表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
麗しきレディ・ドルリスへの依頼 ~魔法猫の女王は気ままに推理する~  作者: ゆめあき千路
第三章 女王の玉座は狙われる

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/39

その二十一:女王の謁見

「ようこそお越しくださいました。お待ち申し上げておりましたわ、ルビーさん」


 ルビーは急いで前足をそろえ、お尻を落としてきちんとお座りした。

――この方が女王陛下……。


 ノワさんとはぜんぜん似ていないわ。

 さっきからノワは女王陛下のことをレディ・ドルリスと呼んでいる。親しいようだが、やはり女王の息子というのは本当ではないのだろう。


「ノワさんからお話を聞いて、お会いしたいと思っていましたのよ。なかなか謁見にいらっしゃらないから、ノワさんに連れてくるようにいいましたの」

「お初にお目にかかります。女王陛下(ヴォートル・マジェステ)


 ルビーは左前足を少し引きしとやかに頭を下げた。


「まあ、いまどき珍しく礼儀正しい方だこと。その奥ゆかしい宮廷風のお作法は、どなたに習われたのでしょう?」


――お声を掛けられたら、顔を上げて良いのよね。

 ルビーは前足をそろえ直し、女王を見上げた。問われたことに答えようとして……。


「それは母が……」


 途中で口をつぐんだ。


 言えない。

 母猫レディ・クラリッサがルビーに対して、どんな(しつけ)をしてきたかなんて。


 初めて会った魔法猫の女王様に、それもこんなに上品で優しそうな方へ、長年ルビーが受けてきたむごい仕打ちなど説明できない。


 よしんばいま、女王陛下に長年の虐待を訴えることができたとしても、もしもレディ・クラリッサがここへ現れたら……。外面だけは完璧な母猫なのだ。ルビーがどう訴えても、口先でうまく取り(つくろ)われるだろう。


 最悪な場合、レディ・クラリッサの性格が悪いのではなく、ルビーの頭がおかしいと思われるかも知れない……。


 恐ろしくずる賢く頭が回り、魔法に長けた〈魔法猫〉レディ・クラリッサ。見目もけっして悪くはない。おとなしやかにしていれば、淑女猫にも見えように。……なぜあんな(すさ)んだ野良猫暮らしを好むのか。


 ルビーにはまったく理解できない。レディ・クラリッサの頭がおかしいとしか思えない。悲しいかな、自分はその娘猫なのだ……。


「あれぇ? ルビーさんうつむいちゃって、どうしたの?」


 右横のノワが不思議そうにルビーの顔を覗き込む。

 ノワにも知られたくない。いかにルビーが惨めで残酷な境遇にあるのかは……。


「あの……母に(しつけ)けられましたの」


 それだけ言って、またうつむいた。


「そう。子猫の教育に熱心なおかあさまですのね」


 魔法猫の女王レディ・ドルリスはやさしく言った。


「お顔をあげてくださいな、ルビーさん」

「はい」


 ルビーはまっすぐ女王を見上げた。


「ほら、わたくしの言ったとおりでしょう、ノワさん」


 ノワが、ん?と首を傾げている。


「ルビーさんの瞳の色ですわ」

「あー、ほんとだ! ルビーさんの目は今日は赤いんだね!」


 ルビーはギョッとした。

 目の色を変えるのを忘れていた。


――やーい、猫のくせにウサギみたいな目のウサギ猫やーい!


 記憶の底から嫌な思い出が湧き上がる。


「あ、あの、これは……」


 ノワにだけはイヤなことを言われたくな……!


「とってもきれいだ! 昨日はどうしてオレンジ色だったの?」


 ルビーが答えられないでいると、女王がホホホと笑った。


「ノワさん、それはオシャレの魔法ですわ。その日の気分で目の色を変える方もいらっしゃいますのよ」

「へえ~、そうなの? ルビーさんはオシャレなんだね!」


 ルビーは緊張が抜けて、右後ろ足がヘチョッと横へはみ出した。

 なんというシンプルな思考!

 ノワさんは単純すぎるわ。いつか悪い雌猫(メスネコ)にコロッと騙されるかも。


「ところでルビーさん」

「はいッ!」


 女王陛下に呼ばれたルビーは、ピシッと背筋をまっすぐにした。


「ルビーさんをここへお呼びしたのはほかでもありません。その瞳の色でお訊きしたいことがあるのです」

「わたくしの目でございますか?……なにか悪いことでも?」


 ルビーは体が小刻みに震えた。母猫レディクラリッサには似ていない赤い瞳。会ったことも無い父猫に似ているのだと思っていたけど、ちがうのだろうか。


 この珍しい色の瞳を持つルビーには、魔法猫の女王陛下直々に問われるような、恐ろしい問題があるのだろうか?


「まあ、そんなに畏まらなくてもよろしくてよ。その瞳の色の由来をご存じかしら?」

「え? いいえ、わたくしは……父を知らないのですが、父に似ているのだと思っていました」


「それは母方の遺伝なのですわ。母系遺伝といって、母から娘だけに代々伝わってゆく特徴なのです」

「え?」


 女王陛下はたしかに「母から娘だけに」と言った。


 意味はわかった。

 だからこそ、ルビーは混乱した。


 だって、母猫クラリッサの目は緑だ。目の色を魔法で変えていることもなく。


 なにか恐ろしい予感がして、ルビーは体を固まらせた。

 女王陛下はじっとルビーのことを見つめている。

 もっと詳しく、母系遺伝のことを聞きたいのに、口がうまく動かせない。


「レディ・ドルリス、ルビーさんが母系遺伝って、なんですか?」


 ルビーの緊張を知らないノワが、あっさり訊ねてくれた。


「ルビーさんの赤い瞳ですわ。その特徴的な赤い瞳は、父猫がどんな猫種であろうと、母猫からその直系の娘猫だけに伝えられてゆく身体的特徴なのです。つまり、ルビーさんの赤い瞳こそ、実のおかあさまから受け継いだ母子の(きずな)(あかし)なのですわ」

「え?」


 ルビーは言い知れぬ不安に、背中がぞわぞわした。


「あの、でも……わたくしの母の目は、緑色で……」


 そう、レディ・クラリッサの目は緑色。明るいペリドットグリーンの宝石のような瞳は、彼女の自慢のタネで……。


「では、ルビーさんのおかあさまは、ルビーさんとは瞳の色がまったくちがうのですね」

「はい」


 ルビーは素直に返事した。


「それはそうでしょうとも。その方はあなたを生んだ実の母猫ではないからですよ」

「え?」


 ルビーの思考はいいかげん混乱していた。


 レディ・クラリッサはルビーの母猫ではない? 女王陛下の言っているのはそういうことだ。

 ルビーはそれらをけんめいに理解しようと努力したがうまくいかず、ただ女王陛下の次の言葉を待つしかなかった。


 女王陛下は二、三度まばたきして左へ顔を向けた。


「レディ・エルデリット、いかがかしら?」


 女王の玉座の左、そこに脇侍(わきじ)さながらに座している淡い三毛の淑女猫は、軽く伏せていた目を開けた。あざやかな赤い瞳がルビーを優しく見つめる。


「あ……」


 ルビーと視線が遭った。ルビーと同じあざやかな真紅の目から、涙があふれてポロリとこぼれた。


「よく生きて……こんなに大きくなって……」


 レディ・エルデリットは右の前足で顔をさっと(ぬぐ)った。


「はい、陛下。姿も匂いも、なによりあの赤い瞳は、わたくしの娘にまちがいありません。あのとき生んだ五つ子のうちにはルビーさんにうり二つの子がいますわ」


 女王陛下は「やはりそうですのね」と感慨深くうなずいた。


「ルビーさん。こちらのレディ・エルデリットが、あなたの本当のおかあさまですよ」

「ええッ!?」


 驚きの声をあげたのは、ノワだった。

 ルビーは驚きすぎて、声も出なかった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ