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第3話 町を出るとそこには……

 フェンの背後には、”物騒な棍棒”を振り上げる男が立っていた。

 あれは”デモリールの棍棒”である。

 触れた物に歪な魔力を流し込み、そいつの魔力量が多ければ多い程、簡単に崩壊させる魔道具である。


 人間ならば、あの程度の棍棒で殴られても大した怪我はない。魔力量が少ないからだ。

 しかし魔獣はそうはいかない。


「おいお前……!!」


 俺は一心不乱に、かの男に突撃した。


 男も、フェンには警戒していただろうに、まさか俺が突っ込んでくるとも思わずに、虚を突かれたままに背後へ倒れ込んで行った。

 男は地面に後頭部を打ち付け、あっという間に伸びてしまった。


「……ったく……なんてもんを使おうとしてやがんだ」


「カナタ様……?! 安静にしてください……!! 私はそのような棍棒に叩かれたって、全然大丈夫ですから……」


「あぁいや、それが大丈夫じゃねぇんだよ……この棍棒はギルドが作ったヤバめの魔道具なんだが……獣人を殺す為の代物で……」


「……やはり人間は恐ろしいですね……」


「んん……すまんな」


 フェンは暗い顔をする。俺は申し訳なくなった。前職とはいえ、元々俺の所属していたギルドで作られた”棍棒(デモリール)”……。俺も棍棒の製造を黙認していた立場だし、何度か使ったこともある。だから申し訳なくなった。


「ですが」


「ん?」


「カナタ様は違います……先程だって、私を助けてくれました」


「あ、あぁ……だから……気まぐれ、だって……」


 ここで意識がふわっと途絶え、俺まで地面に突っ伏した。

 途端に激しく動いたのが良くなかったらしい。


「カナタ様! 大丈夫ですか……? 今すぐにでも病院へ……」


 フェンは俺を抱え上げる。やはりこの怪力は獣人か。尾っぽも獣の耳も見当たらないが、どうにかうまく隠しているのだろう。

 そんな事より問題がある。


「フェン……病院はいい……」

「そ、そんなどうして」

「どうせギルドの奴等が手ぇ回してんだ……何されるか分かったもんじゃねぇ……」


「……そうですか……」

「それより俺をこの町から連れ出してくれ……トロンペの森までで良いから……」


「わかりました! それでは参ります!」



 町を出るとそこには、広大な平原が広がっている。町の外に住む者もいるが、これは大した数はおらず、数キロの間に何軒か小屋が見える程度である。彼らは大きな土地を持ち、ある人は牧場を持ち、ある家は田畑を持っている。


 とはいえこうした人間は多くない。それよりも魔獣の方が非常に多い。魔獣は弱いものほど群れで暮らし、人里からはやや離れた所に居るのが一般的だ。かくいう強い魔獣など、この町の周辺には滅多にいないのだが。


「カナタ様、ご気分は如何でしょうか」


「あぁだいぶマシだ」


 フェンはわざわざ迂回しながらトロンペを目指す。なんせかの森に続く道の途中でギルドの馬を数体見つけたのだ。何をあんなに必死になるのか。

 俺が、ギルドの息がかかってない所まで逃げてしまえば、追放した意味がなくなってしまうと、そう考えたのか。俺は見せしめとして、町の路肩にでも転がっておいて欲しいのだろう。


 しかしそんな思惑通りになるものか。

 俺ははるか遠くまで逃げてやろう。世界は広くて自由なのだ。


「まもなくかの丘を越え、その先にトロンペの森が見えてきます。まだだいぶ遠いですが」

「”レユニオンの丘”か……いつの間にかだいぶ来たんだな」

「カナタ様はだいぶお休みになられていらしたので」


 どうやら思っているより脳にダメージがいっているらしい。まるで記憶にない。後遺症なんて残しやがったらあの獣人野郎ただじゃおかねぇぞ……何が出来るという訳じゃないが。


「フェンは休まなくて良いのか? しばらく走りっぱなしだろ」

「大丈夫ですっ。カナタ様から頂いたお食べ物のおかげで、今も力がみなぎっていますから」

「とはいえ疲れはするだろ」

「ふふ。私は魔獣の中でもすこし特別なんですよ」


「……あぁそう」


 もう日暮れか。夜は弱い魔物は寝静まり、かえって凶悪な夜行性の魔獣が動き出す。ドラゴンだとか、ワイバーンだとか、この地域には生息しておらずとも、これらに類似する魔物ならいくらでもいる。


「どこかで夜を明かしたいんだが」

「夜も進むというのはどうでしょう。例え魔獣がやって来ても振り切れましょう」

「流石にそれはなぁ……」


 フェンは少し考え込む。


「畏まりました。ではこの近くの牧場で夜を明かしましょう」

「牧場か……」

「はい。老夫婦と一人娘の三人家族が管理している牧場で、雨風を凌ぐための納屋ならば、休む場所もあると思います」


 不法侵入だな。とはいえもうブラックリストに載った身……今更どうという事はない。物を盗むだとか、そんな事をするつもりもない。ならばフェンさえ良ければいいだろう。


「さぁこちらへ」


 フェンに先導されながら、月光のみが頼りの暗闇の平原を進む。そうすればやがて牧場やら納屋やらが見えてくるのだ。納屋の明かりは落とされている。人の気配のしない。と、フェンは言う。


「さぁさぁこっちです」


「あぁそうなんだが……この納屋鍵がかかってるな」

「安心してください。壁の板を外せば中に入れますよ」

「軽率に壊すな」

「後ではめれば良いですよ。さぁ入りましょう」


 倫理観がすっかりズレてやがる。助かるが後々痛い目を見るかもしれんな。


「中は、とても広いですね」

「そうだな……が、悠長な事を言ってる場合じゃねぇだろう。早く寝よう」


 牧場主の朝は早い。呑気にぐーすこ寝ていたら、見つかっちまってしょうがない。ならば早寝早起き。いや最早、早寝早起きを超越する必要があるだろう。


 しかし不味い事に気付く。

 俺はさっきまで悠長に寝ていた。今すぐ眠れる感じはしない。


「カナタ様、眠らないのですか?」

「ん……まぁ気にするな」


 フェンはすぅと寝てしまった。なんだかんだと言ってやはり疲れていたのだろう。無理に連れ出し、悪い事をしてしまった。


 ボロボロの靴。泥だらけのドレス。

 急ぎでトロンペの森に向かう為に、よほど無理してくれたらしい。

 どうしてそこまで俺に尽くしてくれるのか。有難いがかえって気まずい。こうした感情を抱いてしまっている事さえ、フェンに失礼に思えて、これまたどうにも気まずい。


「まぁ、どうせもうすぐトロンペだ」


 独り言をぽつりと呟く。

 窓の外はすっかり暗闇だが、この暗闇の先には確かにかの森がある。フェンの足取りならばあと半日もいらないだろう。そうすればこの気まずさともおさらばだ。


 そんな事を考えていた。そうして窓の外を見つめていた。


 この時、いやな光の群れを見つけた。


 馬が数体、ギルドの騎馬隊だ。

 俺が町を出発する時に見つけた奴等。どうやら俺を探して回って、この辺の小屋を虱潰しに回っているらしい。


「まずいな……」


 騎馬は牧場主の家や、羊や馬がしまわれた小屋を手分けして探している。暗闇の中で、いくつかの光がボゥボゥと動いて回っているのだ。


「フェン……起きろ……早く出た方がいい……」


「むにゃ……」


「……どうするか」


 今思えば、何を躊躇する必要があったのかとも思うが、幸せそうに眠る彼女の身体を、そんなに強く揺する気が起きなかった。

 しかしそうこうしている内に、一つの光と一体の騎馬がコチラに迫って来た。


 こいつ等も当然ギルドの手先の者達だ。

 奴らは牧場主から預かった鍵で、ついにこの納屋の扉を開くのだった。

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