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麗しきレディ・ドルリスへの依頼 ~魔法猫の女王は気ままに推理する~  作者: ゆめあき千路
第三章 女王の玉座は狙われる

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その十:魔法猫の淑女猫のむかし話

 魔法猫の寿命は長い。魔法を持たない猫の軽く九倍は生きる。


 それが魔法猫の祖である月の女神の化身〈エンデンドリス〉直系の血筋ともなると、かるく数百年を(けみ)するものもいるという。


 その年、それまで玉座に着いていた魔法猫の女王の治世が終わり、数百年ぶりに新しい女王が立つことになった。

 そこで、魔法猫一族のなかでも、女王にふさわしいと思われるよりぬきの魔法猫が集められたのだ。




 とつぜん、レディ・クラリッサのむかし話が始まった。


「そうしてあたくしたちは、九賢者猫の招集魔法により、魔法猫の聖地である満月の広場に集められたのよ」


 またこの話か。

 朝ゴハン前だろうと、夕食後のリラックスタイムだろうと、数日に一度は聞かされる。

 何十年も昔レディ・クラリッサがまだ初々しい少女猫だった時代の古びた思い出だ。


「まあそうですの」


 ルビーはひかえめにあいづちをうった。

 黙っていたら無視していると誤解され、殴られるからだ。


 ルビーはひたすら地面を見つめた。

 レディ・クラリッサは話し続けている。何度も聞かされた、すり切れそうな惨めな古い物語を。


 美しく賢い女王猫候補たちは、我こそは次の女王なり、と期待に胸をふくらませ、満月の広場にあつまった。


 そこはかつて月の女神が降臨したという聖なる大地。百年に一度、魔法猫がつどう大集会所の役割をもっていた。


 魔法猫の女王認定をおこうのは、魔法猫一族の長老たる九匹の賢者猫たち。

 彼らは数百年の長い時間(とき)を生きる、ことに優れた魔法使いな魔法猫だった。


 レディ・クラリッサは、女王候補に選ばれる前から、美貌・賢さともに際立っていると評判があった。当時、魔法猫の女王にもっとも近いと云われていた第一候補だったのだ。


 

 ルビーに必要なのは忍耐だ。頭を空っぽにして、レディ・クラリッサの話が終わるまで耐えるしかない。

 最初は何回目か数えたこともあったけれど、三千回を越えたところで、バカバカしくなってやめた。


「あたくしはね、そのなかでも、筆頭女王候補として賢者猫に呼ばれたのよ」

「まあ、すごいですわね。さすがはおかあさまですわ」

「そうよ、あたくしこそが筆頭女王候補だったのよ!」


 棒読みなルビーの褒め方にも気づかず、レディ・クラリッサはホホホと上機嫌な笑い声をあげた。


「でも、見た目の美貌はともかく、賢さなんて、どうやってわかったのかしら……」


 どうやらうんざりするのも限界だったようで、ルビーはぼそりと呟いていた。


――あ、わたくしって正直な娘猫だわ。


 だが、なげやりな気分は一瞬で失せ、全身が凍りついた。

 レディ・クラリッサに殴られる!?


「はん? なんか言ったかい?」


 レディ・クラリッサは自分の大声がうるさくて、ルビーの呟きが聞こえなかったようだ。


「いえ、おかあさまはお美しいですもの。きっと女王様よりも……?」


 狂気が表情に(あらわ)れている今のレディ・クラリッサは、間違っても美しいとは言えないが。

 だから人間も、レディ・クラリッサには近づくのを躊躇(ちゅうちょ)するのだ。気づかないのは当人ばかり。


「そうよ、そうなのよ! あなたはなんて良い子なんでしょうね、ルビーや。人間はあたくしの高貴さに気後れして、近づいてこないのよ。だって、次代の女王候補に選ばれるほどの魔法猫なのよ、あたくしは!……あたくし、は……あんな雌猫に、負けるなんて……」


 あ、また雲行きが怪しくなってきた。


「あたくしこそが次代の女王だったのよ。なのに……なのに、あの……あの、雌猫が……」


 ルビーは心を(よろい)で固める準備をした。


「あたくしがいちばんだったのにィ……あの選出の議の場で、あたくしが女王に選ばれるはずだったのに……」


 よし、心にヨロイ装着OK。

 ついでに心の中の耳にもしっかり耳栓をする。


 あーあーあー、コレでなんにも聞こえな~い~。

 わたしの名前はルビー、ルビー、ルビー・キャット~♪


 それでもレディ・クラリッサの声は大きいから、やっぱり聞こえてしまうのだけど。


「あ~の~、憎ったらしい、どこの馬の骨とも知れぬメス猫がどこからともなく現れて、女王の宣言をしやがったのよ。自分こそがもっとも美しく賢い魔法猫の女王だと、豪語して!」


――このおかあさまがこんなに恨んでいる魔法猫の女王さまって、どんな魔法猫なのかしら?


 性格も猫格(ねこかくにも、おおいに問題があるレディ・クラリッサだが、黙っていればそれなりの美猫(びねこ)である。


 そのレディ・クラリッサがこれほど悔しそうにいうからには、女王猫はそうとうな美猫にちがいない。



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