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一四.召喚は水曜日

「ケンも異世界術が使えるようになったそうですね」


 異世界術の詳しい話を聞きたい、とアントニスとレオニダスに頼んだところ、また夜更けに、ネストル王子が健一郎の部屋にきてくれた。

 もらったばかりの術本をながめていた健一郎の前の席に座るその顔は、やっぱり疲労がたまっている。


「お仕事お疲れ様」


「……『教え』もご存じだとは思いませんでした。『教え』の異世界人と同じ世界からの異世界人でも、知らない人ばかりで、てっきりもう廃れたのだと思っていました」


「あー、うん。廃れてはないんだけど、当時ほどの勢いはないかもしれない。『知らない人ばかり』って、どんだけ俺の世界の住人を召喚したんだよ?」


「正確な人数は資料を見ないとわかりませんが、私が召喚しただけでも、十人以上ですね」


「そんなに?」


「ケンの世界は安全なスイですからね」


「スイ?」


「えぇ。確かこれも教えの異世界人からきいたのですが、ヨウビがあるのでしょう? ケンの世界と繋がるのはスイヨウビなのです」


 この世界も健一郎の世界と同じような一年があり、7日周期で数えるとちょうどいいことがわかったらしい。

 重なっていると思われる6つ異世界と繋がるタイミングは、曜日ごとに違い、地球と重なるのは水曜日なのだとか。

 

「ゲツとモクは凶暴な異世界生物しかいないと考えられて、メラン王国とネモフィラ王国では召喚を禁じています。カには異世界人がいるにはいるのですが、倫理感が合いませんので、あまり召喚したくありません。キンはネモフィラ王国が消えたヨウビなので、危険だと考えています。メラン王国を消滅させたくはありません。ドは異世界人が召喚されたことはなく、異世界生物や異世界鉱物が召喚されるのですが、勝手になくなることが多くて、なかなか続けて召喚できません」


 召喚された命が元の世界に戻るか、こちらで死ぬかしないと、次の召喚はできませんので、とネストル王子が説明した。


 つまり、


 月 凶暴な異世界生物

 火 倫理感が酷い異世界人

 水 地球

 木 凶暴な異世界生物

 金 ネモフィラ王国が消えた日

 土 勝手に消える異世界生物や異世界鉱物


 ということらしい。 


「え、じゃあ、日曜日は?」 


「ニチはどことも繋がらない、と考えられています」


 へぇ、と健一郎はちょっとびっくりしたけれど、納得した。

 6つの異世界とつながり放題のわりに、科学力がSFのように飛び抜けて発達しているわけでもなく、異世界術もファンタジーみたいに発展していないのは、半分が参考にならない世界だからか。


 それに、異世界人がここにいる間は異世界時間は止まると考えられている、と前に話していた。

 ネストル王子だけでも10回以上も地球から召喚しているのだから、地球時間は十回以上も止まっていることになる。他国でも地球人を召喚して地球時間を止めているなら、かなりの時間こちらの時間とずれていることになる。

 言うなれば、この世界はずっと走り続けていて、6つの異世界は休みやすみ進んでいるようなものだ。飛び抜けた異世界技術でないと、この世界の方が先に進んでしまう。


 でも、昭和の途中にできたはずの少林寺拳法が、何代も前(話を聞く感じ100年以上前)にメラン王国を助けた、という話にはようやく納得できた。


「そこまでわかっているのに、他国は凶暴な異世界生物を何度も召喚したのか」


 さすがに酷いと思ったのだけど、ネストル王子は平然と言った。


「ここまでわかっているのは、ネモフィラ王国で研究に参加していた研究者だけです」


「え? 他国と情報の共有はされていないのか?」


「ああ、知っていても『もしかしたら初めての知識を持つ異世界人を召喚できるかもしれない可能性にかけた』のかもしれません。知らなかったか、知っていてわざとかまでは、私には判断できかねます」 


「……」


「私が異世界術に詳しいのはゼノン兄上がいたからです。ゼノン兄上はネモフィラ王国で他国の研究者と一緒に深く研究していました。私の知識はただ兄上の受け売りなのですよ」

 

 あのまま研究が進んでいれば今頃もっと解明されていたことでしょうし、私もこんなに困っていません。兄上ごとネモフィラがなくなってしまうなんて、とネストル王子は疲れたように息をついた。

 健一郎は慌てて話題を変える。


「その、俺の前に召喚されたのってどんな人たちだったか聞いてもいいか?」


「かまいませんよ。最初の方は戦術について詳しい方でしたが、こちらでは対人戦というより異世界生物戦ですので、残念そうでした。それでも、罠の仕掛け方など色々と教えていただきました。その方のおかげで、武器も数種類増えましたね」 


 武器庫の武器は異世界人の方から教えてもらって徐々に増えていったのですよ。異世界人の方は武器よくご存じですよね、とネストル王子は感心した様子だが、戦術とか罠ってリアルの知識? ゲームだよな? どっちにしても怖い、と健一郎は密かに怯えた。


「その後、何人かは、収集家のように小物を集める方が続きました。その小物を産業にできないかも考えたのですが、ここで再現することはできませんでした。大変こだわりがあり、大事な嫁を召喚してこちらに置いていくのも嫌だと嘆かれたので、すぐに異世界にお帰りになってもらいました」


 ネストル王子は小物と言葉を濁してくれているが、いつの間にかベッド上に飾られていたフィギュアに視線を投げてくれたことで、健一郎にはよくわかった。


「それから何人かは、異世界生物と戦うことに積極的な方が続きありがたかったですね。『ゲームの世界だ~』と大変お喜びでしたが、攻め込みすぎて皆様うっかり死んでしまいまして」


「え」


「初めから協力的だったので客人としてもてなしたのが悪かったのかもしれません。『主人公補正かかってるはず』『チートだ』など訳のわからないことをいいながら、異世界生物の群れに突っ込んで行ってしまいました」


 異世界モノを知らない健一郎には、ネストル王子と同じくらい訳がわからなかった。


「まぁそんなことが続いたので、今度はこちらのことを先に説明した方がいいかと考えを改めまして、ケンには私たちと変わらない生活を送ってもらうことにしたのですよ」


「……なるほど。よくわかった」


 ネストル王子が異世界人である自分に対してどこか投げやりな態度な理由を、健一郎はようやく理解できた気がした。


 ネストル王子にとって健一郎は、ただの行きずりの旅人のようなものなのだ。

 おそらく最初は違っていたんだろう。

 罠を教えてくれたという最初の異世界人には、もっと懐いていたんじゃないかと思う。

 帰還させた異世界人はともかく、この世界で目の前から消えていった異世界人が何人もいたのなら、召喚するのも心苦しかったことだろう。

 それでも、国を守る産業のヒントを得るという目的を果たすまで、ネストル王子は召喚し続けなければならない。

 メラン王国のためとはいえ、中学生には辛いことじゃないだろうか。


「あぁ、話がそれましたね。異世界術について聞きたい、ということでしたね」

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