二八.ファウロスとネストル王子の誘い
「お待たせしました」
ネストル王子とアントニス、レオニダスが戻ってきた。
「あれ? 煙を入れるのはもういいのか?」
「はい。今日から私たちはしばらくメラン王国を離れます。煙を入れる仕事も傭兵班に引き継ぐのです」
「さっきあれだけ出たから、もうこの近くではそんなに出ないはずだ」
「傭兵隊でも大丈夫だ」
「ようやく儂の出番というわけじゃな」
「?」
「ケン、先日、貴方が話してくれた異世界品を参考に、ファウロスと私で作ってみたのです」
「これからそれを使うんじゃ」
「まさか、赤外線サーモグラフィを作ったんですか?」
そんなに簡単に作れるものなのか?
「さーもかどうかはわからんが『暗くても見えるが煙を見ず、生命に反応する』ようにした。それなら良いんじゃろ?」
「はい」
温度が必要なのではなく、巣穴に生命体が残っているのかが知りたいのだから、むしろその方がいい。
「『煙を突き抜けて見る』という発想が私たちにはありませんでしたので、ケンの話はとても役に立ちましたよ」
「久しぶりに燃えたわい。さあさあ、レオ、どの巣穴から入るんじゃ?」
「ロスよ……まぁいい。こっちだ」
レオニダスは初めの巣穴の方へと戻りながら説明してくれた。
「異世界生物が多い穴は毎回ほぼ決まっている。一番多い場所は向こう側だが、こちらで多いのはこのあたりだ」
4つ目の巣穴を通り過ぎながらレオニダスは続ける。
「計算上は、距離が同じなら、どの巣穴も同じ数を数えれば煙が出てくるはずなんだ。それが多少距離の違いがあるとはいえ、まったく煙が上がらないのはおかしい」
「そうか。中がただの道ではなく、広間のようになっているのかもしれないのか」
「そうだ。これは俺の勝手な予想だが、最初の巣穴から2つ目まではただの道だろう。でも、確かめるためにも端である最初の巣穴から入って欲しい」
「了解した」
最初の巣穴に着くと、ネストル王子が荷物を広げた。
「これがファウロスと作ったものです」
異世界品である花粉対策ゴーグルの左目側がサングラスのように黒くなっていた。
「両目に細工しても良かったのですが、やはり普通の視界も必要かと思い、こうなりました」
左目が黒いゴーグルは3つあった。
「儂とネス、そしてケンで使おうと考えておる」
「ケンが思い当たる場所があるのではないかと思いまして。無理強いはしません」
ネストル王子は健一郎の契約者なので、うっかり強要する言葉を言わないように気をつけている。
「遠慮無く断っていいんだぞ」
「さっきの今だからな」
アントニスもレオニダスも健一郎を気遣っている。
確かに、さっきは命の危険を感じた。
でも、もう同じ失敗はしない。
それに、ここまで来たら自分の目で確かめてみたい。
「俺も行きます!」
「そうこなくてはの」
「ケン、助かります」




