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一九.異世界品倉庫

 今回調べたい異世界品はネストル王子が召喚した異世界人の物なので、ネストル王子の同行が必要だという。

 ネスに伝えておく、とアントニスが先触れとして城へと向かった後、レオニダス、健一郎、ファウロスがゆっくりと追いかけることになった。健一郎がノルドに慣れたとはいえ、まだ早駆けできないからだ。

 

 小屋につめていた兵士が、小屋の中にずらりと並びファウロスを見送る。


「儂がいない間、ここはテオに任す」


「は!」


「では皆、留守を頼んだぞ」


「は!!」


 ファウロスが外に出るとすぐに、首飾りをつけた状態のノルドが一頭近づいてきた。


「儂の相棒じゃ」


 軽々とファウロスが相棒に跨がるのを見て、健一郎は細身のファウロスはレオニダスと二人乗りするのだろうと思っていただけに意外に感じた。


「ノルドは二人乗りできない」


 レオニダスが健一郎の表情を読んで教えてくれた。

 健一郎が先程乗っていたノルドが迷いなく健一郎へと近づき、自らかがんでくれた。


「こんなにかしこいのに? こぶがあるからか?」


「いや、『契乗(けいじょう)』は一対一の術式だからだ。乗せられる命は契約者だけと決められている」


「なんじゃ、ケンは知らんのか? この部分に術式が書かれているんじゃ」


 ファウロスはノルドにつけられた首の飾り部分を指した。


「これを持つとノルドが近づいてきたじゃろう? ノルドが自分に相応しい相手だと認めた証拠じゃ。認められなんだら乗ることすらできん」


「まるで言葉がわかるみたいですね」


「ノルドはこれを通して儂らの意識を読むと言われておる。なにも言わずとも、的確に動いてくれるじゃろう?」


 健一郎が想像していたよりもノルドは高度な生物らしい。

 ただの石にしか見えない飾りも、実はすごい代物だったようだ。  


 レオニダス、健一郎、ファウロスの順でノルドを進める間、ファウロスは健一郎へとせっせと話しかけてくる。


「こっちの生活には慣れたか?」


「はい。皆様よくしてくれますので」


「まどろっこしいから、儂にも同じように話して良いぞ」


「すみません。俺の先生と似ているので、つい」


「なんじゃ、師とな? 儂と似ているとはどんな男前じゃ?」


「姿が似ているというよりも、あり方が似ているように感じます」


「ほうほうほう。大変な男前だったようじゃな」


 後ろでにやにやしている気配すら似ていると思っていると、前から呆れたようなため息が聞こえた。


「ロスよ。話をちゃんと聞いていたか?」


「聞いておるわ。それでなんの師なのじゃ?」


「少林寺拳法……こちらでの『教え』の先生です」


「ほう! 久しぶりにショーリンジと聞いたぞ」


「ケンは『教え』も全部知っている」


「ということは使い手なんじゃな? 後で良いから見せてはもらえんか」


 どうやらファウロスは、かなり昔に『教え』の異世界人が伝えた少林寺拳法を見たことがあるらしい。

 『教え』だけではなく武術自体も伝えられていたが、残念ながら長い年月で消えてしまったそうだ。


「異世界生物との戦いがあるからの。対人の術はあまり重要視されなかったのじゃ。儂が覚えていれば伝えていきたかったが、なんせ見たのが子供の頃じゃて」


「80年も前だろ? 覚えていないのにも無理はない」


「いくらなんでもそんなにいっとらんわ! せいぜい70年前くらいじゃ!」


「変わらないだろうが」


「そんなことを言うなら、儂とレオも同い年ということじゃぞ?」


「大違いだな」


「くぅ。納得いかん!」


 どうやらファウロスは70~80歳、レオニダスは60~70歳で、二人は10歳ほど離れているらしい。

 それでこれだけ矍鑠(かくしゃく)としているとは。

  

「お元気そうでなによりです」


「ケンよ。長生きの秘訣は、好きなことをすることじゃぞ! これと決めたことがあるのなら、決して諦めないことじゃ。しかし、どうにもうまくいかんこともあるじゃろ? そんな時は別のことを見つければ良いのじゃ」


 健一郎は矛盾したことを言われたような気がしたが、いい意味で粘り強くあれ、しかし引きずるなということだろうと解釈した。


「ロスの興味の対象はもう少し少なくてもいいと思うけどな」


「なにを言うか。多いにこしたことはないじゃろう」


「俺の嫁にまで声をかけるのはやめてくれ」


「美しいものに美しいと言ってなにが悪いんじゃ」


「それは俺の権利だ。あんたは自分の嫁にだけ言えばいいだろ」


「女性はすべからく愛でるべし、じゃ」


 あぁそんなところまで先生に似ているのか、と健一郎はおかしかった。 


 レオニダスとファウロスがすっかり気心の知れた仲なのは、傭兵として同じ王国で仕事をする機会が多かったかららしい。


「ロスには何度も助けられた」


「儂は死にたくなかったから必死だっただけじゃ。感謝の気持ちがあるなら態度で表さんか。相変わらず、容赦のないヤツじゃのう」


「本音で話した方が嬉しかろう?」


「まぁそうじゃが」


「なら問題ないな」


「くぅ!」


 ファウロスといるレオニダスは、アントニスといる時のレオニダスとは違って軽口が多く、健一郎にはそれも面白かった。




「お待ちしていました」


 城の近くだが目立たない位置に建っている異世界品をしまっている倉庫の前で、ネストル王子とアントニスがファウロスたちを待っていてくれた。

 ネストル王子自ら出迎えたことに健一郎が驚いていると、異世界品に一番詳しいのはファウロスなのだと王子が話す。


「異世界品には夢が詰まっとるからの!」


 ファウロスは少年のように目を輝かせている。

 一階建ての倉庫は簡単な作りのように見えるが、強固な術がかけられているらしい。

 ネストル王子が扉に手をかざすと、ふっと扉がかき消えた。

 王子、ファウロス、レオニダス、健一郎がそれぞれ手をつないで中へと入り、アントニスは見張りのため外で待つ。四人が入るとすぐに消えた扉が現れて、倉庫が閉ざされた。

 健一郎は、窓もないので暗いだろうと思っていたが、電灯もないのに倉庫内は明るかった。中にヒトが入れば自動発動する術だとネストル王子が教えてくれた。

 ただ、奥行きのある倉庫の両側には幾段もの棚が並んでいるものの、中身は空っぽだった。


「ネスよ、初めの棚じゃ」

 

「はい」


 ファウロスに促されてネストル王子が目的の棚へと手をかざすと、空っぽだったはずの棚に整然と並んだ異世界品が現れた。


「光学迷彩?」


 健一郎が思わず声を上げると、ファウロスは「知っとるのか? 盗難防止なんじゃが」、ネストル王子は「異世界人の知識から編み出された『迷彩』の術式です」と簡単に説明してくれた。


「ケン、探している異世界品がありますか?」


 現れた異世界品はけっこうな量だった。健一郎はひとつずつ流し見ていく。

 親切なことに、ひとつひとつに博物館の展示品のように、名称と簡単な説明が記載されていた。

 読めないけどな、と思っていたら、なんと日本語表記もされていた。


「ここの整理をしてくれたのは、私が召喚した収集家の一人です。『迷彩』の術式もその異世界人が作ってくれました」


 ということは、日本のオタクが分類したはずだから……。


「これは召喚した異世界人別でならべてあるのか?」


「そうです。全部を種類でわけずに、まず召喚した異世界人でわけ、その範囲で種類別にわけていたはずです」


「今見えているのが、ネスの最初の異世界人の異世界品じゃ」


 銃があったのでぎょっとしたが、モデルガンだった。

 何丁もあるので、サバゲー好きな異世界人だったのかもしれない。

 良かった、と思ってその段を見ていくと、目的の物があった。


『ファイバースコープ検査カメラ』

『赤外線サーモグラフィ』

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