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三八.朝のヒトコマ

 耳慣れているけれど、ところどころ違う響きに健一郎は目を覚ました。

 アントニスとレオニダス、ネストル王子が『教え』を唱えている。

 毛布と自分を『浄化』して毛布を畳んだところで唱和が終わったので、健一郎は声をかけた。


「おはよう。朝、だよな?」


 一日中明るいこの世界では、健一郎には今が何時なのか見当もつかない。


「朝であっているぞ」


「ケン、体の調子はどうですか?」


「ありがとう。もう大丈夫そうだ」


「起こしてしまってすまなかったな。これに毎日『教え』を唱えねばならないので、先に済ませていたんだ」


 レオニダスが持ち上げたのはシンプルな皮でできた斜め掛け鞄だが、ゲームでいうところのアイテムボックス的な術式が使われていて、毎日『教え』が必要らしい。

 毎日必要だなんて不便だな、と健一郎は思ったが。


「ネモフィラで開発された術式は『教え』はいらないのですが、メラン王国自体を買えるほどの値段なのです。ゼノン兄上が召喚した異世界人が術式の話を聞き、似た術式を編み出してくれたのですよ。ゼノン兄上はそれから術にのめり込むようになってしまって」

 

「まぁ確かに、これがあるのとないのとでは全然違うからな。唱和の手間くらいなんともない」


「嫁探しの旅が格段に身軽になった」


「アトスもレオも、以前にも嫁探しに行ったことがあるんだ?」


「俺は王とゼノンと一緒に行った」


 レオニダスに続いてアトスも答える。


「俺はゼノンと行って、今回が2回目だ」


「だから俺たちにネスに同行するよう声がかかったんだろう」


「どんな旅だったのですか? ゼノン兄上は、どういう経路を辿ったなど他国の情報は教えてくれたのですが、『これ以上はお前の旅が終わってからでないと話せない』と言って、詳しくは教えてくれなかったのです。あの時はそういうものかと思いましたが、今考えると、すぐに引き下がらず、何度でも聞けば良かったと後悔しています」


 珍しくしょんぼりしたネストル王子に、レオニダスは言葉を濁した。


「あー、いや、それは」


「ゼノンは色々やらかし」


「口を閉じろアトス! あー、ネス。旅は自らが体験できるところに意義がある。ゼノンが後から話すと言ったのなら、俺たちがゼノンの代わりに、ネスの旅の後にゼノンの旅の話をしよう」


「……どこまで話していいのか迷うな」


 ぼそりとつぶやいたアントニスをレオニダスが小突く様子から、健一郎のイメージするゼノン王子は、切れ者王子から、優等生ゆえに常識に疎い少年になった。


「おかしいですね。なんだか旅が楽しみになりました」


 不思議そうなネストル王子を見て、素直に良かったなと健一郎は思う。

 アントニスとレオニダスとのやりとりから察するに、ゼノン王子の旅は失敗続きだったかもしれないが、楽しかったに違いない。

 今回のネストル王子の旅が金策重視の政略結婚相手を探す旅だとしても、せっかくの旅なのだ。楽しまないのはもったいない。


「俺もなんだか楽しくなってきたよ」


 健一郎とネストル王子は笑い合った。


「さて、朝ご飯を食べるとしようか」


「さっそくこれの出番だな」


 レオニダスがアイテムボックス鞄に手を突っ込んだ時、


「開門! かいもーん!」


 昨晩聞いたのと同じ声が響いた。


「訪問者がいないのに開くのは珍しいな」


「俺たちに用事か?」


「輸出品の出発かもしれませんね」


 大きな門がゆっくりと開いていくので、健一郎は中が見えないかと目を凝らしていると、鈴の音のような高く澄んだ音が聞こえてきた。


「おいおい嘘だろ? エレニ女王のお出ましだ!」


「ケン、ネス、頭を下げろ!」


 そう言うアントニスとレオニダスも片膝をついて片腕を胸に当て頭を垂れた。

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