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ダイブ・メガラニカ  作者: 彼方すすむ
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02 持たざる者


 それから俺はステータスやらアイテムを確認してみた。

 レベルは当然ながら1、他のステータスも軒並み一桁。

 ステータスの職業欄には冒険者と書かれ、その下には独自スキルとやらの項目があったが空欄だった。

 持ち物はなく、装備欄などは見た限りは無かった。いや俺が全裸ということではなく、装備を見れるメニューが無かったという事だ。

 衣類はこの中世の街並みに溶け込めそうな布服を纏っているので大丈夫だ。


 しかし、この時点でかなり多くの疑問が浮かぶわけだが、最たる疑問はステータスの最上部。名前の項目であった。

 ――"シュウト"と表示されていた。

 初のVR世界に舞い上がってすっかり忘れていたが、そういえばキャラクターを作成した覚えが一切ない。

 どのオンラインゲームでも最低限、自分の操作するキャラの名前を付けるぐらいの工程は存在する。

 不特定多数の人が遊ぶ環境で、個々を認識できないと色々と不便だからだ。

 しかし、このメガラニカはデバイスを装着したらいきなり始まったわけで、名前も勝手に本名から引っ張られていた。

 郵送したデバイスごとに設定していたのだろうが、なんの断りも無しにこれは炎上案件なのではないだろうか?

 俺はあまり気にするタイプでは無いが、困る人は困るだろうに。


 早くも一抹の不安を覚えながらも、兎にも角にも遊んでみなければ損だ。

 ひとまずクエストと言うメニューに書かれた「冒険者ギルドに登録しよう」と言う目標に従うことにして、街路沿いにある立て看板を頼りにそれらしき建物を目指す。

 そう言えばこのゲームはマップもない。何らかしらの条件を満たせば見れるのかもしれないが、一個人の感想としては見れない方が探究心を擽るので良いと思う。


 しばらく歩いていると、他の建物よりも一際大きく、羽ペンのような絵が彫られた看板が掲げられた建物が見えてきた。

 恐らくこの建物だろうと目星をつけて木製の扉を押し開けると、そこは大いに賑わってきた。

 酒場のようなカウンターが奥にあり、空間に不均等に並べられた丸机。

 背の低い切り株の様な椅子に腰を掛け、グラスを掲げて談笑を楽しむ大勢の人々。

 加えてカウンターの右手には複数枚の紙が貼り付けられた大きめの掲示板があり、そこに出来た人集りは飲み食いしてる人々と違って大人しいというか、何か考え込んでいる様子だった。

 恐らくだが、依頼の貼られた掲示板だろう。そしてここは「冒険者ギルド」で間違いなさそうだ。


 丸机の合間を縫ってカウンターまで向かい、栗色の髪をした20代前半ぐらいの受付らしき女性へ会釈する。

 すると、意図が通じたのか彼女は満面の笑みを浮かべて会釈を返してくれる。

「冒険者ギルドようこそ! 新米冒険者様ですね? 冒険者登録でしたら、まずこちらの用紙へ記入をお願いします!」

 何とも手際が良い。彼女はNPCと言うやつだと思うが、それを感じさせない愛想の良さだ。と言うか実際に目の前に本当の人がいるみたいで、改めて映像技術の恐ろしさを思い知る。

 差し出された紙に視線を落とし、備え付けられていた羽ペンを手に取って項目を埋めていく。

 見慣れない項目としては使用武器と独自スキルの欄で、武器は何も持ち合わせていないが大抵どのゲームでも無難とされる剣と書いておいた。独自スキルと言うのは先程ステータスで確認したものだろうが、空欄だったので「なし」と書いておいた。

 ちなみに他の項目は年齢や血液型など、他愛のないものだ。もちろん名前の欄もあったが、俺が羽ペンを手に取った時点で勝手に"シュウト"と記入されてしまった。頑なな個人情報漏洩システムである。


 書き上げた用紙を差し出すと、受付嬢が紙面を目で追う。が、不意にその視線が止まった。

 その愛想の良かった表情は次第に怪訝に変わり、

「あの……虚偽の情報を書かれては困ります」

 ――は?

 虚偽の情報? そんなものは書いた覚えがない。

 年齢や血液型なども馬鹿正直に書いたし、名前に関しては苗字が入っていないがこれは勝手にやられたもので弄りようが無い。

「いや、嘘は書いてないと思いますけど」

 いくら俺が現実で主体性のないイエスマンだからと言って謂れのない事に頷くことはできない。

 そんな俺の様子を見て、受付嬢は困惑を隠しきれない様子で視線を右往左往させる。


「で、ですが……冒険者様である以上、"独自スキルなし"と言うのは……有り得ません」


 いや、どういうことだ?

 独自スキルとやらがそもそも何なのか分かっていないが、レベルが上がっていく内に習得できるものだろうと予想していた。

 しかし、彼女の口振りからして持っているのが当たり前のものらしい。

 ――ああ、そういう事か。

 そこで俺はようやく合点が行く。

 これはゲーム内のイベントだ。始めたばかりのプレイヤーはこのイベントにぶち当たり、そして何らかしらの条件を満たして独自スキルを習得して旅立つというオープニングイベントに違いない。

 ならば甘んじて受け入れよう。粋なことをしてくれるじゃないか。

「本当に無いんですけど、どうすれば独自スキルを学べますか?」

 まさに模範的な反応。我ながら従順なる良プレイヤーだ。


「いえ……学んでどうにかなるものじゃありませんけど……」


 ……あれ?

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