他所から聞いた不思議な話
小拙、若い頃から不思議な物をかなりの頻度で見てきました。それこそ、いちいち覚えていない位に。
ひょんな事から霊的な感度が上がった事があり、それまでの視界の隅で何ぞチョロチョロしている物が見えたり、視界を横切る様な、そんな些細な物ではなく、くっきりはっきりと視える時期が有りました。
と、言うか、今現在もピントが合えばはっきり視えます。
実は、葬儀社に勤めていた時が全然見えなくて、そっち系のオカルト体験は有りません。
ただ、生きている人間の方が怖いと云う体験は有りますが、趣旨が外れるのでそれは又の機会に。
かなり暈さなければならない話となり、警察からも“事件性は無い”と、御墨付きを貰った案件ですので、警察も存外アレだなと呆れた物でした。
さて当時の小拙、性分的に葬儀社が合っていたらしく、仲良くなったお客様や、お寺さんと、割りと雑談をしておりまして、その中からオカルト寄りの奴を二件程お話ししましょう。
一件目は、小拙が葬儀社に勤め始めた頃でして、Cさん宅に初盆の受注に伺った時に聞いた話です。
Cさんとはご縁が有る様で、個人的にも、と、言うか家族ぐるみで付き合いの有ったお人です。
御身内の不幸から、お店を畳んでからは疎遠となりましたが、家人などはCさんを見かければ、近況報告を互いに交わす程には懇意な間柄でした。
なので、小拙が葬儀社社員としてお伺いする事に驚いた様子で、“○○ちゃんが引き合わせてくれたんだ”と大歓迎です。
○○ちゃんとは、とくにCさんと仲の良かった家人で、言い回しから知れる様にこの時は既に故人でした。
当時の小拙は、当の本人ですら葬儀社に勤める事になるとは思いもしなかったのですから、疎遠となった知人からしたら、藪から棒の初盆受注となった訳です。
何時もの如くまずはお線香を上げ、初盆返礼品カタログです。
あとは盆飾りのカタログでしょうか。
精霊棚は、葬儀後49日の間お骨や白木位牌を安置する後壇を、そのまま利用する事も多いので、飾り付けのイラストを提示します。
話は進み雑談です。その時Cさんから質問です。
あの時の光の渦は、どうやったのか?
と云う質問です。
あの時とは、初盆を迎える方のお葬儀の事でして、小拙、その頃は無職で別に葬儀社勤めでも、葬儀社のバイトでも有りません。
一私人として会葬し、式次第を見物した訳でも有りませんので、何の事やらです。
詳細はこうです。葬儀の読経が始まるや、ご住職さんの頭上30センチの所に、キラキラと輝く光の渦が現れたそうでして、式中、なんて綺麗なんだろう。と、注視していた様でして、その光の渦、ご住職さんの“喝”の一声と共に消えてしまったそうです。
Cさん、あんまりはっきり視えるものだから、てっきり葬儀の演出だと思いこんでいたそうです。周囲の人も、皆視えている物と。
立体映写なんか、一葬儀社が開発運用出来る訳などなく、少し考えれば、故人の魂が挨拶に現れたと考えた方が整合性がとれると思うのですが、実はCさん、視える系の人なんですが、現実的な思考をする人なのでした。
当時、他にもそれ系の天然解釈霊的話をいくつか聞いたのですが、やや、メタな話になるのでそちらは封印します。
なので、照明関係でそんな演出はしない事、もしその様な演出をするなら、事前に了承をとる事、また、人物を後方から照射したら影が差してしまう事をお話しして、ようやくCさんも納得です。
因に推定故人当人の光の渦なんですが、生前は教育関係の、かなり上の地位にあったお人でしたので、香典返しの数は1000を軽く越えました、ギリ2000に届かない程出たのですから、小拙の知る限りではレコードです。
初盆のお返しも(地域にもよるでしょうが、初盆の場合、こちらでは包むのが一般的です)かなりの数が見込まれましたが、どうした事か光の渦だけが印象に残り、いくつ出たのか覚えていませんね。
もう一つは、とある浄土宗のご住職の話です。
小拙、と、言うか葬儀社とお寺さんは実はあまり仲良く有りません。
それもその筈でして、本来葬式の式次第と、お寺さんは無関係なんです。
そんな事無い、お寺でお葬式をあげた時、焼香手順や読経の詠唱なんかに指示があった、と言う人も居るかもしれませんが、はっきり言って、それらしくやっているだけです。
三百を越える葬式に、業者として参加しましたが、同じ宗派でも式次第は違う物で、とある住職など、本葬儀も5分位の読経で終えてしまい、20分程で初七日の法要まで、全て済ましてしまうお寺さんも居りました。
なので、式次第を仕切る葬儀社は、お寺さんからしたら、余計をして儲けるハイエナ野郎位な感覚でしょうか?
経験上、曹洞宗、臨済宗といった禅宗にとくに嫌われている様です。黄檗宗は二度程しか経験有りませんのでデータ不足で何とも言えません、だから禅宗全てに嫌われている訳ではないとは思いますが………。
さて、その浄土宗のご住職、県の空手協会の会長だか副会長を勤めているとの事で、一見すると荒法師そのものですが、かなり情に厚い人柄です。
とある檀家さんの葬式を執り行ったそうなのですが、その檀家さん、手元不如意でお寺さんへの支払いが厳しく、半金だけの支払いで残りは伸び伸びとなっていたそうでした。
お寺さんとて、生活が有ります。有りますが件のご住職、懐事情を察して、特に督促めいた事はなさいません。
さて、吉事はなかなか訪れないが、凶事、変事はまとめてやって来る。と、何かの本に書いて有りましたが、正にその通りで、その檀家さん、又もや御不幸に見舞われてしまいました。
前回の御布施も、まだ払い終えて居ない所に新規依頼となります。檀家さん、何とか今回の御布施を工面して、ご住職に依頼します。
ですがご住職、その御布施をそのままそっくり檀家さんに渡して、これは当山からの御香典として納めて下さい。と、されたそうです。
勿論、葬儀はご住職が執り行いました。
こんなエピソードが多々有る親分肌のご住職ですので、檀家さん達から何かにつけて頼られておりました。
そう、何かにつけて、です。その中には幽霊が出るからお祓いして欲しい。と云う奴も有ったそうです。
ネット小説か何かでは、神主さん、禰宜さん、お寺さん、神父さん、牧師さんなんかは、まるで退魔の専門家の様な扱いで大活躍しますが、実物の彼等は宗教者で有り、宗派の教えの実践者なだけで、一市民に過ぎません。
なのでご住職は当然断りました。別にご住職は霊能者ではありませんから。
皆様にしてから、知人に“何か出来そうだから”と、お祓い依頼をされた所で困りますでしょうが。
それと同じで、お寺の住職だからと霊能相談なんかされても困るだけです。
ですが、そこは親分肌の住職、初めは断りますが、檀家さんがほとほと困り果てているのに、出来ないからと見捨てる事はなさいません。
祓えるかどうかは分からないが。と前置きをして、その檀家さんの家に向かいます。
目撃したと云う場所で香を焚き、塩で清め(浄土宗ですので、浄土真宗の様に清めの塩は厭いません)読経を上げるを、それぞれの目撃場所で繰り返し行ったそうです。
それが功を奏したのか、数日の間は何事も起こらなかった様でご住職もホッとしたそうです。
10日程過ぎた頃、件の檀家さんからご住職に電話です。かなり切羽詰まった感じだったと聞きました。
ただ事でない雰囲気に、電話越しに身構えたそうですが(空手の型だそうで)、そんなどうでも良い事を実演されても言葉も有りません、ご住職はかなりひょうきんです。
「大変です、今、窓の外から(幽霊が)こっちを見ているんです!」
との檀家さんの言葉に、ご住職、
「しまった、庭やるの忘れた!」
と、粗忽な白蟻駆除業者みたいな事を宣いました。
「もう、住職のウッカリさん」は、部下の言。彼はこの手の軽口が憎めないナイスガイでした。
結局ご住職、再び檀家に出向いてお清めをされたそうですが、檀家さん、やはり気味が悪いとの事で、後日引っ越されたそうでした。
視える時は時所、霊感の有無など関係無しに視えるものだと感心した次第です。
それから、ご住職の行動から、お香や、読経は、あまり清めに関係なさそうで、お塩が奴等に効く様で有ると、小拙は学習しました。
別の話で書きましたが、そうした訳で小拙、奴等を見かけ次第に塩を投げ付けていた訳なんですよ。
………あまり怖い話では有りませんでしたね。
それでは、また次回に。
武侠の執筆合間の息抜きです、つらつら思い出すに、割とエピソードが出てくる物です。