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麗しきレディ・ドルリスへの依頼 ~魔法猫の女王は気ままに推理する~  作者: ゆめあき千路
第三章 女王の玉座は狙われる

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その二十三:女王の怒りの鉄槌とは

「あの……。わたしは、帰らなくちゃ……」

「ん? ルビーさん、お家に帰るの?」

「あら、どのあたりにお住まいなの?」


 ノワとレディ・エルデリットも聞きたそうだ。


 だが、ちがうのだ。

 ルビーに帰る家は無い。


 だって、この街の端っこの公園で野宿してるから。

 そこにはレディ・クラリッサが待っているから――。


「帰らないと、――母猫(はは)が怒るんです」


 ようやっとそう言って、ルビーは女王陛下から顔をそらしてうつむいた。


 こんなことを言って良いのだろうか。 


 とにかくいちど帰らなければ――あとで探し出されて、どんなひどい目に遭わされるかわかったもんじゃない。

 レディ・クラリッサは魔法に長けている。どうあがいても逃げ切れないのだ。


 ルビーといっしょにいたノワだって何をされるか……。


 女王陛下にいえば、助けてもらえるのだろうか……?


「あの、わたし……」

「なにかつらい事情がおありなのね」


 どうしてそれを?


「ルビーさん、あなた、さきほどから、ずっと泣きそうな顔をしていますのよ。いまにも涙がこぼれそう」

「あの……」


 ルビーが何か言う前に女王は、「レディ・エルデリット!」とするどく呼んだ。


「はい、陛下!」

「あなたとルビーさんはことが落ち着くまでここに(とど)まりなさい。この(やしき)から一歩も出てはなりませんよ」

「承知いたしました」


 レディ・エルデリットが軽く頭をさげた。

 ノワは、ん? と首をかしげてる。


「レディ・ドルリス、どうしてエルデおばさんはお外に出ちゃダメなんですか?」

「危険だからですわ。ノワさんも、わたくしが良いと言うまでご町内のパトロールは中止です。いいですわね。その代わり、このお家の中ならどこでも自由に、ルビーさんといっしょに過ごしていてかまいませんから」

「はい、了解です!」


 ノワはビシッと猫の正座をして返事するや、ルビーの左側にピタッとくっついた。


 ルビーは右にレディ・エルデリット、左はノワに挟まれて、ほかほか暖かくなった。


「あの、女王陛下、これは……」

「ルビーさん。あなたはさっきからずっと、育ててくれた母猫のことを考えていたのでしょう?」


 どうしてわかったのだろう。


「あなたの育ての親猫(おや)なるレディ・クラリッサというものですが、あまり心根の良い方ではなさそうね。娘猫のあなたにそんな顔をさせるのですもの」


 ルビーはとうとう泣き出した。

 レディ・エルデリットが「だいじょうぶよ。ここには怖いことはなにもありませんからね」となぐさめている。

 ノワもルビーの左側を一所懸命毛づくろいしてくれている。


「でも、わたしがここにいたら、きっと母猫が来ます。わたしはどうしたら……?」

「ほほ、ルビーさんはどうしなくてもいいのですわ。もしもレディ・クラリッサとやらが来ようと、わたくしに悪意あらば、この邸の敷地にはけっして入れませんもの」

「え?」


 遠くの空で、ゴロゴロとカミナリが鳴った。


 なんだかサンルームから見える外の景色が暗くなってきた。

 夕暮れにはまだ遠い時間なのに……。


「ここは我が縄張り故に、魔法猫の女王の聖地。女王への悪しき敵意を持ちながら踏み込むものあらば、その者にはすみやかに〈女王の怒りの鉄槌〉がくだされるのです」

「なんですか、それは?」


 ノワが訊ねた。


「天による審判(しんぱん)ですわ。もしもわたくしに対して悪しき敵意を持つ者が、我が聖地に一歩でも足を踏み入れたなら――」


 とつぜん、サンルームがふっと暗くなった。


「一天にわかにかき曇り、灰色の雷雲がとどろいて」


 レディ・ドルリスの言葉に会わせるかのように、急速にあたりが濃い灰色の(かすみ)が降りたごとく薄暗くなり――。


「あれ? なんだろ?」


 ノワは耳をぴくぴくさせた。

 つぎに聞こえたカミナリは、さっきよりははっきりと、ノワたちの頭上で鳴っていた。


「なんでカミナリが? 今日は一日中良いお天気のはず……?」


 魔法猫はおヒゲに感じる湿気の加減で、その日一日のお天気がわかるのだ。


 お天気が急変しても、女王陛下の説明はふつうにつづいていた。


「その者はわたくしのもとへたどりつくまえに、神の怒りの(こぶし)たる雷鎚(いかづち)に撃たれるのです」


 外がピカッと光った刹那、


 グワラガラッ、ドッ、カッーンッッッ!!!


 目も眩む黄金色の光がサンルームを貫いて満ちあふれ、爆発かとまごう轟音が、サンルームの壁と天井を地震のようにグラグラ揺らした。


「うひゃッ!?」


 ノワは首を引っ込め、ルビーはびっくりして跳ねとんでいた。

 いまの雷はものすごく近かった。

 信じがたいが、落雷したのはサンルームから半径10メートル以内だと思われた。


「これ、このように、神の怒りの鉄拳制裁である雷鎚が、そのものへとまっすぐにくだされるのです」

「あー、あっちになんか煙があがってる!」


 ノワは南側のガラスの壁に近づいた。

 細い煙はキラキラッと光ると、すぐに上がらなくなった。

 

「まあ。この庭の裏木戸があるほうですわね。もしやこっそり入って来た来訪者でもいたのかしら」


 女王はそちらをちらっと見ただけだった。


「さすがですわ、陛下。さっそく天罰がくだされたのですね」


 レディ・エルデリットが冷静に判じた。


「なに、なんなのいまのは!?」


 全身の毛を逆立てプルプル震えているルビーへ、レディ・エルデリットが優しく鼻先をすりよせた。


「なんでもありませんよ。いまのが〈魔法猫の女王の怒りの鉄槌〉でそれが落とされただけのことです」

「ででで、でも、すごいカミナリが、この近くに落ちて……!?」

「だいじょうぶですわ、ルビーさん。〈魔法猫の女王の怒りの鉄槌〉は悪しき者だけを狙い撃ちしますので、ほかに被害は一切ありません。あの煙も、すでに魔法で完全に鎮火(ちんか)ずみです」


 女王陛下が力強く断言した。



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