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一八.異世界生物の巣穴

読んでいただきありがとうございます。

 これまでの健一郎の乗馬体験は、係員に引かれてゆっくりと歩く馬の背で揺られただけだ。

 足を乗せる(あぶみ)もないノルドは、馬と同じくらい高さがあるので怖いと思っていたけれど、隠されたふたつのこぶと、もっさりとした毛のおかげで、想像していたよりも安定感があるし、毛が衝撃を吸収してくれるので股もすれずに痛まない。

 ノルドは人間の言葉がわかるかのように、健一郎が手綱を取らなくても思うように動いてくれる。よくよく見れば馬の手綱とは違って、口の部分につながっていないので、手綱ではなくノルドに乗っている時につかまる持ち手のようなものらしい。

 おっかなびっくりしていた健一郎も、だんだんと周囲の景色を楽しめるようになった。

 

「あちこちにある穴はなんだ?」


「それが、明日狩る異世界生物の巣穴だ」


 岩山や草むらにマンホールくらいの大きな穴がほげ、その横に赤い布をつけた棒が刺さっていたり、赤い布がそばの枝に巻かれていたりしている。

 それがちょこちょこあるので、うっかり落ちてしまわないかとハラハラしていたけれど、ノルドはうまく避けて歩いていく。


「こんなにあるのか?」


「中でつながっているんだ」


「入るなよ。迷って出られなくなるぞ」 


 そこまで命知らずじゃない、と健一郎は思う。


「明日、定刻になると巣穴に異世界生物が嫌う煙を焚く。そうすると中から出てくるから、みんなで一斉に狩るんだ」


「毎週やってるんだが、どうしても取りこぼすみたいで、根絶やしにできん」


 害虫駆除みたいなものなんだな、と健一郎は理解した。


「穴が増えていれば担当の者が印をつける」


「その印が異世界生物に外されることもあるから、どうしても抜けができるんだ」


 毎週かかさず駆除しているにも関わらず増えているのだから、相当繁殖力が高そうだ。

 それにしても増えすぎだよな。分裂して増えるのか?


「穴の中には入らないのか?」


「昔は入っていたらしいが、今は穴が増えすぎて道が複雑になっているから、俺が知っている限りでは入っていない」


「道がわかれば入ってもいいか?」


「ケン、なにを考えている?」


「駆除できた穴を埋めていけたら穴の数が減るかな、と。少ない数なら、印がなくなっても覚えておけるだろう」


「なるほど」


「いや、迷うと言っただろう? 危険な真似はするな」


「丈夫な紐みたいな物を持って出口と繋いでおけば迷わないと思う。道を一気に全部埋めるんじゃなくて、部分的に埋めていけば、時間はかかるかもしれないけど少なくなっていくんじゃないかな」


「……いいかもしれないな」


「管理長に話してみるか」


 山にいくつかあるという異世界生物を管理する小屋へと三人は向かった。


「異常ありません!」


 レオニダスの姿を見てすぐに、小屋の前に立っていた兵士が姿勢を正した。


「なによりだ。ファウロスはいるか?」


「はい。先程見回りから戻ったばかりです」


「少し話がしたい」


「取り次ぎます」


 兵士は小屋の中へと入ると、すぐに出てきた。


「お入りください」


「アトスとケンも来てくれ」


 レオニダスもアントニスも、もうノルドから降りていた。

 え、これどうやって降りるんだ、と健一郎がまごまごしていると、ノルドがまたかがんでくれた。


「ありがとう」


 そっと首元をなでると、ノルドは「気にするな」という感じで首を振った。

 ほんとかしこい生き物だなと思いながら、健一郎も小屋へと入った。


 ログハウスのような見張り小屋は、入ってすぐに炊事場、その横に大きな机と椅子があった。

 大きな机にレオニダスと同じ50~60代に見える細身で白髪の男が座っている。


「ロス、久しぶりだな」

 

「レオがこんなところに来るなんざ、珍しいこともあるもんじゃ」


 面白そうに笑う男は、「異世界人のケンじゃな。(わし)はファウロスじゃ。異世界生物の管理長をしておる」と簡単に自己紹介をして、三人に席をすすめた。

 炊事場にいた兵士がお茶を運んで配り、また炊事場に戻ろうとするのを、ファウロスが引き止めて、二階に行くようにと告げる。


「話があるとか?」


「そうだ。ケンが面白い提案をしてくれたんでな。実際に役立つかどうか、聞いて判断してもらいたい」


「ほう」


 ファウロスの視線に促されて、ケンはざっくりと思ったことを話した。


「なるほどの。丈夫な紐で穴の中で迷うことを防ぎ、異世界生物がいないか目視で確認できた道を塞いで、穴と道の数を減らす、と」


「ロス、できそうか?」


「煙を焚いて異世界生物が外に出ている時なら、巣穴に入ることは可能じゃろうな。ただ、煙が残っていないと異世界生物に遭遇する可能性が捨てきれぬ。狭い巣穴の中では満足に戦えぬからな。遭遇はできるだけ避けたいの。安全に見て回るためには人間も煙があるうちに入るべきじゃ。しかし、あの煙は人間には害がないが、物を焼いた煙と同じで目や喉は痛くなる。煙の中で目視できるとも思えん。故に、賛成はできかねる」  

   

 ファウロスの言葉に、アントニスとレオニダスは今まで穴に入らなかったことに納得したようだが、健一郎は違った。

 

「ケンはまだ巣穴に入ることを諦めていないようだな。まだなにか考えがあるのか?」


「赤外線暗視スコープがあれば煙があっても見えるだろうし、ゴーグルと防塵マスクがあれば煙の中でも大丈夫だろうと思ったんですけど……。この世界にはないですよね」


「それらは異世界品じゃな」


「知ってるのか?」


「まったく同じではないかもしれんが、ネスの異世界人が似た響きの物を置いていったはずじゃ」


 そう言えば、ネスの最初の異世界人が罠を教えてくれたって話してたな。

 いったいどの筋の地球人だったんだよ。

  

「ケン、その異世界品があればできそうか?」


 レオニダスに健一郎が頷くと、ファウロスがにんまり笑った。


「面白い。儂も連れて行け。役に立つぞ」

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