ……」
「……多分、ムオタが居ると、悪魔は暴れない。お前も見たろ。雪山でアイツは大人しくなった」
「うぅ……理詰めするオトコむり……」
「早くしろ。俺を興奮させてみろ」
ヌルキの息遣いは荒い。飄々とした性格もあって、躊躇わずやりそうと思っていたのに……。まるでこれじゃあ、俺が屑みたいじゃないか。
「な、なにしてるんだべ?」
「ムオタちゃんは見てはいけません……」
ナーさんの氷の様な視線を感じながら、俺はヌルキの裸を凝視した。
男の様な身体をしているヌルキでも、俺は流石童貞、簡単に目の熱が高まって来る……。
「…………あ、赤くなった……」
『……何をしておる、痴女』
「うるさいなー!! カナタさまがやれっていったの! お前に見せてねーし!!」
予定通りに悪魔が現れた。
どうだ、俺の独白が聞こえるかよ。
『……小僧、これで飼い慣らしているつもりか? 調子に乗りおって』
悪魔は動けない。ムオタを抱えたまま、捨てる事も、当然殺す事もしない。
むしろ、腕の中にムオタが居ると分かれば、より愛しく抱きしめるのだ。
「……カナタさん?」
腕の中のムオタと目が合った。
この時、拍動が速まる。
そして、瞳の熱が冷めていく……。
「あ。目、戻った」
「えっと、何がしたかったのでしょう」
「……やっぱりムオタには何もしなかったな……いや、”した”のか」
「何言ってんのかわかんなーい」
「アイツ、ムオタを抱きしめたんだよ……ヌルキだったら首根っこ掻っ捌いてただろうよ」
「やめな」
「悪魔はムオタを特別に想ってる……多分、興奮して引っ込んでるじゃなくて、気まずくって引っ込んでるんだろ」
「それほんとー?」
「分からん」
「ふーん。ムオタはどー思う?」
「?」
子供全員にこうなのか、ムオタだけが特別なのか。
もし”特別”なのだとしたら、心当たりがある。
「なぁムオタ、この家って、君のか?」
「そうだべ」
「……じゃあ、両親はどこに居る?」
「え……」
「この家、ベッドが3つある……ムオタ一人ににゃ要らない設備だ。そもそも親の影をちっとも感じない」
「あ、あの……カナタくん、そういうのはデリケートな話題ですよ」
「……そうだな。別に答える必要はない……」
俺はムオタを改めて抱きしめた。
先程よりも暗い顔をしたムオタは、小さな手で俺の服を握りしめた。
「……ヌルキ、脱げ」
「またー!?」
「悪魔とムオタを会わせる。今度は逃がさねぇ……」
「に、逃がさないってどうする気よ?」
「脱ぎ続けろ」
「は?!」
「アイツが引っ込む度に引きずり出す」
「どんだけ興奮する気ー?? ボクの身体、そ、そんなに好みなのーって感じぃ……」
「いや、別に。ナーさんだと罪悪感が勝つだけで」
「カナタくん……」
「はぁ?? そこは世辞でも好きって言えよ。脱がねぇぞ童貞」
「脱いでくれ頼む」
ヌルキはゆっくり、焦らすように服を開けさせる。早くしろ。
この時、目に熱がこもる。
『……えぇい……執拗いのぉ』
悪魔は観念したように俯いた。
目線の先にはムオタが居る。
ムオタも凝視し返す。赤い瞳と、彼女の無垢な目が向かい合った。
「……ベアナ?」
彼女はこんな事を言う。
しかし悪魔は首を横に振った。
『ムオタ。お前をようやく抱き締められるのぉ……』
悪魔はムオタを抱えたまま蹲った。
彼女の頭を撫で、匂いを嗅ぎ、何度も何度も頬にキスをした。
『駄目じゃな……意識は奪えても、神経までは奪えんのぉ……』
「は? どーいうこと?」
「……もしかして、ムオタちゃんのお母様?」
「いや、流石にありえんくない? ムオタも悪魔ってこと?」
「いえ、恐らく”悪魔”という呼び名も寓話に過ぎない……本当の意味での悪魔ではないのでしょう。例えば元は獣人だったけれど、魔力の作用で実態を失ったとか……」
「あー……ね。そんな事ありえんの?」
「その辺りの話は、流石に分かりません……でも、私にはとても悪魔には見えない」
「……ねぇ、私いつまで乳出してればいい?」
「さぁ……」
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