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麗しきレディ・ドルリスへの依頼 ~魔法猫の女王は気ままに推理する~  作者: ゆめあき千路
第三章 女王の玉座は狙われる

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その七:レディ・クラリッサとルビーの生活は……

「おかしいわ。猫好きな人が多いのに『きみ、可愛いね。うちの子にならない?』という人間がひとりもいないわ」


 どの人間も親切なのに、「おうちに入りたいの?」とか「うちの子になる?」という、猫をお迎えしたい雰囲気を発していない。


 そういった雰囲気のある家庭へもぐり込み、数日居座り様子を見る。居心地が良ければ住んでやってもよい。……と、猫が保護者となるべき人間へ『合格』を与えるのが、放浪猫が飼い猫となる常套手段だ。

 しかし、レディ・クラリッサはちがう。


 最初から『飼い猫になるフリ』詐欺(さぎ)だから、きわめて悪質だ。


――おかあさまと行動を共にしているわたくしも、おかあさまと同じ悪い猫なんだわ……。


 とはいえ、通りすがりの野良猫の思惑が、会ったことも無い人間にバレているわけはなかろう。

 この街へ来てからのレディ・クラリッサは、人間の前に極力姿を見せていない。


 昔から――……親切な人間を見つけて、愛想を振りまくのは、いつも小さな子猫のルビーだった。


 レディ・クラリッサは基本的に人間が嫌いなのだ。ほかにも、自分がイヤなことはすべてルビーに押しつけてやらせるクセがある。


 たいがいの人間は可愛い猫に甘えられたら大喜びだ。その日のうちに美味しいゴハンはもちろん、専用のきれいなお部屋にステキな寝床、猫用おもちゃまでいそいそと用意する。


 そうして一週間がすぎ、一ヶ月も経てば、ルビーもその家に落ち着く。


 やっと自分の保護者とお家ができる――そう思ったとて、罪ではなかろう。

 レディ・クラリッサは愛想が悪いので、たいがいの人間は子猫のルビーをかまう。


 たまにレディ・クラリッサを可愛がろうとする慈悲深い人間もいたが、レディ・クラリッサが徹底拒否するから諦めるのだ。


 だからルビーがすっかり安心して、人間に甘える態度をとりはじめると――レディ・クラリッサは、恐ろしく不機嫌になる。


 一軒の家に一ヶ月居られれば良い方だ。長くて三ヶ月。それも悪天候やら、さまざまな事情で出られなかったにすぎない。


 これまでの最速記録は三日だった。


「なんてたいくつなのかしら。そろそろ旅に出ようかしらねえ」


 レディ・クラリッサは、とつぜんこんなことを言い出すのである。


 初めてこれを聞いたのは、その家の女主人がルビーのために子猫用のかわいらしい器を用意して、それでルビーがお水を飲んだ直後だった。


 最初のうち、ルビーはレディ・クラリッサがそんなことを言い出した理由が、さっぱりわからなかった。


「どうされましたの、おかあさま? ここの保護者は良い方ですわ。こんなに大切にしてもらえるのですから、ここでずっと暮らせばいいではありませんか」


「はッ! お馬鹿な子ね。こんなちんけな家、次の魔法猫の女王になるあたくしたちが住むべき家じゃないわ。ゴハンは缶詰が多いし、飲み水はただの水道水なのよ。あんたは次の魔法猫の女王になりたくないの?」


――そもそも魔法猫の女王になるのに、ゴハンが缶詰とか水道水とか関係あるのかしら。


 だが、ルビーは疑問を呑み込み、レディ・クラリッサが気に入る回答を考えた。

 そんなものなりたくない。――と、正直に答えたら、さんざんぶたれる結果となるのは学習済みだった。


「おかあさまの(おお)せのままに」


 そうしたらすぐさま、旅立ちの準備だ。

 ふだんはふつうの猫らしくダラダラ昼寝ばかりするレディ・クラリッサは、こういうときだけキビキビ動く。

 翌朝の食事を済ませたら、レディ・クラリッサは出発するのだ。


 ルビーを連れて。


 どんな手段を使っても――ルビーがクローゼットに隠れたら、魔法でぶち破って引きずり出されたこともあった。――まだほんとうに小さかったルビーの首根っこをくわえて引きずってでも、その家から出て行くのだ。


「あはは、ほ~ら、すぐ壊れたわ。やっぱり庶民の家は安普請(やすぶしん)ねえ。もっと立派なお屋敷をみつけなくちゃ。あら、なあに、その反抗的な目は。ひとりぼっちで〈暗闇〉に放り込まれたいの?」


「……いいえ、おかあさま。隠れてごめんなさい」


「そう、ルビーは良い子ね。さあ、出発しましょう」


 こうしてレディ・クラリッサとルビーはあてのない放浪の旅にでる。

 いや、レディ・クラリッサにすれば、旅の目的はあるのだ。

 ルビーを次の魔法猫の女王にするという、なによりも崇高(すうこう)な目的が。


「あたくしがおまえを、りっぱな淑女に育ててあげるからね。こうして旅をするのは、おまえが次の魔法猫の女王になるためなのよ」


 それがレディ・クラリッサの口癖だ。


「はい、おかあさま……」


 ええ、おかあさま。わかっていますわ、おかあさま。はい、そういたします……。


 ルビーは旅が大嫌いだ。

 いまも旅暮らしだけど。


 母猫レディ・クラリッサには逆らえない。せめて、もう少し大きくなるまでは――……。





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