最強の一角との出会い
「よし、じゃあ、2人とも、準備はいいか?今から俺たちはレベル上げに大森林リベラガーデンへと行くが、そこで、俺たちがどのくらい戦えるかも把握しておきたい。」
「分かりましたわ、私、昼は苦手ですが、タツヤ様のお力になれるよう尽力いたしますわ。」
「いいわよ!アタシの力、目に焼き付けなさい!」
ダンジョンの入り口は世界樹の根元の他に、大森林にもあるためワープをするためにダンジョンコアに手をかざす。
「よし、じゃあ、出発!」
すると、あたりは一変し、世界樹のある森林よりも、薄暗く、背の低い木が並び、どこか不穏な空気を漂わせている。
「みんな、気をつけろよ。もうどこからモンスターが襲ってきてもおかしくない。」
俺の言葉に空気が緊張感を持ち、雰囲気がピリつく。
あのリルですら、固唾を飲んで、真剣な様子だ。
(来る!!!)
すかさずエウルアは俺を守れるよう前に出る。リルは俺の肩に身を隠すように構えた。
ソレの接近に俺たちは身構える。
すると、どこからともなく、何かが飛来した。その何かは地面に突き刺さり、大きなクレーターを作り、木を薙ぎ倒しあっという間に地形を変えてしまった。
砂煙がはれるとそれは姿を表した、それは成人男性の背丈ほどもある巨大な剣だった。
なぜ剣が飛んできたのか、どこから飛んできたのか、そんなことを考える間もなく。あたり一面に数多の剣が突き刺さる。
その剣たちはまるで元からそこにあったかのように俺たちを囲むように現れた。
その異様な光景に一瞬目を奪わる。そしてそれは姿を現した。巨大な剣はいつのまにか姿を消し、剣があった場所には女性が立っていた。
腰まである桜色の髪、整った顔立ち。20代手前くらいの年齢に見える。何より特徴的なのはその赤い瞳だ。まるでこちらの全てを見据えているかのようだ。
俺はすかさず賢者の瞳を発動し、敵の正体について探ろうとする。
すると、彼女は消えた。
「これ、その眼は止めんか。いきなり我の内側を覗こうとは、無粋だとは思わんか?」
首にひんやりとした殺意が纏わりつく。
「なっ、、。」
彼女の接近に俺たち3人は誰1人として気づくことができなかった。
エウルアが血を右手に集め、後ろに立つ女にその鋭い爪を突き立てようと、振り返り右手を伸ばす。その初動までの時間は1秒にも満たない洗礼された動きだった。
「おい、お前たち2人は動くでない。」
彼女がそういうと、辺りいっぺんを殺気が支配した。
その濃密すぎる殺気に、2人は震え始める。
一瞬の硬直の後、エウルアは唇を強く噛み締め、再び主人である俺を守ろうと動き出す。
「ほう、この中を動くか、だが、無謀だな。」
彼女は再び姿を消し、右手を伸ばすエウルアの背後へと現れる。
横薙ぎの一閃。
もはや目で追うことすらできないその剣技を避けることができるはずもなく。その刹那の瞬間エウルアと目が合う、その目は悔しさ、恐怖を滲ませており、その瞳に何もできず佇む俺を残してエウルアは消えた。
続け様に俺の後ろにいるリルに向けて一閃、その剣は俺を捉えることなく、リルを捉えた。
リルは消えた。
残るは剣の山と、呆然と佇む俺、そして彼女の2人きりだ。
「心配するでない、殺してはおらんよ、今の所はな。」
「アイツらをどこへやった!」
幸い使役しているため繋がりを感じ取ることができ、死んではいないことが確認できた。
「さぁな、お主には関係のないことじゃ。配下がやられとるのに守られるばかりで恐怖に縛られておったお主にはな。」
だが、実際その通りだった。
圧倒的な力の差に動くことすらできなかった。エウルアは身を挺して俺を守ろうとしたのに、俺は手を伸ばすことすらできず立ち竦んでいた。
「それより早う剣を取れ。どれでもいいぞ。」
自分の無力さに嫌気がさし、戦う気になどなれなかった。自分の弱さ、甘さが招いた報いだと思った。ただただ剣の刀身に映る自分が情けなく見えた。
「そんなものか、なら潔く逝け。」
そういい、徐々に俺の元へと近づいてくる。
「じゃが、逝く前に主の配下を我に譲れ。コマンドを用いて、殺し合わせるのもまた一興よのう。」
その言葉に、俺はハッとさせられる。生前にもテイムした魔物をまるで物でも扱うかのように酷い扱いをしていたテイマーがいた。
俺は配下達を家族のように慕っていたということもあり。それは激しく俺を苛立たせた。
自然と周りにあった剣の一つを手に取り、力強く握りしめる。2度と家族を失いたくない。その決意を瞳に、剣を正面へ構える。
「足掻くか。か弱き主人よ!。」
再び彼女の威圧感が当たりを支配する。
《スキル【鋼鉄の意志】を獲得。スキル【恐怖耐性】を獲得。スキル【精神統一】を獲得。スキル、、、、》
システムの音声が聞こえる。何やら幾つかのスキルを獲得したようだが。そんなものもはや頭にない。
あるのはただ一つ、2人を取り戻す。その想いだけだ。
剣を構える俺に向けて彼女は剣を横に振るう。
瞬間、身体中を悪寒が襲う。手に持つ剣に力を込めて、来たる何かに剣を構える。
途端に俺の持つ剣に何かが衝突し弾かれる。
ガキン!!
きたる追撃に備え、周囲に突き刺さる剣の一つを再び手に取る。
「ほぅ、見えていたのか?それともただの勘か?それにお主、、」
そう言い終える前に、彼女は動き出す。
しかし今度は見逃さない、彼女の動きに合わせ動線をなぞるように赤い線が見える。
(来る!!)
彼女の追撃に合わせ、剣で受ける。
「がっ!、、、、」
うめき声のようなものが口をついて出る。力の差により俺は吹き飛ばされる。
「やはり、お主良い眼を持っておるな。じゃが、持ち主がこの程度では、宝の持ち腐れよのう。」
そういい、吹き飛ばされた俺へと歩を進めてくる。
やはり、敵うはずもなく、吹き飛ばされた衝撃で体が悲鳴をあげている。
「立て。もう一度。」
彼女は、俺が立ち上がり、再び剣を構えるのを待つ。
すると彼女はまた。赤い筋だけを残し俺に迫る。
やはりまた、剣で受けるが、吹き飛ばされる。
「もう一度。」
「もう一度。、、もう一度、、、、、、。」
何度も何度も俺は彼女の剣を受け続け、吹き飛ばされる。すると繰り返される動きの中で、ついに彼女の剣を受け流すことに成功した。
すると彼女は、その反動に身を任せ、体を回転させ縦の一閃を、俺の頭目掛け剣を振りかざす。
俺はその一閃を剣を頭上に構え、斜め下へと受け流した。しかし彼女は再び回し蹴りで追撃を行う。
俺は受けきれず再び吹き飛ばされるが、今度は倒れなかった。
彼女の綺麗な白い頬が若干の赤みを帯びて、微笑を浮かべている。
すると彼女はあろうことか、その手に持つ剣を俺へと投げつけてくる。彼女の力で投げつけられる剣はとてつもない速さで俺へと迫るが。その軌道を俺は眼で捉える。
その軌道は俺の顔目掛け一直線に迫る。間一髪、首を傾けることでそれを交わすが、頬に一筋の血が垂れる。
避けたのも束の間、投げつけられた剣は彼女へとその姿を変える。
バキバキッ!
剣の通るはずだった軌道である、俺の背後にあった大木を踏み台にし、彼女は再び俺へと跳躍する。
(やっぱりだ、たまに彼女の軌道の道筋が、見えなくなる時があったが、彼女は移動しているんじゃない!)
おそらく彼女は、何かしらの能力で剣の位置と自分の位置を入れ替える、もしくは、剣の位置を座標とし、瞬間移動することができるようだ。
おそらく、最初に飛来してきた時も、その力を使い高速移動をしてきたのだろう。
彼女は空中を飛ぶように俺へと直進してくる。
空中ならこれ以上の機動の変化はないだろう。
そう考え、彼女の残す赤い筋に合わせ剣を這わせる。
すれ違いざまの互いの一閃。俺の手に持つ剣は刃を失いたく、剣先はどこかへ弾かれる。
俺は力無くその場へ倒れ込んだ。
「いいだろう、合格だ。」
彼女はそう言い、俺の反撃によって切れた、桜色の毛先を指でなぞった。
俺の意識はそこで途切れた。