表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/92

一〇.思いがけない再会

どの武術に対しても、プッシュしたいわけでもなく、ディスりたいわけでもありません。

今回の物語に使うのに、日本史で有名な武将や偉人が唱えたものか、宮沢賢治の「アメニモマケズ」か、儒教か、仏教か、別の宗教か、どれが一番ハマるか考えて、一番しっくりきたので使っています。

関係者の方、もしご不快な思いにさせてしまったなら、すみません。


 翌朝、健一郎は、昨日と同じようにアントニスとレオニダスに起こされ、朝食を食べて、朝の訓練をこなしていた。


「昨日よりも動きがいいな」


「指導のしがいがあるな」


 久しぶりに二晩ぐっすり眠れた健一郎の体は軽かった。

 いつも浅い眠りで、こんなに途切れなく深く眠れたのは数年ぶりだ。

 それほど負担に感じていたつもりはなかったけれど、やはり祖母のことは健一郎の精神的ストレスになっていたようだ。


「今日は訓練の後、旅の準備をするのか?」

 

「そうだな。そのためにも、まずは異世界術を使えるようになってもらう」


「野営で異世界術は重宝するからな」


 確かに、あの服ごと体をきれいにするのは便利だろうな、と健一郎も思う。


「俺にもできるのか?」


「簡単だ」


「ちょうどいい。今から傭兵隊の訓練が始まる」


 なんで魔法みたいなのを習うのに、傭兵隊の訓練が必要なんだ? 攻撃魔法はないって言ってたよな?


 わけがわからないまま、健一郎は二人に連れられて、城の地下へと下りていった。

 昨日は案内されていない場所で、城の背後の岩山をくり抜いて作られた隠し空洞のようだ。

 巨大な洞穴には、けっこうな人数の兵士の格好をした男たちが体を動かしている。


 シェルターみたいだな、と健一郎が目を丸くしていると、思いおもいに動いていた男たちの中から、三人が出てきて横に並び、


「整列!」


 と号令をかけた。


 傭兵達は整然と何列かの縦列に並んだ。百人ほどいる。

 縦列を中程横から見る壁際で立ち止まったレオニダスとアントニスが健一郎に耳打ちする。


「前にいる三人がネスのアニキたちだ」


「しばらく黙って見ているんだぞ」


 同じ兵士の服装をしている三人は、言われてみれば、どことなくネストル王子と似ているけれども、体つきはがっしりしていた。

  

「合掌!」


 全員が両手を合わせるような仕草をする。


結手(けっしゅ)!」 


 一糸乱れぬ様子で、ゆっくり、へそ前あたりで両手を組んで構える。


「聖句!」


 号令の後、全員で唱和される声が、洞穴に響く。

 その内容は、健一郎も部活で何万回と唱えた内容と同じだった。


 まさかとは思ったけど、なんで異世界に少林寺拳法? 


 しかし、続く『誓願』は、かなりはしょられ、『道』が『国』に変わっていた。

 さらに続くはずの『礼拝詞』は一言もなく、『道訓』も少し違っていたし、『信条』もなかった。


「合掌!」


「これより、班別行動を開始する!」


 それぞれの班が動き出したところで、アントニスとレオニダスにうながされ、健一郎は洞穴から地上に戻った。


「なぁ、異世界術とさっきのと、なんの関係があるんだ?」


 そもそも洞穴に下りたのは、異世界術のためだったはずだ。


「あれを唱えると、異世界術が使えるようになるんだ」


「は?」


「深くは聞いてくれるな。ネスなら説明できるかもしれんが、俺たちにはわからん。わかっているのは、あれを毎朝唱えれば、誰でもそこそこ異世界術が使えるようになるってことだけだ」


「…………」


 健一郎にとって少林寺拳法は、中学校時代、高校時代、さらに仕事で体を壊すまで、親しんだものだった。

 少林寺拳法は、空手や柔道、剣道よりもマイナーな、知る人ぞ知る武術だ。

 ただ、健一郎の住む地域では、中学校にも部活があるくらい、かなり活発だった。

 それも、女子の入部率が高いという、男女混合の運動部では珍しい部活だったのだ。


 最初は女子部員目当てで入部した健一郎だったが、少林寺拳法にハマった。

 祖母が時代劇を見る影響で、健一郎はもともと武道に憧れを持っていたので、唱和される考え方も、技を覚えてできるようになっていく過程も楽しかった。

 健一郎のひそかな夢は『道場主』だった。

   

 だから最初は、剣道部に入ろうと思っていた。

 しかし、防具が必要なこと、剣道の道場が少ないことで断念した。

 空手や柔道も考えたが、やはり道場主になるのが難しそうだった。

 健一郎の住む地域には少林寺拳法の道場である『導院』が多く存在する。

 『少林寺拳法の道場主』という夢は、手の届く夢だった。


 体さえ壊さなければ、祖母が徘徊を始めなければ、後少しで本当に手が届いていたのだ。 


「さっきのって、異世界人から聞いたんだな?」


「よくわかったな。昨日も話したが、酪農業が行き詰まった頃に召喚された異世界人が教えてくれたものだ」


「その異世界人はメラン王国を立て直した一人として、今も感謝されている」


 そのおかげで、この世界にしては珍しくメラン王国が異世界人に対して好意的なことを、健一郎は知らない。


「さっきのを唱えれば、後は術を覚えるだけで異世界術を使えるようになる」  


「術を覚えるってどうやって?」


「図書室に行こう」


「さっきの内容も、基本の術も、すべて書いてある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ