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プロローグ~全ての始まり~

 ピピ!ピピッ!ピピピーーー!!


 耳障りな脳を覚醒させるための電子音が俺を起こそうとする。その部屋に俺を起こそうとする他のものはいない。ゲームをするための機械、パソコン、机、ベット、必要最低限のものしかない無機質な部屋に快適な睡眠を阻害する雑音が響く。


「――ん、あぁ、朝か、、。」


 俺を起こしてもなお響く雑音を少しの苛立ちが混ざった目を向けて男はアラームを止めるため、手を伸ばした。


 (5時間か、、。こんなに熟睡したのはいつぶりだ?心なしか体も軽い気がするな、、。)


 三徹上がりだった俺には5時間の睡眠すらもよく寝れたと思う時間だ。


 トイレを済ませ、髭を剃り、歯を磨き、外に出るために必要なことをあらかたすませ、仕事に向かうため家を出る。


「行ってきます」


 俺はゲーム機がある部屋の方向に目をやりそう呟いた、当然なんの返事もないが、俺はコレを日課にしていた。一見すると不可解な行動だが、俺にとってこの行為はとても大切だった。仕事に向かう道中、至るところで広告が流れている。画面の奥でヌルヌルと二次元の可愛らしい女の子が動き、音楽や映像と共に笑顔で喋っている。


「みんな!おっはよーー!!みんなは

Castle FrontierっていうVRMMORPG知ってるー?プレイヤーって呼ばれてるみんながゲームの世界で職業を持ったり、魔物を倒したり、魔物と共に戦う、五感全てを使って遊べる体験型のゲームだよ!当然みんな知ってるよね!!!だって今や何百万という人口がプレイする大人気ゲームだもんね!そして!なんと!!そのゲームを作った開発者の神木竜也さんが今日!誕生日なんだよ!!だから今日はCastle Frontier内で特別なプレゼントが配られるよ!みんなも絶対ログインして、特別な報酬をゲットしようね!♪」


 (そういえば、今日か。)


 自分の誕生日のことすら意識の外に追いやってしまっていた、最近の忙しすぎる日々を思い出し、わずかな苦笑がこぼれる。


 (いつのまにか29歳か、、。最後に誕生日祝ってもらったのいつだっけ、、?確かケンと徹夜しながら迎えたこともあったな。)


 そんな何年前かも覚えていない朧げな記憶に想いをはせ、口元を緩ませた。


 そんなことを考えているうちに会社に着いた。そしていつものように社長室兼自身の作業場へと向かう。


 先日やり残した作業を終わらすためパソコンを起動させたその時、ノックの音が部屋に響いた。


「竜也入っていいか?」

「ああ、大丈夫だ」


 そう言い入ってきたのは副社長であり、ともにこの会社を立ち上げた親友とも呼べる数少ない友人の1人である井口賢哉だ。


「竜也、誕生日おめでとう、この数年会社の成長のために時間を費やし、以前のようにお祝いなんてできていなかっただろ。」


 そういい片手にもったケーキを、ひょいと持ち上げ笑顔で話しかけてくる。


「ケン、すまないな、お前にはいつも苦労をかけているのに、誕生日のお祝いだなんて、ケーキなんて持ってお祝いしてれるなんていつ以来だ。ほんとにありがとうな。」


「水臭いな、社長のサポートをするのなんて当たり前だろ、それに、喜ぶにはまだ早いぞ、今日は他にもプレゼントを用意してある。」


 見たところケーキの他に持っているものなんてなさそうだが、ケンは昔から計画を練るのが得意で賢い奴だから他にも何かこのあとサプライズがあるのだろう。


「それは楽しみだが、あまり部屋を汚すようなサプライズは勘弁してくれよ。」


 そういい微笑んでみせた。


「ああ、きっと驚くと思うぞ。」


 そういい微笑むケンの瞳はなぜだかあまり笑っていないようだった。そんなケンに対する違和感を気のせいだと思うことにして、ケンがくれたケーキを食べる。


「甘いものなんていつぶりだ、たまに食べるのも悪くないな。」


「だろ、そのケーキ実は特別製でな、仕上げにコレを入れといたんだ。」


 そういい何かしらの液が入った小瓶をポケットから取り出し、プラプラと顔の横で振っている。


 その液の正体はパッと見ただけでは分からなかったが、すぐに異変に気づいた。視界がぼやけ始め体に痺れが生じ始めた。


「ケン、なんの冗談だ」


「冗談?これが冗談だと思うか?!僕はなもうウンザリなんだよ、お前と出会ってから僕はずっと2番手だ!学生の時もそうだ!一緒に応募したプログラミングの大会だってお前が僕から1番を奪った。これはその復讐だ、お前がいなくなれば僕はこの会社のトップに立ちお前と出会う前にそうであったようにまた1番だ!ちなみにその毒は特別製でな、毒を服用した者が死ぬと体内で変化し、解剖の際になんの痕跡も残らない優れものだ。」


「そんなことのために、なんで、、、」


 心臓の筋肉が止まりかけているのか、呼吸がしづらい、酸欠のような状態の中、狂ったような笑顔を向けるケンに問いかける。


「そんなこと!?そんなことだと!!お前には分からないだろ!お前にとってそうでも、僕の家がそれを許さなかった!お前が僕から1番を奪っていくたびに折檻と称した虐待が始まった!家族のいないお前には分からないだろ、認めて欲しい人から関心が消えていき、愛して欲しい人から叩かれ叱られる。その辛さがお前に分かってたまるか!今だって、、、、」


 もうほとんど体の自由も失い、視界もぼやけている、呼吸ができているのかすらも分からない、それなのに、不思議と憎しみの感情が強く伝わってくる、だがそれ以上に悲しみの感情が強くその声色から伝わった。


 (あぁ、そうだったんだな、思えば俺はケンからもらってばかりの人生だった、)


 プログラミングに興味を持ち始めたのもケンが教えてくれたからだ。それに家族のいない俺にとって親友とも呼べるケンとの時間は満たされるものばかりだった。


 何をするにしてもケンは俺に真剣にぶつかってきた、そんなケンの姿勢に負けじと俺も真剣な姿勢で返していた。


 (ケンは俺のことをいつも真剣に見ていてくれたのに、俺はそんなケンのことをちゃんと見てあげれていなかったんだな、。)


 薄れる意識の中、自然と言葉が溢れる。


「ごめ、ん、、な、、、、。」


 不思議と憎しみの感情は湧いてこなかった、あるのはただ後悔だけだった。


「おま、、、、、な、、、さい、、、、、、い、も、、、、。」


 まだ何かケンは俺に何かを叫んでいる。


 (なんでお前が泣いてんだよ、、ごめんな、、もう何いってるかわかんねぇよ。本当に今までありがとな。)


 その瞬間、世界は暗転した。


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