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麗しきレディ・ドルリスへの依頼 ~魔法猫の女王は気ままに推理する~  作者: ゆめあき千路
第三章 女王の玉座は狙われる

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その二十:出会いのとき

「あー、よく寝たわ」


 朝の顔洗いを終えたレディ・クラリッサがゴロゴロ喉を鳴らしている。

 どうやら機嫌は良いようだ。


 ルビーは緊張をゆるめた。これで美味しい朝食でも当たれば、昨日のノワのことは忘れてくれるかも知れない。


 さっそく朝食探しに行こう。

 うまくすれば、途中でノワにばったり会えるかも知れな……。


「いいことを思いついたわ。ルビーや」


 猫撫で声で呼ばれた。

 ろくでもない前兆だ。


「なんでしょう、おかあさま」

「女王の息子と知り合ったのよね」


「ええ……。でも、通りすがりの子猫の言うことですし、本気にしない方がよろしいわ」

「黒猫で、名前はノワ。女王が手元に置いて育てているなら、あの黒猫種(くろねこしゅ)かもしれないわ。あんた、その子をここへつれていらっしゃい」


「なぜですの。ただの子猫ですわ」


 黒猫種ってなんだろう。


 レディ・クラリッサはいろんな事を知っている。それなりの教養があり、魔法も使える。ルビーを連れて野良猫みたいに放浪しているが、出自は良家のご令嬢猫だったという話は、もしかしたら本当かも知れない。


「ルビーや、おまえがその黒い子猫のノワから、女王の(しるし)()りかを聞き出すのよ」


 女王のしるし?

 あののほほんとした子猫のノワが、そんなものを知っているだろうか。


「なにをおっしゃっているのかわかりませんわ、おかあさま?」

「女王の息子なら、女王の印くらい知っているでしょうよ。それをあんたが聞き出せばいいの。なんなら、その子猫をあたくしの前へ連れてきなさい。あたくしが直接聞き出してやるわ」


「そんなこと……!?」


 できない。


 ルビーは立ち尽くした。ノワに迷惑をかけるなんて。

 レディクラリッサにひどいことをされるために、ここへ連れてくるなんて、できない。


 ううん、そうじゃない。ノワさんはだいじょうぶ。だって、女王陛下の息子だもの。


 ルビーの母猫がレディ・クラリッサだと知られたら、きっと嫌われてしまう。


「い、いや……」

「なにしてるの? 早くお行きッ! 今日中に連れてくるんだよッ」


 ルビーはレディ・クラリッサに尻尾を向け、弾かれたように走り出した。




 どうしょう。

 ノワさんに会ったらなんて言えばいいの?


 いっしょに来てなんて無理。レディ・クラリッサには会わせたくない。ノワさんがどんな目に遭わされるか……!


「あ~、いたいた、ルビーさ~んっ!」


 ルビーは急ブレーキを掛けた。

 けっこうスピードを出していたので、肉球で石畳をずざーッとすべったが、行き過ぎ(オーバーラン)はノワから二メートルほどで止まれた。この街の石畳がきれいすぎるのがいけないのだ。


「あ、あら、ノワさん、ごきげんよう」


 足の裏の肉球がちょっとヒリヒリするが、我慢できないほどではない。ルビーはにっこり笑顔をむけた。


「おっはよ~ございまっす! 早くこっちへ来て!」


 ノワはやけにテンション高く、ワクワクしたふうを隠していない。


「え、なあに?」

「いいから、はやく早く!」


 ルビーはノワの後ろを付いていった。

 下に浅い側溝が作られている塀に沿って歩き、角で曲がり、木戸の下をくぐり抜けた。

 どこかの邸宅のお庭だ。良い香りのするハーブ草や淡い色の花々が咲き乱れている。


「まあ、すてきなお庭ね」

「そうなんだよ、ここでお昼寝すると、とっても気持ちいいんだよ!」


 ノワはどんどん進んでいく。小柄な猫だが、元気な男の子は足が速い。

 ルビーは遅れないように付いていった。


――そうだわ、いま訊けばいいんだわ。


 女王のしるしのありかを。ルビーが訊いて、答えを持ち帰ればすむ。


――ノワさん、あなたはわたしに親切にしてくれるけど、わたしはあなたにとって害になるわ。


 答えを聞いたら、二度とノワさんには会わない。でないと、レディ・クラリッサがノワになにをするかわからないから……。


「あの、ノワさん、訊きたいことが……」

「ん~、な~に? ん~と、あとでかまわない? ほら、もうここなの。レディ・ドルリスとおばちゃんが待ってるんだ!」


「え?」


 レディ・ドルリスとオバチャン?


 なんのことだろうとルビーが考えている間に、ノワの後につられて建物の中へ入る猫ドアをくぐっていた。


「あ、たっだいま~ッ! レディ・ドルリス、ルビーさんを連れて来ましたッ! 謁見をお願いしまーすッ!」


「え?」


 ルビーの後ろでパタンと猫ドアが閉まる。


「あら、早かったですわね、ノワさん」

「はい! がんばりましたッ!」


「え?」


 ルビーはさっきから「え?」しか言ってないような気がする。

 ノワに訊きたいことがあるのに、ひとつの質問もできていない。


「あの……?」


 ここは、どこ。わたしはルビー・キャット。

 いや、ちがった。

 あなたがたはどなたなのでしょうか?


 白い胡蝶蘭(こちょうらん)が咲きほこる棚の上に、とてつもなく上品な、貴婦人なふうの淑女猫が二匹。


 ルビーをまっすぐに見下ろしている真白い毛並みの方は、金色の打ち紐で飾られた緋色のクッションの上に鎮座している。その美貌と威厳たるや、まさに女王の風格。


 そして左側、ルビーから見上げて右側に、品良く猫の正座をしてこちらを見下ろしているのは、絹のような長い毛なみが、非常に淡いパステルカラーの美しい三毛猫だ。


 ルビーは、ハッと目を見張った。


 とても優しい眼差しでルビーを見つめる淑女猫の目は。

 その目は、()れた木イチゴのように赤かったのである。


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