一三.異世界の地図
アントニス、レオニダス、健一郎の三人は、城内の健一郎の部屋へと向かった。
「メラン王国は男しか産まれないと話しただろう?」
「十四歳で婚姻が可能になるのは、まず嫁探しに出る必要があるからだ」
「基本的に、傭兵として国外に出るので、そこで働きながら探すことになる」
「国外に出られる条件は、十四歳以上で一人前の証を授かっていることだ」
「まれに、そのまま他国に住み着く者もいるが、だいたいは嫁を連れて帰ってくる」
「王族は十四歳前後になると嫁探しの旅に出ると決まっているんだ」
なるほど、と健一郎は思った。
中二で婚活開始とはずいぶん早いなとは思っていたけれど、出会うための行動が必須だからか。
国内に女性がいないから他国に探しに行くとか……どんだけ高度な婚活なんだ。
健一郎は、もし自分が日本に女性がいないから国外へと嫁を探しに行けと言われたら、と想像すると、かなり凹んだ。現地で生活しながらパートナーを探すとか、ハードルが高すぎる。
「……メラン王国民は強いな」
「おうよ」
「強くなくては生きてはいけぬ」
しみじみした健一郎の言葉に、メラン王国民の二人はにっかり笑った。
国外に出るための条件である、一人前の証として与えられる術が記載された本には、この世界の世界地図も閉じ込められているのだという。
「皆、一人前になる前から、大人から他国の話を聞いて、まず、どの国に行くのか考えておくのだ」
「それぞれ特徴が違うからな」
「へぇ」
地球でも国が違えば、習慣も常識も見た目や言葉も違う。
ここは異世界だ。もしかしたらゲームのように、獣人やエルフといった種族もいるのかもしれない。
そう思うと、健一郎は少しワクワクしてきた。
「ネスならどこから行くと思う?」
「あいつは完璧主義だからな。可能性の低いところから全部の国をまわるだろう」
「だとすると、あそこからか」
二人は深いため息をついた。
「?」
三人は健一郎の部屋に入ると、机の上に白黒の地図を広げた。
「いいか? 今ケンがいるのがここだ」
地図には簡単な線が引かれていて、おそらく国名が書かれてあるのだろうが、健一郎には読めない。
それよりも不思議だったのは、地図が円だったことだ。
「もともと、この世界には7つの国があったと言われている」
「それを象徴しているのが、昔から大陸で使われている硬貨だ」
アントニスが懐から硬貨を一枚取り出して地図と並べる。
円い硬貨には中央の円に重なるように、周囲を同じ大きさの六つの円が均等に重なりながら囲っている。
確かに、地図に描かれている国境の線の様子と似通っているが、地図の方がもっといびつで細かく分けられていた。
「長い年月の間に、国と国がくっついたり分裂したりを繰り返し、今のようになった」
「中央はずっと変わらずネモフィラ王国だ」
「今はなくなってしまったが、それは美しい都だった」
大陸の歴史を保管している博物館や図書館があり、最新技術や異世界術が研究される、研究者の王国。
どの国とも接点があり、情報を集めるのにもちょうど良かったのだろう。
中央にあったネモフィラ王国がなくなった今は、ドーナツ状に王国がならんでいることになる。
「ネモフィラ王国がなくなった今は、どっち回りで行くかだけだ」
「おそらくネスならこっち回りになるだろう」
そうしてレオニダスが眉を寄せて指さしたのは、最初に指したメラン王国の横にある、小さな国だった。




