表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編完結一覧

賢者が難癖を付けて仲間の一人を追い出そうしていた〜俺が止めに入ったが勇者がぶち切れてもう何もかもが手遅れ

作者: 藤咲晃

 

 国王から数多の武勲と功績から魔王討伐を命じられた勇者エイリ。

 エイリと幼馴染で彼女の唯一の心の支えである少女アンナ。

 治療魔術から攻撃魔術まで幅広く扱う天才肌の賢者クレイン。

 そして昔の縁からエイリに金で雇われた傭兵の俺、アイゼンは魔王討伐を使命に旅を続けていた。


 魔王城へ近付くに連れ激しくなる敵との戦闘。それは当然だ、主君を守るために兵が力を入れるのは当たり前。

 何度も連戦を重ねる俺達は魔王城へと中々辿り付けず、また一夜を野宿で過ごすことに。


「焚き火ってよ……なんか癒されるよな」


 風を受け揺らめく火を前に、そんな事を呟くと。


「アイゼン、アンナとクレインは何処?」

 

 言われて辺りを見渡すと二人の姿が見えない。

 

「食後の後までは居たんだけどな……一瞬眼を離した隙に、なに? 一発かましに行った?」


 下世話な話を切り出すとエイリは、


「二人ってそんな仲だったかな……まあ、仲間として応援はするけど」


 アンナとクレインがいつの間にか男女の仲に進展していたのか? と、疑問を浮かべた。

 冗談半分で言ったが、確かにアンナとクレインが恋仲に発展するなど有り得ない。

 クレインは何かに付けてアンナを目の仇にするわ、食事に対する文句も絶えない。

 特に酷かったのが、戦闘能力の無いアンナに対して戦えとはお門違いだ。

 まさか、と嫌な予感が過ぎる。


「そんじゃあ、ちょっと捜して来るわ」


「私は向こうを捜すわ」


 流石に思い違いであって欲しい。そう願いながら俺とエイリは二手に別れ、二人を捜しに向かった。

 

 

 しばらく歩くと、岩陰の方から二人分の声が聴こえる。

 一つは怒鳴り散らし口汚く罵る声。

 もう一つは少女の涙声だ。

 流石に泣くアンナの姿を見過ごせない。


「おーい、クレインさんや。お前は何をしてるんだ?」


 いきなり声を掛けられたことに驚いたクレインが、勢いよく振り返った。


「……っ! なんだアイゼンか、驚かせるな」


 そんな言葉を他所に俺は、涙を流すアンナに視線を向ける。

 彼女が首にぶら下げていたブローチが無い。しかしブローチはすぐに見つける事ができた。  

 クレインの右手に握り締められたブローチ、そして左手にはアンナに預けていた金袋が握られている。


「お前……アンナを泣かせて何がしたいんだ?」


「ふん、アイゼンからも言ってやれ! お前はこの旅に不要だと」


 クレインは言った何を言っているのだろうか。ちょっと何言ってるのか分かんねえ。


「なに? 何だって? もう一度言ってくんない」


「……全く。だから! アンナは役立たずだから要らないと言っているんだ!」


 マジでコイツは何を言ってるんだろう。

 アンナが役立たず? 日々の食事や薬品管理にエイリの相談役、それこそ男には相談できない悩みだってあるだろうに。

 それなのにアンナを不要と申すか、コイツは。


「待て、ちょっと待てよ。アンナはこの旅に必要な存在だ。確かに彼女には戦う力はねぇよ? ここ最近の戦闘もギリギリだ、彼女の身を案じるなら判らんでもねえけどよ、役立たずだから要らないってのは間違ってるだろ」


「何だと? 貴様には分からないのか!? 僕達が戦いに苦戦するのも無力なアンナが居るからだ!」


 なるほど、コイツの言い分は理解した。つまりは、


「そうか、アンナの事が心配で仕方なく、無能だとか、敢えて口悪く言ってんのね……んだよ、このツンデレめ!」


 学の無い俺にしては中々の名推理だと思う。


「貴様は脳に虫が湧いているのか!?」


「……本当なのアイゼン? だからクレインは敢えて、『それは旅の資金で買った物だ、今から抜ける貴様には不要な物だから返して貰うぞ』なんて言って、嫌がる私から強引にブローチを取ったのも!!」


 ツンデレかと考えていたが、流石に仲間の身を案じるなら強引にブローチを取ったりはしない。


「……悪いアンナ。どうやら俺の考えは外れらしい。だが、お前が抜ける必要は無いんだぞ、それにエイリが許さないだろ」


 正直言ってエイリはアンナが居ないとダメだ。彼女の戦闘能力はやる気に直結している。

 エイリはアンナが居ないとやる気を出さない、それが例え国王の命令だっとしてもだ。


「それになクレイン? アンナはエイリに必要なんだよ、お前もその辺は理解してるだろ」


 やんわりと語り掛けると彼は鼻息を鳴らし、俺達を見下した眼で睨む。


「ふん、そんなもの僕とアイゼンで無能の代わりになれば良いだろう」


 コイツは天才だ。数多くの魔術を、それこそ常人が一種類の魔術を究めることすら困難な中、クレインが究めた魔術は三桁を超える。

 それは認めよう。だけどコイツは魔術の才能以外を母の腹の中に忘れてきたらしい。

 というか流石の俺も引くし、アンナもドン引きしてる。


「……それはちょっと、無いですよ」


「無いってか事案? えっ、やだよ? 仲間の一人が猥褻働いて牢屋にぶち込まれるなんざ」


「待て! なぜ僕が牢屋に入れられなければならないんだ」


 まるで分からんぞ! と言いたげだなクレインに俺とアンナの中で一つの疑惑が浮かぶ。


「もしかしてクレインは……」


「いやぁ、コイツは天然かもしれねぇな」


 自分の言っている事に気が付いていない。

 エイリはお年頃の少女だ。それこそお父さんと洗濯物を一緒にされたくないお年頃。

 そんな彼女に対して、これから全てはアンナの代わりを務めるなんて言った日には、彼女の怒りを買い変態のレッテルを貼られ間違いなくぶち転がれる。

 そしてエイリの手で牢屋に入れられる結末が待っているだろう。


「……兎も角! アンナは無能だから要らないんだ……っ!」


 叫ぶクレインの言葉に、俺は背後から底知れない悪寒を感じ取った。

 数多の戦場で経験した死の気配とも言うべきか。恐怖が、背後まで差し迫っている。

 俺は慎重に、極めて相手を刺激しないようにゆっくりと振り返る。

 そこに居たのは頭を傾け瞳孔が開き、剣の刃をこちらに向けるエイリの姿がそこにあった。

 彼女は人を簡単に殺せそうな鋭い視線でゆっくりと、


「私のアンナに何を言ってるの? ねぇ? どうしてアンナに泣いた跡が有るの? ねぇ、どうしてアンナの誕生日に合わせてバイトで得たお金であげたブローチを……クレインが握ってるの? ねぇ、どうしてなの?」


 培った経験と本能が告げている。もう詰みだ、彼女の怒りはクレインの犠牲を持って鎮める他にないと。

 エイリの殺気に苦しげに息を荒げるクレインに指を差し、


「コイツがアンナを泣かせていた! 話を聴いた限り、クレインはアンナを無能と決め付けブローチを取り上げたようだ!」


「い、言ってる事は何も間違って無いけど……あ、あのエイリ? く、クレインを許してあげて、ほ、ほら! 私が戦闘の役に立たず足を引っ張りているのは事実だから!」


 おっとアンナさん、その言葉はトドメだ。

 

「ヤクニタタナイ? カワイイアンナガ?」

 

 ちょっと雇われる相手を間違えたかもしれん。怒りのあまりに片言になるって怖いんだけど。

 そんな事を思った矢先だった。突風が吹き、クレインが遥かに後方に吹っ飛んだのは。

 何が起きたのかまるで理解が追い付かない。アンナに視線を向けると、彼女も何も見えなかったのか首を横に振っていた。


「……良いわクレイン。貴方がそこまで言うなら、私達は解散よ! アンナが居ない旅なんてやってられないわ! もう田舎に帰って二人で静かに暮らしましょう!」


 エイリはそんな事を言ってアンナの手を引き、立ち去って行く。俺はそんな背中を黙って見送る事にした。


「まあ、雇い主が選択したならそれに従うけどよ。……クレインは生きてんの?」


 一先ずクレインの下に駆け寄り、生死を確認すると。彼は辛うじて息をしていた。

 そこで俺は町まで引き返し、クレインを優しそうな町娘が経営する宿屋に預け、そのまま旅に出る事にした。


 

 それから俺達が解散してから三ヶ月が経過した頃。

 魔王は新たな勇者の手によって無事に討伐され、人類に平和が齎された。

 平和が訪れた世界に傭兵稼業の様な戦闘職は儲けも下がる。

 それは当然の事だ。だから俺は片田舎で農家として生きる事を選び、それなりに満足の行く生活を送ることとなった。

 

 風の噂では、クレインはあの後宿屋の娘と結婚するに至り幸せな日々を送っているとか。

 エイリとアンナは故郷で変わらず、仲良く暮らしているとか、時折国王から舞い込む依頼で日銭を稼いでる。

 あんな別れをしたが、それぞれ平和そうで何よりだ!


 

タグにも短編完結とある通り、この物語りはこれで終わり。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ