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三七.神話の存在

お待たせしました。またよろしくお願いします。

調査不足のまま書いております。間違いが発覚次第また書き直します。

すみません。今回の話、受け付けなければ飛ばしてください。

後書きに今回の要約を置いています。

次回からは旅が進みます。

 端的に言うと、『ダーマ』とは『宇宙の大きな力』だ。


 ダーマと似た響きである達磨大師の像を禅宗の祖師であることから奉っているので、ダーマを達磨大師のことだと誤解されることが多いが、別物だ。

 少林寺拳法が金剛禅であるとわかると、宗教的な名前を聞いただけで、いわゆる神様的な存在なのかとも誤解されることもあるが、それも違う。

 『目に見えないけれどいつでも自分と共に在り、自分を良い方向に推してくれる力』を少林寺拳法では『ダーマ』と称している。


 『ダーマ』という響きじゃなくとも、そういう力を感じたことのある人は多くいるだろうし、健一郎もその一人だった。 


 健一郎が、どうして自分は『ダーマ』を引っかかりなく理解できたのかを考えたところ、おそらく祖母の存在が大きかったのだろうなと思えた。 

 祖母は、毎朝仏壇に手を合わせ「ご先祖様、いつも見守っていただきありがとうございます」と感謝し、健一郎がヤンチャなことをして両親に叱られた後には必ず「誰も見ていなくとも、悪いことをしたらわかるもんだよ」と諭してくれた。

 だから健一郎は『自分は目に見えないなにかに見守られた存在なのだ』と自然と思うことができたし、こっそりとでも悪いことをしにくくなった。


 健一郎自身がすんなり理解できただけに、説明する側になると難儀した。

 なんとなくも含めて理解できる人、想像もつかない人、誤解する人にわかれるからだ。


 最初は、世代の差かと思っていたが、そうでもなかった。

 大人の多くは、ダーマという響きに馴染みがなくても、感覚的にわかるようだった。今までに、健一郎と同じように身近で年長者が話していたり、仏壇にお参りする文化があったり、大きな力を感じる経験があったりすることが多いからかもしれない。

 大人ならみなそうかと思うとそうでもなくて、「目に見えない力など信じられない」「あやしい宗教だ」と言う人も一定数いる。


 健一郎の同級生などは、悪びれずに「バレなければなにをやってもいい」と思っていたので、健一郎が「それはおかしい」と指摘すると、「なに言ってんのコイツ?」と変な顔をされた。今考えると、健一郎自身もう少し言い方があったのではないかと反省するものの、「他人に知られなければなにをしてもいい」という考えには、今でも共感できなかった。

 これは、ダーマうんぬんというよりも、倫理感の違いなのかもしれない。


 健一郎が教える立場になってから、幼い子供に説明すると「漫画のアレみたいなヤツか」「アニメのアレだ」という感じで、多少ずれていてもイメージしてもらえた。二次元の知識がなくとも、そういうものだと聞いた子供は、なんとなく意識できるようになる子が多い。

 でももちろん、そんなあやふやなモノはイメージできない、と言う子もいる。

 最初はそんな感じでいい。意識していれば体感する瞬間がくるだろう、と健一郎は思っている。


 同じ日本で暮らしていても、経験や感覚的な違いで理解度が変わる。

 これが、別の国で別の宗教観を持った相手だと、また違ってくる。


 海外でも少林寺拳法は活動している。

 少林寺の門を叩く人は少林寺に興味ありきなので、『ダーマとはスピリチュアル的ななにか』というふわっとした解釈から、修行僧のごとく本格的に受け入れてくれる人まで様々だ。

 反対に、どうしても相容れない場合もある。 


 というようなことを踏まえて、健一郎は目の前の異世界人にどう説明しようかと思った。

 今、健一郎とメラン王国民との仲は悪くない。うっかりしたことを言ってこの関係を悪化させたくはなかった。

 現在のメラン王国で唱えられている『教え』の中に『ダーマ』の記述は残っていない。文ごと削られているか『国』など別の表現にされている。 

 

 最初に『教え』を伝えた拳士はその辺の説明はしなかったのか? したけど理解されなかったとか? そもそも、この世界に宗教の存在があるのか?

 

 宗教と言ってしまうと一気に胡散臭く感じてしまうのは健一郎の感覚なのかもしれないが、お互いの文化を尊重し、うっかり発言をしないためにもメラン王国の、この世界の宗教事情が知りたかった。

 

「ダーマとは宇宙の大いなる力、なんだけど」


「ウチュウノオオイナルチカラ」


「この世界に宗教はあるのか?」


「シュウキョウ?」


「信じられている神様の存在というか」


「カミサマ?」


 片言で繰り返すネストル王子の様子から、『宇宙の大いなる力』『宗教』『神様』これらの単語は翻訳丸をもってしても通じないようだとわかった。

 

「この世界の始まりってどういう風に伝わっているんだ?」


 そこで健一郎が考えたのは創世記があるかどうかの確認だった。

 世界の始まりを記した創世記なら神様が出てくるのでは、と思ったのだ。


「地図を見たとき話しただろう? 最初は、硬貨と同じ7つの国があった、と」


「それしか話さなかったな」


「そうだったかな」


 アントニスとレオニダスが顔を見合わせている。


「私からお話ししましょう。7人の代表者が7つの国を立ち上げたのが古代の初めと考えられています。古代文明は栄華を極めていたようですが、その資料は現在ほぼ残っていません」


「ほぼ残っていないのに、どうして発展していたとわかるんだ?」


「考古学者が稀に古代の遺物を発見するからです。それによると、現在よりもかなり高度な文明だったのがうかがえます。術式で使うのが古代語なので、古代では術が日常的に使われていたのだと考えられています。衰退した理由はわかりませんが、7つの国は分裂合併を繰り返し今のカタチになりました」


 健一郎はさらに詳しい説明を待っていたが、ネストル王子は口を閉じたままだ。


「えっと、それだけ?」


「はい。なにかおかしいですか?」


「いや、おかしくはないんだけど……」


 この違和感はなんだろう? なにか足りないと思ったけれども、健一郎には具体的な足りない部分がわからなかった。


 もしここに健一郎の雑学好きの友人がいればこう言っただろう。

 日本神話なら、天地開闢(てんちかいびゃく)で世界が生まれ、神が生まれ、日本列島をつくり、神の子が増えて、といった部分がない。

 創世記なら、天地創造で世界が造られて、人間が造られて、楽園から追放されて、という部分がない。

 つまり『世界ありきでいきなり人間の歴史になっている』と。


 創世記の詳しい内容は忘れている健一郎も、足りないのは神話部分だと思い至った。

 神話や創世記が真実かはともかくとして、自分が住んでいるこの土地がどうやってできたのか、長い年月の間、誰も疑問に思わないものなんだろうか? 事実を元に色々と想像を広げるもんじゃないのか?


「もしかして、7人の代表者が神か神の子なのか?」


「カミ、というのはわかりませんが、7人の代表者はヒトですよ」


「それはわかっているのか」


「はい。他国の詳しい資料は読んだことがないですが、メラン王国の系譜なら読んだことがあります。生没年や系図が残っていて、それを見る限り、今の私たちと寿命はそれほど変わらなかったので、ヒトだと思います」


「……」


「それでケン、ウチュウノオオイナルチカラとはなんですか?」   


 そこからか!


「ここでの宇宙っていうのは、宇宙空間のことじゃなくて」


「ウチュウクウカンとはなんですか? ウチュウとは違うのですか?」


「宇宙空間は星の向こうに広がってる空間のことで……って、ここには星がないんだったな。ごめん。宇宙空間のことは忘れて。宇宙とは、世界全体のことで」


「世界全体とウチュウは同じなんですか?」


「厳密には違う」


 見えてる世界全体だけじゃなくて、見えない時間や空間なども含んだ全部だから宇宙を使ったのだけど、宇宙というワードが使えないとなると、健一郎はいい説明がぱっと思い浮かばない。

 アニメや漫画を知っている子供なら、『宇宙のすごいパワー』とでも言えば、勝手な妄想を足して理解してくれるくらい想像力が豊かだ。

 逆に高齢者なら、『理屈ではない大きな流れ』で人生経験から納得してもらえる。


 文化の違う海外の人に説明するのと似ているが、共通知識が少ないので使える語彙が狭い。 

 健一郎は、きっと昔召喚された拳士は説明しきれなかったんだろうなと思った。


「ネス、今日はそのへんにしておけ」


「まだ先は長いぞ。そろそろ寝かせてやれ」


「そうですね。今日はケンも疲れていますしね」


「今って夜なのか?」


「私がケンの部屋に訪れるより少し早いくらいですね」


 ネストル王子はいつもその日が終わってから健一郎の部屋に来ていた。となると、今は健一郎の感覚では深夜0時前後なのだろう。いつもより早い時間に起こされ、勝ち抜き戦をして、倒れて少し眠っていたとはいえ、一気に疲れを感じた。


「寝てもいいか?」


「もちろん」


「明るさが気になるならこれをかけるといい」


 レオニダスがくれたのは薄い遮光布だった。軽いので顔にかぶせても違和感が少ないが、しっかり遮光してくれる。


「ありがとう」


「おやすみなさい、ケン」 

どうもこの世界には神や神話の存在がないようだ。

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