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三三.出立

 こわばっていた体を動かして、健一郎は3つ目の巣穴から這い出た。

 途中、手をぐっと引かれて顔を上げる。目を細めてアントニスだった。

 アントニスは健一郎の手を掴んだまま、素早く巣穴から離れる。

 巣穴の周囲では、油断なく傭兵隊が武器を構えているのが見えた。

 傭兵隊の包囲網の外でネストル王子が待っていた。


「ケン、2人は?」


「待たせたかの」


「この巣穴からはもう出ないはずだ」


 心配そうなネストル王子の問いかけに、巣穴から出てきたファウロスとレオニダス本人達が応える形になった。


「ここはもう良い。他の巣穴に協力してくれんか」


 ファウロスの指示に傭兵隊はすぐに従った。まだあちこちの巣穴からアレが出続けているのだろう。

 ネストル王子、健一郎、アントニスのそばに来たファウロスとレオニダスは、『解除』を唱えた。健一郎も同じくしてゴーグルとマスクを外す。


「ケン、大丈夫か? 顔色が悪い」


「あ、ああ」 

 

 緊張が解けたからか、健一郎は自分の体が一気に重くなったように感じた。

 

「少し休んでおけ」

 

 アントニスとレオニダスに言われて木陰に座り込んだところで、健一郎の意識はなくなった。







「予定通りでいいんだな?」


「かまいません」


「わかった。では、そちらは頼むぞ」


「はい。兄上たちもご武運を」


「こちらは任せておけ」


「儂もおるでな。心配せずに行くといいぞ」


「ファウロス、ありがとうございます」


「なになに。ネスが戻ってくるまでに巣穴をじっくりと攻略しておくから、楽しみにしておれ」


「はい。よろしくお願いします」


 健一郎の耳に話し声だけが聞こえてくる。


「ネストル、良い出逢いがあるといいな」


 深くて優しい声は、あの賊のような王様だろうか。


「……はい」


「レオニダス、アントニス! ネストルと異世界人を任せる!」 


「は!」


 ようやく健一郎はまぶたを開けることができた。  

 まぶしくて、何度も瞬きを繰り返す。

 どこにいるかまではわからなかったけれども、この明るさは野外だ。

 もふもふした、やわらかいのにしっかりしているビーズクッションのような物に、健一郎は身を預けているようだ。


「ケン、気がついたのですね」


「良かった。心配したぞ」


「体は大丈夫か?」


 小声の王子、レオニダス、アントニスに健一郎は頷く。


「あれからどうなったんだ? 大会は?」


「それについてはおいおい話す」


「今は出発しなくてはならない」


「まだ眠っていても大丈夫ですよ」


「え、でも出発って」


「ノルドが運んでくれます」


 てことは、俺はすでにノルドに乗ってるってことか?

 健一郎が手元に視線を向けると、確かに見覚えのある毛並みがあった。

 どういう風になっているのか健一郎からはわからないが、健一郎の体半分がノルドに埋まっているような状態になっている。


「ノルドはお前を落としたりしないから安心しろ」


「病人やけが人を運ぶのもうまいんだ」


 ノルドのことは短いつきあいながらも信頼できていたので、健一郎は素直に頷いた。


「異世界術の使いすぎでしばらく動けないと思いますが、出発はずらせませんから、説明は後ほど。今は合わせてください」


 なるほど、と健一郎はまた頷く。


 ネストル王子とレオニダス、アントニスもノルドに跨がると、どっと歓声が沸いた。

 健一郎が見回すと、いつもの訓練場に、メラン王国民があふれんばかりに集っていた。

 

 みんな王子の見送りに来ているのか。


 メラン国王が台に乗ると、すぐに訓練場は静かになった。


「これからネストルは嫁探しの旅に出立する! 良き旅を!」


「良き旅を!!!」


 唱和した人々は二手にわかれて、ネストルたちのために、出口までの道を開けた。

 その道をレオニダスを先頭に、ネストル王子、健一郎、アントニスが続く。

 静かに見送る人々の間を、王子も黙々とノルドを進めている。


 王族は皆旅に出るっていうし、旅に出ること自体が儀式みたいなものなのかな、と健一郎は思った。

 兄王子たちも旅には出たんだろうか? 後で聞いてみよう。


 訓練場を出ると、レオニダスが言った。


「これから一息に隣国オルキスまで行く。休むのはそれからになる」


「ケン、聞きたいことがあるだろうが、その時になんでも答えるから、まずは道を急ぐぞ」


「はぐれることはありませんから、安心してくださいね」


「わかった」


 勝ち抜き戦や巣穴の中の探索は結局どうなったのか。

 今は昼なのか夜なのか。

 隣国オルキスまでどれくらいかかるのか。

 聞きたいことは山ほどあるが、山を駆け下り始めたノルドの動きは激しくて、とても会話できそうにない。

 どういう仕組みかわからないが、ノルドに包まれた健一郎はほとんど揺れを感じることも無く運ばれている。


 ヤバい。また眠ってしまいそうだ。


 懐かしい、冬のコタツのぬくもりを思い出しながら、健一郎の意識は再び落ちていった。

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