第11話 陸竜式プロシェンヌ包囲網
「陸竜が街を包囲……そうですか……妙ですね」
「妙?」
「彼らにはそこまでの統率力は無い筈ですが……」
「……まさか」
あの陸竜共はフェンが”包囲のため”に呼び寄せた……しかし本来はシオン小隊を包囲する為の陸竜……まさか何か勘違いして、この街にシオン小隊が居るとでも思っているのか……?
「シェナレ。詳細を」
「は、はい……先刻ロバを捜索しに憲兵団が出街……平原にて族を確認できはしたようですが、そこで陸竜の群れとも遭遇したようで……」
「憲兵が」
「えぇ。彼らは何とかプロシェンヌに帰還出来ましたが、その結果このような状況に……」
「成程……それは不運でしたね……」
間接的にも直接的にも……何かと俺やフェン、ルペールの責務なのがどうにもバツが悪い……。
「あ、あの……この街に陸竜に対抗できるような兵力は?」
「ありません。陸竜の存在は強大です」
「脱出経路の確保は?」
「初めの数人、ないし大勢で一斉に逃げ出せば幾人かは助かるでしょうが……」
「……食糧はどのくらい持つんすか?」
「せいぜい3日……餓死者が出るのは7日後でしょう。あくまで予測ですが……」
7日か……ならば大丈夫にも思う。たしかフェンは、陸竜に、”三日三晩包囲するように”と指示を出したと言う……。
しかしどうだろう。シオン小隊を逃し、命令を失敗した陸竜は元々の指示通りに動いているだろうか……。最悪、”包囲する”という命令だけに従事する可能性もある……。
「……カナタさん。何かご存知の様ですね」
「え……あぁ、まぁ……」
「何?! 貴様カナタ! この厄災は貴様らの……!!」
「ちょ、ちょっと待て! 確かに俺たちにも非はあるが……今、んなこと言ってる場合じゃないだろ」
「……ちっ」
「それに、今の俺じゃあどうにもできない……”フェン”がいないと」
「フェン?」
「そうだ。俺の仲間なんだ。そいつが陸竜を呼び寄せて……」
「な、なんて恐ろしいことを……!」
激昂し俺へと掴みかかるシェナレ。だから俺じゃどうにもできないんだってば……。
「……それで、フェンさんという方は今どこに?」
「あぁ、実は攫われたロバの腹ん中に……」
どうにかロバを取り返しに行きたいが……プロシェンヌから出られないのではそれも出来ない……。
「……族の隠れ家なら目星がついている」
「え! ほんとか!」
「さっき言っただろ……! ちゃんと聞け!」
「どこだ??」
「”ファーラの谷”……この街から更に西へ数十キロ……別名”陸竜の谷”」
「ほ、ほんとか? そんな危険な場所に」
「憲兵団の情報だ。疑う余地はない……しかし……」
そう。”しかし”。族のアジトが分かっていても、陸竜の包囲を抜け出せなければ意味が無い……。
「……では西門へ向かいましょう」
「ヴィ、ヴィーセ様?? 正気ですか?? 西にも当然陸竜が……」
「ワタクシ達の馬ならば問題ありません。それに、この夜の暗闇に紛れれば突破の可能性も跳ね上がる」
「……畏まりました。では案内役は僕が……カナタ行くぞ」
シェナレが二拍。すると馬がやって来る。他の馬と何か違う様には見えないが大丈夫か。いや立派な馬なんだが、それっぽっちで陸竜を掻い潜れるか……。
「さぁお乗りください」
「二人も乗れるんすか?」
「力持ちなので」
「へぇ」
馬で駆け出し数分。歓楽街の道すがらには騒ぎを聞きつけた民衆がわんさか集まり、壁を作っている状態であった。避難民か。しかしあの量はどうしたって陸竜の隙を突けないだろう。
「どいてください! 通ります!」
シェナレがこう呼びかけると民衆は路肩に避けた。彼らのこちらを向く表情は、何とも不安というか焦りというか……。据えた視線だけが馬を見つめている。
「ありゃあヴィーセん所の馬じゃねぇか」
こんな声が聞こえた。どうやら馬種まで特定されているようで……本当に有名人は生きづらそうで。まぁ俺も似たようなものだが。
「まさか逃げる気か」
「高給取りは特別待遇なんだろ」
…………人の気も知らないで、と言いたいところだが……まぁ当然民衆が知る訳もないので仕方がない。
「くそっ……間抜け共が……! 人の気も知らないで……!」
「ま、まぁまぁ……」
一方のシェナレは相変らず機嫌が悪い。俺とコイツとではヴィーセさんへの思い入れも違う。そして彼女への評価も違う。
「奴等め。陸竜を退けた暁には吠え面かかせてやろう……」
「おいおい動機が違って来てねぇか」
「動機などどうでも良い……成果さえ出せば文句はないだろう。奴等はそういう生き物だ。成果さえな……」
「そう、なのか……?」
まぁ何であれモチベーションが高いのはありがたい。
それに見返そうというのには俺も一理ある。
「お前とは何かと気が合いそうだ。シェナレ」
「ふん……」
愛想の悪い奴。
そんな奴との二人旅。俺達はついに西門へと至る。
ここにも当然門番が居て、外の陸竜を非常に警戒している。かえって内側には目を向けていない。
「シェナレ。一気に抜けるぞ」
「あぁ」
馬が駆け出し、さらに加速する。門番も気付くがもう遅い。彼らの制止の声すら振り切るように門を蹴り破り外へと飛び出す。
「前方に2体いるな……」
「まだ気付かれてない……このまま行ける……!!」
この暗闇、あまりにも俺たちへの追い風……陸竜は目が悪いのか?
いやそんな訳がないか。そもそもフェンだって夜の間に呼び出したのだから。
「来るぞ!!」
右の陸竜が前脚を振り上げる。鉤爪は歓楽街の光を浴び、鈍くも光る。悍ましい鋭さだ。あれが刺されば、いったいどれ程の肉が抉れるか。
「掴まれっ!!」
勢いよく振り落とされた掌が地面を砕く。馬は間一髪に左へ避けて直撃を免れる。
しかし飛び散る岩石までもを器用にはかわせない。
「やべぇ……! いくつか飛んで来たぞっ!!」
「問題ない……ことは無いが、問題ないことにする……!!」
シェナレが懐から取り出したるは翡翠色の籠手。これまた立派な防具だが……防具でどうするのか。
「ただの籠手と思うな。ヴィーセ様の自信作だ」
「それ作ったのか? あの人が?」
「あぁそうさ。側面にある機構から強力な風を巻き起こす。岩さえも粉砕する威力だ」
そう言いながら装着した方の腕を岩石へ向ける。それは轟音と共に破壊され、忽ち砂煙に変わる。
……ガジェットの事はよく分からんが、これ程の威力ならば陸竜撃破も望めるのではないか。
「なぁシェナレ。それで陸竜をどうにか……」
「無茶言うな。燃料が足らん」
「……ちなみに、あと何発撃てるんだ?」
「1発」
「……す、スピード上げろ!!」
前方から陸竜の尾っぽが迫る。地面を削りながら接近するその様は、まさに濁流そのものであった。
馬を加速させたばっかりに、尻尾の勢いは何倍にも増長している。様に見える。このままでは泥の混じった挽肉か。
「す、スピード落とせ……!!」
「だから……無茶を言うな……!!」
シェナレが足元に掌底を向ける。
「おらぁ!!」
爆風と共に馬体が宙に舞う。
丁度俺たちが真っ逆さまになった頃に、尻尾が目の前を通過する。非常に危うし。
もう半回転して地面に着地……馬はわずかによろけたが、直ぐに体勢を整える。
「よくやった馬。ただ、これで0発……」
「いや十分だ。もう追って来ない……」
陸竜は、再び利口にプロシェンヌ西門を囲い込んだのだった。
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