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第2話 見知らぬ女性が倒れてた

 追放を言い渡された俺だが、路頭に迷っている暇は無かった。今の内に荷物をまとめ、この国を後にせねばならない。これは時を争う事だ。

 そもそも追放されたのはつい先ほどの事。まだブラックリストも行き渡っていない段階だ。今なら町の商店だって利用できる。金はさほどないが、無意味になってしまえば意味がない。



 この町からしばらく歩くと”トロンペの森”がある。深い森で迷うことで有名だ。しかし出現するモンスターは弱い。実っている果実は不味いくて臭いがいやに多い。のであそこまで行ければ死ぬ事はない。


 問題は、あの”トロンペの森”にもギルドの息がかかっているという事。

 早めに到着しなければ、近寄っただけで何をされるか分かったもんじゃない。これもまた、ブラックリストに載る前に事を為さなくてはならない。


 なんにしても飯を買おう。


 缶詰を4つと水を1瓶、森に着くまで歩いて丸2日でその間食いつなげる分だ。加えて魔獣のエサを500グラム、これは何か恐ろしい魔獣に襲われた時に囮に使える。これらを(こしら)え商店を後にした。



 その時、ギルドの奴等が商店を訪ねて来た。丁度入れ違いである。

 狙いは俺か。俺に何も売るなとでも釘を刺そうというのだろう。あいにく一足遅かった。あの下っ端共はあの意地の悪い老いぼれにこっぴどく絞られることだろう。可哀想にざまぁみろ。


「おい旦那。コイツに何か売ったか」


「え? えぇ先程缶詰4つと水1瓶……あとそれと魔物のエサを」


「ちっ」


 店主は余計な事を言いやがった。

 ギルドメンバーならば、”缶詰4つ”で移動距離を逆算できる。魔物のエサも併せて買った事が分かれば、自ずと俺が目指している場所も見当がつくだろう。


「おいどうする? 俺らまでギルド長に大目玉くらうぜ?」

「慌てるな。カナタの野郎はどうせ”トロンペ”向かったんだろぉ。馬に乗って行くぞ」


 ギルドの野郎どもめ。本当に嫌な勘ばかり働く嫌な奴等だ。

 こうしちゃいられない。トロンペ行きの馬車にでも潜り込んで先回りしなくては。


 しかし俺は足を止めた。

 急がなくてはならないこんな状況にも関わらず、俺は嫌なモンを見つけてしまったのだ。


「あれは……」



 路地の奥の方で誰かが倒れ込んでいた。女性だ。歳は俺より少し若いくらいか。銀色の長髪で真っ白な肌をしている。ドレスを身に纏い、育ちは良さそうだ。

 あんな女が、どうして路地で倒れているのか。見るからに関われば厄介ごとに巻き込まれる。それに俺に時間が無い。もう馬車が出てしまう。


「……仕方ねぇな」


 どうにも虫の居所が悪かった。

 あんな所で倒れている女性を、みすみす見逃せなど、そんなのは屑だ。ギルドの奴等と何も変わらない。


「あんた、大丈夫か……缶詰ならあるが……水も一口なら」


 女性を揺すれば、どうやら意識はあったようで、力がイマイチ入らない手を支えに、なんとか起き上がって缶詰を頬張る。

 保存食などちっとも美味しくないだろうが、それでもこの子は旨い旨いと言わんばかりに頬張るのだ。


「腹減ってたんだな……そんなに勢いよく食うと吐いちまうぞ?」


「けほっけほっ……だ、大丈夫です……とても助かりました……」


「ほぉらむせてんじゃないか。水も飲め」


「あ、ありがとうございます……」


 小さな手で瓶を包み込み、ソイツはごくごくと飲み干した。一口のつもりだったんだが……まぁいい。


「本当にありがとうございました……何とお礼をしたらいいのか」

「いやいや……良いんだよ。ただの気まぐれだって」


 恩着せがましいのは苦手だもんで、ただの気まぐれだとか言って適当にはぐらかす。

 それでも女性は気が済まないようで、お礼は何が良いかなど、あーだこーだと聞いて来る。


「わ、悪いんだが……俺ぁ急いでてよぉ……トロンペ行きの馬車に乗らねぇといけねぇんだ」


「トロンペ……というのは、あの”惑いの森”ですか? この時期は霧が深くて立ち入らない方がよろしいかと……」


「あぁそうなんだ……でも今すぐにでも町を出なくちゃならなくてな……」


 そうこう話している時だった。

 馬車乗り場の方から嫌な話声が聞こえて来た。


「おいギルドの者だが……トロンペ行きの馬車だな。中を見せろ」


 横柄な声だ。そして横柄な態度だ。奴らはギルドの野郎ども。俺が馬車に潜り込んでいないかを調べに来たらしい。

 もうすっかり荷積みを終えた馬車をひっくり返さん勢いで物色し、気が済むと”カナタ・アールベットという男を乗せるな”とだけ言って去って行った。


「あーあ……」


 馬車さえ封じられ、俺はどうすれば良いのか。これでは町も出られない。


「あの……あちらの馬車に乗るのでは……?」


 女性はそんな事を言う。

 しかしながらそうも行かなくなってしまった。


「いやぁ実は俺は指名手配中みたいなもんで、こそこそ脱出しようと思ったんだが……できそうもなくなってな」


 女性は目を丸くした。

 ”指名手配中”と、俺は少し自慢げっぽく語った。とくにひけらかすつもりは無かったが、彼女の驚き様にいい気になってしまった。


 しかし女性は驚いた調子のまま、俺の後方に指をさした。


「後ろ!!」


 後ろとは? が、次の瞬間、後頭部を強い力で殴られた。鈍い痛みが走る。意識が遠のき、ふらりと地面に突っ伏した。

 誰に殴られたか、そんな事は簡単に理解できた。どうせギルドの奴等だろう。


「ははは! カナタ~こんな所に隠れてやがったのかぁ!」


「大丈夫ですか……!? なんて事するんですか……!!」


 止せアンタ……。こいつ等ただのゴロツキに見えるがギルドの者共だ……戦闘経験の心得くらい当然のように豊富。ドレスなんて着てさっきまで死にかけてたアンタに勝ち目はない……。


 それに……。


「なぁんだ、このおんなぁ? 退けや」


「よ、止せ……アンタ……そいつぁ”獣人”だ……! 人間じゃ、勝てねぇ」


 ”獣人”とは魔獣の特徴と人間の特徴を併せ持つ”亜人種”である。力が強く、脚が速い、鼻も利くし、強靭な肉体さえ持つ。ただ頭が悪いもんが多くって、社会生活に溶け込める者は少ない……。


 しかしこういう偏った生物にも生きる道はある。

 それが”野蛮な肉体労働”。特にこういう力の加減が必要ない仕事は大得意である。


「オイオイおんなぁ! この町に住んどいて、ギルドの! 獣人の! 恐ろしさってのを知らねぇのかぁ!? どこの温室で育ちやがったこのメロン乳がぁ!!」


 言動が野蛮で野蛮で仕方ない。やはり獣人は頭が悪い。

 しかし実力があるのも間違いない。

 大きく振り上げた手には鋭い鉤爪(かぎづめ)が備わっており、鈍く、どす黒く光っている。あれに突き刺されたなら、どこまで抉れてしまうだろうか。


「……まだ乱暴するんですか」


 こんな事を冷静に言い放つ彼女は、幾分か強者のオーラを纏っている様な、そんな気さえした。

 しかしこれはただの気では留まらない。


「あぁ?!」


 野蛮な獣人が、そんな事を叫びながら吹き飛んだ。

 宙で二度三度と回転して、向かいの商店に突っ込んで行った。


 何が起きたのか。


「まさか……アンタも獣人か……??」


「え……あ……バレてしまいましたか」


 まだ飼いならされていない獣人が居たとは。

 しかしこれは好都合で有難い味方が現れてくれた。


「アンタ名前は……??」


「フェンと呼んでください。ご主人様はなんとお呼びすれば?」


「ご、ごしゅ……カナタでいいよ」


「ではカナタ様でよろしいでしょうか」


「お、おん……それは良いんだが……まだ気を付けろよ。さっきの奴が起き上がって来るかもしれねぇし……何より……」


 周囲はざわざわと騒がしくなる。

 そりゃあそうだろう。路地裏からギルドお抱えの獣人が吹っ飛んで来て、あろう事か商店に突っ込んで行ったんだからな。これ以上騒ぎが大きくなれば……一体どんな刺客が送られてくるか。


 それに、この近くにもう一人居る。


「フェン……!! 警戒しろ……絶対にもう一人いて……いてぇ……」


「カナタ様、まだ動いてはいけません……先程の怪我が……」


 フェンは、一瞬気が俺に向いてしまったらしい。

 彼女の背後には、こん棒を振り上げた男が居た。


「フェン……!!」

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