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第20話 出発

「ヴィーセ殿。街の者達に何かされましたらば、我らがこの命を持ってお護り致しましょう」

「少し重たいのですが」

「いえ。これまで多くの蛮行を抑止できずにやって参りました……これは我らの贖罪の心です……」


 護るのは憲兵のそもそも仕事なんじゃないのか……? そんな風に口を挟みたくなったが……このシェナレを手前に気が進まない。彼はポロポロと涙を流す。これにルペールが面喰う。


「うぇ? な、何で泣いてんの?」

「貴様らには分かるまい……ヴィーセ様の苦悩が……うぅ」


 一部始終は知っている。あの時のことだ。ラーメンは絶品だったが後味の悪い思い出。あぁしたこと、日常茶飯事だったんだろう。

 だからこそシェナレは、ヴィーセさんに護衛を付けなかった。街の者と関わる機会も出来る限り自分が代わった。買い出しの時にぎょっとしていたのもそれが故かな。


 誰も彼も頼りにならない状態だったに違いない。


「……シェナレ。お前馬車で休んでろ」

「な……馬鹿を言うな……!」

「馬車ぐらい操れる。お前だって流石に眠いんじゃねぇのか?」


「……くだらん気遣いを……」


 強情な奴め……。


「シェナレ。私からもお願いです」

「ヴィーセ様……」

「今はただ休みましょう。この数日間は、貴女の存在をより強く感じる数日間でした……だからこそ、今は休み、これからも末永く傍に居てください」


「ヴィ、ヴィーセ様…………うぅ」


 馬車に戻ってすぐ、シェナレはぐっすりと眠った。ヴィーセさんの胸の中である。羨ましいやら何とやら。

 そんな二人を見つめているとルペールやフェンから返すように睨まれた。そうして俺は一人寂しく御者台に戻った。


 進行スピードは緩やかに、出来る限り揺れぬよう、俺たちの馬車は繁華街を進んだ。

 しかし存外、帰り道の方が短く感じたのだった。


「着きましたよー……って全員寝てんじゃないか」


 馬車の中の薄明り、4人はそれぞれスゥーっと眠りに落ちていた。

 こういう時、俺は起こすのも忍びなく、このまま寝かせておくも忍びない性分……。


「……仕方ねぇ。運ぶかぁ」



 そこから夜が更け、朝が来る前に皆を運び終える。そしてまた夜が更け、朝が来て、また夜が更けるのだ。そうしてとうとう、1週間が経った。


 その頃に、こんな噂話を耳にする。



「ついにプロシェンヌ領にギルドが来る」


 先日の陸竜騒動を受け、ギルド職員を雇い入れる方針を固めた、んだそうだ。

 あの頭の固い、ハイカラ嫌いの”ギルド長(爺さん)”が、よくもまぁ首を縦に振ったもんだ。時代も変わったな。


「んでも、アイツらじゃ陸竜はどうにもできんだろ」

「だよねー」


 ただこの街の心配なんてしてるより、俺たちにはするべきことがあった。


「この街から早く出ねぇとな」

「そうなんだよねー。さみしー」


 俺達は追われる身。ここに居たんじゃややこしい話になる。迷惑を掛けぬ内、次の隠れ家を探さねば。


「ヴィーセさん……何処か良い場所は知らないっすか?」


 こんな事を聞いてみると、ヴィーセさんは少し空を仰ぎ、滔々(とうとう)と語る。


「向かうならば2つでしょう。1つはファーラの谷のさらに西……氷河に住まう”ミー族”達の村『ルオットゥト』……もしくは北東の国境を越えた先の『トレーチヤ』……」


 どちらも世界有数の寒冷地。海さえ凍てつく辺境の領域だ。

 これは過酷な旅になる。それゆえギルドの奴らもやって来ないだろうが。


 「風邪など引かぬよう」と、ヴィーセさんはトナカイ毛のコートを持ってきた。


 これまた上等なコートだ。しっかりとした作りだが決して固くはなく、むしろ肌触りの良いふんわりとした仕上がり。着たって動きにくいことはなく、民族衣装なりの工夫を感じる逸品だ。


「結構高そうなんだけども……本当に良いんすか?」


「はい。しばらく使う予定は無いので。さぁお二方も」


「わーい!」

「ありがとうございます」


「なんでそんな大量に持ってんすか」

「村長さんが良くしてくれて」


 流石の美貌か、人心掌握の弁ゆえか。何とも羨ましい資質である。

 なにせこのように、計算なく高級品を貸してくれるんだからな。


「ともなれば、どっちに行くかって話になるが」


「ご飯がオイシイほうがいいね!」

「そんなモチベで大丈夫か……」

「何言ってのさ! 一番重要でしょ!」


「でしたら『ルオットゥト』の方が宜しいかと。私の紹介と言えば、きっと手荒な事はされませんし、きっと歓迎されますよ」


 そうなのか。そうなのか。ならこんな向かい風の街に住まわず、ルオットゥトに越せばいいのに……そんな野暮ったい事を考える。


「どんなご飯なのー?」

「トナカイ料理が有名ですね。やや獣臭さはありますがオススメです……苦手でしたらサーモンやタラも美味しいですよ」

「獣人だから大丈夫!」


「話が勝手に進んでいる……」

「もートナカイの口になっちゃったから! ウチは『ルオットゥト』に行くからね!」


「……フェン、それで良いか?」

「はい。お二方となら、何処までも」


 フェンは穏やかに微笑んだ。



 ヴィーセとシェナレはこの街に残るという。当然。ただルペールもフェンも寂しそうにして、再出発にもう少し時間がかかる。


「あ。やばい。泣く。泣くわーこれ」

「もう行くぞ」

「ちょっと待ってよ! 薄情もの!」

「うるせー」


「ふふ……皆様、どうかお元気で。特にフェンさん。もう無茶はしないでね」


「は、はい……!」


「おいカナタ、み、土産の一つでも持って来ても構わんぞ……!」

「……? あぁ、気が向いたらな」

「な……!」


「あはは。じゃ~あ、シェナレに似合いそーなかわいーの選んであげるね」

「おい。馬鹿にするなよ」


 北への道は晴天。

 空の気が変わらぬ内にと、俺たちは急ぎ足で北門をくぐった。


 そうしてファーラの谷を進む。


第二章完結です!


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