二三.勝ち抜き戦の朝
勝ち抜き戦の当日、健一郎がアントニスとレオニダスに起こされたのは、いつもより早い時間だった。
いつも通り城の食堂で朝食を食べて朝の訓練に行くと思ったら、二人は武器を手にした後、城の地下洞穴に向かった。
「今日は訓練場が混むから満足に訓練できないんだ」
「訓練場で粋がった若者の鼻を折るのも楽しいが、洞穴なら『教え』も唱和できるしな」
そんなことしていたのかと健一郎は一瞬呆れたが、
「俺たちは元々傭兵隊所属なので訓練場よりも洞穴の方が馴染んでいる」
「傭兵隊はみな一瞬の隙が命取りと自覚しているから、他人の訓練にちゃちゃを入れたり、力自慢したりするような小物はいない」
どうやら教育的指導らしく、不適切な現場を見かけたら傭兵隊の誰でも適度に手を出す方針のようだった。
心を折らずに闘争心を煽るのがなかなか難しいなと語る二人の様子から、メラン王国民の生存確率を上げるためなんだとわかった。
洞穴にはすでに傭兵隊が集まっていて、気合いの入った準備訓練をしていた。
本来なら、訓練場で基礎訓練を終え、洞穴では自分の気になる部分を強化するらしい。今日は特別に三人は洞穴で基礎訓練からした。
今日は術を使うから、と対戦待ちをしている間に個別に『教え』を唱える。
「俺たちが予想していたよりケンは動けるようになった」
「ケンは避けるのがうまいから、攻撃の機会を作る練習をしよう」
「頼むから、間違っても敵いそうにない相手に向かっていってくれるなよ」
すでに何人もの異世界人が異世界生物の犠牲になってきたからか、二人は口酸っぱく健一郎に念を押してくる。
「ファウロスとの約束もあるし、気をつけるよ」
健一郎はアントニスとレオニダスからの攻撃を避けながら、避けきれなくなって当たる直前に、何度も同じ効果の『結界』を唱えられるように練習する。
「術の効果は唱えた者が指定することになる」
「倉庫など据え置き型なら術式で術も効果も指定するんだが、対異世界生物戦では術者の咄嗟の判断力が重要になる」
「威力が強い分にはいいんだ。まったく効果が出ないのが一番困る」
「攻撃の機会を作ってくれれば、俺たちがケンを守る」
「その一瞬を作れるようにしてくれ」
三人で訓練した後、「整列」の号令で新人の列に並ぶよう指示され、健一郎は新人の列の最後尾についた。
新人の列には健一郎よりも若い男たちが並んでいる。
若いけれども、傭兵隊にいるということはすでに働いているのだ。若者たちは落ち着かないながらもどこか誇らしげだ。
皆が『教え』を唱和する間、健一郎は小声で『教え』を自分の知っている内容で唱えると、知らず緊張していた心が凪いでいくのがわかった。
よし。
「合掌!」
「班で対応する巣穴番号と場所を確認後、訓練場に移動!」
「これより、班別行動を開始する!」
巣穴には昨日のうちに番号がふられ、各チーム代表がくじを引き、今回受け持つ巣穴が決定する。
傭兵隊の班は、担当巣穴でチームが狩り逃した異世界生物をもらさず狩るのが仕事だが、大量発生など異常事態が起きるとすぐに対処する重要な役割を担っている。
「さぁ、俺たちも行こう」
「ネスチームは班じゃなくチームなんだ?」
「そうだ。王チームと王子チームは巣穴に煙を発生させた後、煙の確認をしてからの参戦になる」
「王族チームは遊撃隊なんだ」
それでも王チームが首位なのか、と健一郎はまだ見ぬ王に舌を巻いた。




