金曜のおじさん
ホームルームが終わり次第さっさと立ち上がり、友人といえなくもない同級生に適当に別れを告げつつ、若干駆け足で走りだす。膝丈のスカートがばさばさと邪魔をしてくる。
毎週金曜、学校から直行で向かう先。アパート3階3LDKのわりとちゃんとした間取りの部屋を合鍵で開ける。
ファミリー向けと思われる広々としたリビングが、カップ麺の空きカップ、ペットボトル、チョコレートの包み紙、靴下、タオル、Tシャツ、部屋の隅には先週から微動だにしていない45Lのパンパンに詰め込まれたごみ袋2つ。
中央のソファには先週から動いていないとしか思えないおじさん。
「おじさん!またゴミ捨て忘れてる!!」
「あー、なんだもう来る日か。」
「そうだよ!なんで1週間でこんなに散らかるの!」
「馬鹿野郎、1週間は何時間だと思ってんだ、168時間だぞ。そりゃ部屋も散らかるだろ。」
「単位を変えても1週間は1週間よ!!!屁理屈言わないで!!」
同じアパートの近所付き合い。彼女の母親からは謎の信頼を寄せられている。
「お前、連絡はしたのか」
「いつもしてますよ。心配性ですね。」。
「親戚でもないおじさんのとこにいるんだ。心配しない方がおかしいだろう」
「そういう常識はあるのになぁこの人」
ぶつぶつ文句をいいながらごみを拾い上げていく。
「捨ててきますねー」
「ほいほい」
いつのまにおいて行ったのか、下駄箱から俺のサイズではないビーサンを出して外に出ていく。
この世話焼きな女子中学生は貴重な学生の週末を主に俺の家で過ごす。俺の描く絵本のファンだとか。中学生も絵本を読む世の中になったのかと、感心して聞いたところ。
「私の周りにはほかに読む人はいない。」
だそうだ。それどころか本を読む奴も中学にはほぼいない。図書室の守護は私だけとのこと。作家には世知辛い世のなかだ。
あいつ学校で孤立しているのだろうか。だとしたらこんなおじさんの世話をしている場合ではないだろう。自分を大切にしろ。
「帰ってきたら聞くか」
つぶやいた独り言についてくるかのように、遠くから階段を上る音が。
「元気だねぇ…」
また寝てるんじゃないとか怒られるな。そう思いながらソファの上で目を閉じた。