チュートリアル終了
《警告、強大な存在の接近を感知、今すぐこの場を離れることを推奨します》
(なんだ!?こんな警告、今までゲーム内で聞いたことないぞ!、それに逃げるったってどうやって、どこに逃げればいんだ!)
ホーンラビットにすらギリギリの戦いを繰り広げ、ましてやチュートリアル終了直後、職業選択も終わっていない、そんな中またしても窮地に追い込まれる状況に半ばうんざりし、諦めかけた時、ゴウッ!と風が唸り、何かがこちらに向かい飛んでくる、その風圧に周りの木々が揺れその強大な存在はついに男の前に姿を現した。
「ちょっと、ちょっとーー!!アンタなんでこんなとこにいるわけ!?まだサービス開始してないわよー!!」
そういい目の前で俺を指差し、プンプンと頬を膨らまし2対の半透明な羽を揺らしながら怒っているのは、漆黒のドレスに身を包み、両耳には真っ赤なイヤリングを付けた、ツインテールの俺の顔より少し大きいくらいの妖精?だった。
「え?、強大な存在?さん、、、ですか?」
どう見ても強大な存在とはかけ離れた愛くるしい見た目に疑問を抱きそんな言葉を呟いてしまう。
「あら、よく分かってるじゃないアンタ、見る目あるわよ。けどアタシにもちゃんと名前があるわ、リルよ。しっかりと覚えておきなさい。」
あまりそのようには見えないが、システムが言うのだから間違いないのだろう。それに俺の言葉に気をよくしたのか目の前の妖精は先ほどよりも忙しなく羽をバタつかせている。
(まぁ、下手に刺激するよりはいいか、、。)
「話を戻すけど、アンタ何者?まだプレイヤーはこのゲームにログインできないはずなんだけど、なんでアンタはここにいるわけ?」
「それが、俺もよくわからない、死んだと思ったらこの森の中にいた。それにこのゲーム、まだサービス開始してないってどういうことだ?」
「アンタ何言ってるの?薬でもキメてんじゃないの?このゲームCastle Frontierは約2時間後にサービスを開始する予定なの、それなのにアンタがこんなとこにいるし、エラーコードが大量に送られてくるから、MotherSystemから私が派遣されたってわけ!」
Mother Systemのことはよく知っている、俺とケンがこのゲームに組み込んだAIだからだ。それに引っかかるところはそこだけではない。
「ちょっと待ってくれ、今日の日付を教えてくれ、もちろん外の世界のものだ。もしかして2406年7月31日か?」
「合ってるわ、何よ、知ってるならいちいち聞いてこないでよね。」
(嘘だろ、信じられない、、。いや、ありえない。)
この日付だけは忘れられない、その日付は俺の誕生日であり、俺がケンとこのゲームを作り世界に発信した日だからだ。つまり。
(ここは、サービス開始前の過去のゲームの中なのか!?)
あまりの出来事に眩暈を覚え、ふらついて近くの木にもたれる。
「ちょっと、アンタ大丈夫?まさかほんとに薬でもやってるんじゃないでしょうね?、それよりアタシはアンタをMotherのところまで連れて行かなきゃいけないの。ほら、行くわよ。」
そういいリルが指をパチンと鳴らすと、地面に2人が入れるくらいの光る円が現れる。
「早く乗りなさいよ、アタシだって忙しいのに、Motherに言われて仕方なくアンタを迎えにきてあげてるんだから。」
そういい、俺の背中を押してくる。
「分かった、もう大丈夫だから、押すのをやめてくれ。」
まだ全てに納得したわけではないが、とりあえずMotherに会いにいくことを決めた。
(Motherなら何か知っているだろうか?)
そんな自分の置かれた状況を何かMotherなら知っているかもしれない、そんな期待を胸に円に乗る。
「じゃあ、行くわよーーー!」
パチン!再びリルが指を鳴らすと世界が暗転した。