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四七.ラセニ王妃といっしょ

「今日はわたくしと遊んでくださいな」


 各部屋で目覚めると、各自『浄化』し教えを唱え、運ばれた朝食をユニの腕輪を気にしながら安全に食べ終わり、動きやすい服でと言われていたのでメラン組はいつもの外用カンフー着、ユニは作務衣に着替え、いざヘリアン王子と本物の『装置』を見ながら詳しい話を聞こう! と気合いを入れて待ち合わせ場所である入国してすぐにお世話になった休憩室に入ると、なぜかヘリアン王子だけでなく、リングト王とラセニ王妃も待っていた。

 

「昨日はもっと話したかったところを疲れているのなら仕方ないとひいたのに、子供達と会っていたと知っておさまらんのでな。連れてきた」


 ラセニ王妃を視線で示すリングト王に、健一郎たちは言葉につまる。

 そもそも本当なら今日ヘリアン王子から『装置』を見せてもらう予定だったところを、ヌタンス王女の頼みを聞く形だったとはいえ、他国の城でこっそり行動したあげく、『装置』ではない大がかりな術式を見てしまったのだ。

 今までのヘリアン王子なら母親をたしなめているだろうに苦笑しているだけなのを見ると、昨日のことを不問にする条件として王妃に付き合ってほしいということだろう。

 

「『装置』は逃げぬ。明日で良かろう。今日は妃とゆるりと遊ばれるがいい」


「……わかりました。王妃様直々に案内していただけるとは光栄です」


「うふふ。レオニダスとアントニスとは以前にもお会いしたけれど、ネストル王子とケンとユニは初めてでしょう? 貴方たち得意なものはあるのかしら?」


「メランの民ぞ。同じようなものだろうよ。あぁケンは異世界人だったな。オルキスの者はまず来ないから、さて、どうであろうな」


「とっても楽しみだわ。さぁさぁ早く行きましょう」


 リングト王は執務へと戻っていったが、ラセニ王妃はケンの腕を取り、体を、というより豊かな胸を押しつけるようにしてぐいぐいと引っぱる。

 本日のラセニ王妃の服は、晩餐会時のフリルとレースで全体を飾られた豪奢なスチームパンクドレスとは違い、今は胸元が大胆に開き、ぐっと上げられた胸が半分ほど見えている。歩きやすいようにか前は短く後ろは長いフリルスカートに包まれているのは、かかとが高く膝上まである謎素材ブーツ。晩餐会時のユニは常時見えていた絶対領域が、ラセニ王妃は歩いた時にだけチラ見えする状態だ。くっつかれて歩いている健一郎に足は見えないが、王妃に視線を向ければ白くてまろい谷間がもれなく目に入る。


「入国口からすぐの所にあった大きな建物を覚えていて? 貴方たちには今日はそこで存分に遊んでもらうわよ」


 またあの円形の乗り物に乗るのか、と顔色を悪くしたネストル王子とユニは、ラセニ王妃に断りを入れてからユニの薬を飲んだ。いわゆる酔い止めらしい。

 なにがあるかわからないからとアイテムボックス鞄に皆の持ち物全部入れて持ってきていて良かったな、と健一郎は思った。ユニがエレニ女王の母心から大量に持たされていた物がさっそく役に立った。

 2人が薬を飲み終わるのを待ってから健一郎は言った。


「ユニ、ストールを借りてもいいか?」


「いいですよ?」


 でもなんに使うの? と不思議そうにしながらも、ユニはレオの持っているアイテムボックス鞄からストールを出して健一郎に渡した。部屋が寒かった時用のストールでオルキス特産品のひとつらしい凝った一品だ。


「王妃様、お体が冷えそうなので、俺がこちらをかけてもいいですか?」


「え? ええ。よろしくてよ」


 美しい模様が織り込まれている薄くて華やかなストールを、健一郎はラセニ王妃の細い首にそっとかけると、手早く飾り結びを作った。


「これで安心です」


「わぁ。素敵な結び方ですね!」

「お似合いです」   

「母上、似合っていますよ」


「あら、そう? ありがとう」


 子供たちから褒められラセニ王妃の満更でもない様子に、健一郎はほっとする。こんな物つけられませんわとか言われなくて良かった。

 健一郎はそのままラセニ王妃の腕と腰にそっと手を回すと、「屋上に行くのですよね」とラセニ王妃を促した。


「そ、そうよ」


 健一郎のエスコートに驚いた王妃はうっかりつまづいたが、健一郎が難なく支える。


「大丈夫ですか?」


「ええ」


 うっとりした様子で健一郎と歩くラセニ王妃の後ろに、困惑顔のヘリアン王子、ネストル王子、レオニダス、アントニス、ユニが続く。


「あの、まさかとは思いますが」

「ちょっと待ってください。わたしも混乱しています」

「ケンは熟女もいける口か」

「王妃はまだ30代じゃなかったか?」

「え? え? そういうことなんですか?」


 ぼそぼそ話は前の2人に聞こえていないようで、難なく円形の乗り物の発着口に着くと、黒いリムジンを思わせる丸い乗り物が待っていた。

 右に息子であるヘリアン王子、左に健一郎のラセニ王妃。ネストル王子とユニをレオニダスとアントニスがはさむように座る。

 

「では、あちらに到着するまでに簡単に説明いたしますわね」


 円形の乗り物が動き出すと、ご機嫌なラセニ王妃が口を開いた。

 健一郎の様子とラセニ王妃の説明に気をとられたからか、薬が効いているからか、ネストル王子もユニも急降下に体調を崩すことはなかった。


 ラセニ王妃の説明によると、初めての入国者は無料でどれも遊べるが、2回目以降は自分の持ち金を使わなくてはならないらしい。

 

「得意なものがあればそれからにしますわ。ケンはなにかあって?」


 しなだれかかるラセニ王妃に、健一郎はうーんと考える。

 残念ながら、銀の玉系も、数字を当てる系も、カード系も、特別できるわけじゃない。


「レオとアトスは前に来たとき遊んだんだよな。オススメとかある?」


「俺は打つのが良かったな」

「俺は走るのが良かった」


「打つ? 走る?」


 サイコロ振るのか? 走るって馬が? ここでならノルドか?


「全員で参加されるのなら、乗り物がいいかもしれませんね」


「まぁ。乗り物ならヘリアンには負けなくってよ」

  

 自転車とかボートとかがここにもあるのか?

 

 初めて組はよくわからなかったので、最初は全員でできるものにしようということになり、全員でできるという乗り物の建物へと進んだ。


「いらっしゃいませ。7名様でお間違いないですか?」


「よろしくてよ」


「では、説明させていただきます」


 受付の執事のような格好のおじいさんの説明を聞く前に、乗り物を見た健一郎は理解した。

 ゴーカートか!

 いわゆる遊園地にある子供でも運転できるミニ車だ。

 

「運転の説明は以上です。続いて、アイテムの説明に入ります」


 違った! マリ○カートだった!


「アイテムが曲者なんだよな」

「あれさえなければなぁ」


「ふふふ。母上、今日こそ負けませんよ」

「そのセリフは一回でも勝ってから言うことね」


「ネス様! 私、理解できません!」

「初回ですし、気負わないでいいのではないでしょうか」


「初めての方がいらっしゃるので、初心者コースになります」


 初心者コースはカーブが少なく、コースアウトすれば自動で戻り、差が開きすぎると救済処置が発動する優しい仕様であること、アイテム種類が豊富なことが述べられる。


「では、いってらっしゃいませ」


 質問に答えてもらったり、アイテムの説明も聞けるというヘッドセット付ヘルメットをつけて全員がカートに乗り込むと、スタートの合図が鳴った。

 アクセルを踏み込むとぐぐっとかかるG。


『先頭はレオニダス、飛び出したー! 続いて、アントニス、ケン、ラセニ、ヘリアン、大きく開いてネストル、そして、大丈夫かー? 逆走中だぞ、ユニー!』


 実況もつくのか、と健一郎は感心する。


「ユニ、地図が見えるか? 進行方向が逆になってるから、ぐるっと向きを変えるといい」


「なにがなにやらわからないんですぅ。地図って半透明のこれですよね? えーっと、向きを変え……きゃあ」


『ユニが当たりを引いたよっ! 「誰かと入れ替わルーレット」スタートッ!』


 地図上の参加者のアイコンが順番に光っていく。音と光が早くなり、ファンファーレと共に止まった。


『レオニダスとユニが入れ替わったー! さぁまだまだ先はわからないぞー!』


「ああー、だからアイテムは嫌なんだ!」

「すみません~」

「あぁ、ユニに怒っているわけじゃないから。気にするな」

「はいぃ」  


『ヘリアンが「接着剤」を投げたよっ。惜しい。当たらなかった』

『おぉーっと、またユニが逆走し始めたぞー! みんなー、ぶつからないように気をつけろー!』

『ラセニが「氷」を拾ったよっ』


 どうやらアイテム専門のアナウンスと実況の2人いるらしい。


「きゃああ! のいてくださいぃ!」

「落ち着け。足をアクセルから離せば止まるから、それからゆっくり反転すればいい」

「はいぃ。あ、なんか変」

 

『ユニに「バウンド」がかかったから、空中ステージに入るよっ』


 ユニはようやく少し慣れてきたGから解放されて、綱渡りをしているような感覚になった。


「ひぃいいいい」


『空中ステージは一気にすすめるチャンスだよー!』


 ユニは通常コースを無視して、ぴょーんぴょーんとショートカットして進んで行く。


「なかなかやるわね」

「負けませんよ」


「むりぃ」


『アントニスが「油」に当たったよ! 滑るから気をつけてねっ』

『おっとラセニとヘリアンが踊るように滑っているぞー』

『ラセニが「氷」を投げたよっ』


「ちょ、母上! それは」

「油をなくすためよ。仕方ないでしょ」

「いえ、だから、氷も滑りますから」


『ヘリアンもラセニもまだ滑っているぞー』

『ユニが「花火」を落としたよっ』


 軽い破裂音と共に、周囲がカラフルに彩られる。


「すみませんん」


「とんでもない。ユニ、ありがとう。これで進めるわ」

「あぁ目がまわりました」


『アントニスとケンが「花火」で吹っ飛んだー! 地下のステージに入るよっ』


「地下まであるのか!」 

「初心者コースは3つだけなんだ」


『「幽霊」を突き抜けたよっ。怒った「幽霊」が追いかけてくるから早く逃げて!』


「ヤバい。あいつらにつかまると重くなる。急いで先に進もう」

「初心者コースでこれだと上級コースはどんなだよっ」


『アントニスは「虹玉」を拾って投げたよっ』

『虹の橋を渡ってアントニスとケンが空へと上っていくぞー。空中ステージに参戦だ!』 


「地上じゃないんだな。空からでもゴールできるのか?」

「ゴールだけは地上に戻らなくちゃならん。ほら、あちこちに矢印があるだろう? あのタイミングで方向転換すると地上への道が現れるんだ」

「それならそうと早く言ってくださいよぅ。なんかさっきから同じところをぐるぐるしているような気がしていたんです」

「ユニ、疑問を感じたらヘッドセットに聞かなくちゃ」

「そうでした。お話しできるのはわかるんですけど、答えが返ってくるっていうのに慣れなくて。あ、あー。行き過ぎちゃった」


 アントニスと健一郎は正確にハンドルを切り、すぐに地上に戻れたが、ユニはまだ空中コースをぐるぐるまわっている。

 2人はかなりショートカットできたので、地上にいたレオニダス、ラセニ王妃、ヘリアン王子に追いつくことができた。


「よし! 最後は走るだけだな! これなら負けん!」 

「そういえばネスは?」


『ゴール!! 1着はネストル!! アイテムをまったく触らず当たらず、すり抜けてのいっちゃーく!!』

『おめでとー!! でも、せっかくのアイテムだから、今度はぜひ使ってねっ』


「おー」

「やられた」

「しまったな」

「やるわね」

「手強いですね」

「うぅ。お話中すみません。これ、どうやったら終われるんですか? どうやってもタイミングが合わないですぅ」

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