Motherとの邂逅
転移は意外と呆気なく終わった。一瞬浮遊感を感じたが、体にはなんの異変も見られずエレベーターにでも乗ってるような感じだった。
しかし、転移先は異質この一言に尽きる。そこにはまるで無限のような空間が広がっており、地面というには違和感を感じ得ない水面のような床が広がり、地面にはいくつもの波紋が広がっている。
それはまるで互いに共鳴し合っているかのようで、この場に足をつけていられることに不安を感じた。そして、その空間の静寂は紙の端に指を這わせているかのような嫌な緊張感に覆われている。
「アンタいつまでそこに突っ立てるつもり?Motherの御前よ」
そう言って元から小さい体をさらに縮こませ、膝をつき俯くリルの姿に先ほどのようなおちゃらけた雰囲気なく、その小さな姿とは正反対の、大人のような雰囲気を感じる。
リルが敬意を表す姿勢のその先にはなんの姿も見えないが突如として音もなく、ルービックキューブのような正四面体の無機物な物体が現れた。
大きさは軽自動車くらいはあり、その見た目から感じる質量とは反対に空中に浮いており、さらに、その一つ一つのブロックは絶え間なく移動を繰り返していて、生きているかのようにも感じられる。
『大丈夫よ、そのままで。』
突如として空間に声が響く。それはどことなくシステムの声と似ているが、妙齢の女性を感じさせるような声だ。
『いきなりこのようなところに連れてこられて、困惑してるわよね、ごめんなさい。』
そう謝るMotherからは本当に感情を感じさせるかのような誠意を感じられた。
「いや、それよりもいくつか聞きたいことがあるんだが、いいだろうか?」
「アンタねMotherに挨拶もなしに、無礼な態度はやめなさいよ!」
自分の置かれた状況を一刻も早く把握するために、気持ちがはやり、礼節を忘れてしまい、リルに怒られてしまうが、答えが目の前にあるかもしれないと思うと、感情の昂りを抑えることはできなかった。
『ええ、アナタ、いや、、竜也様のことは記憶を読ませていただいた際に把握しております。』
「なら!一体これは!?、、。なぜ俺はここにいるんだ!?それに仲間たちはどうなった!もう分からないことだらけなんだ。俺は死んだんじゃないのか、、、。」
Motherの自分を知っているという言葉に被せ気味に言葉を放つ。口をついて出た言葉は助けを求めるかのように苦痛がこもっており、だんだんと力なくしぼんでいった。
『はい、竜也様の置かれた状況について少しは心当たりがあります。』
「なら!!!」
全てを教えて欲しい、そう思った。
『私はソレをお伝えすることはできません。』
「何故だ!!お前も関わっているのか!?それともケンか!」
目の前に答えに繋がる何かがあるはずなのに、それを知ることができない。その状況に怒りすら込み上げてきてしまい。乱暴な言い方になってしまう。
『申し訳ございませんが。私からは何もお伝えすることはできません。ただ、それを知るための方法ならお伝えすることができます。しかし、、』
「なんだ!俺はどうすればいい!!?」
Motherが言い終わる前に言葉を被せてしまう。
『それは竜也様自身がこれから、この世界で冒険をする過程の中、$€°%○$で得ることができます。』
「何を言っているんだ!」
Motherの言葉は肝心な箇所が聞き取れず、理解することができなかった。
『申し訳ございません、やはり直接的な助言はできないようです。ですが、この世界で冒険をすることで得られる何かがあるでしょう。そしてそれはきっと竜也様の願うものへと導いてくれるはずです。』
「なら、俺のかつての仲間たちは、どうなったんだ!!?」
当然ここは過去であり、まだかつて使役していた仲間たちとは出会う前であり、その存在すら明確にあるとは言えないが、自身がここにいるなら、かつての仲間たちも、もしかしたら、、、。
そんな願いを込め、諦め切ることができず、聞いてしまう。もし「いない」と言われればきっと竜也は何もかも諦めてしまう。そう自身で感じているのにも関わらず、聞いてしまった。
『竜也様の力の破片たちですね、その方達はこの世界に存在しています、しかし竜也様がこの世界に来られた瞬間に各地へと、竜也様の力の残滓と共に散っていきました。おそらくはかつての力、記憶、形とは違う形での再会とはなってしまうと思いますが、その存在は確実にあります。』