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〇九.婚活と産業のススメ

 32歳の自分の半分も生きていないのに、婚活とか。


 健一郎は、うらやましいという気持ちよりも、中1で婚活? めちゃくちゃ早いけど大丈夫か? としか思えなかった。 

 ネストル王子の結婚がただの結婚じゃなく、国の命運がかかっているからかもしれない。

 この世界の王族ならそれが普通なのだろうけれど、健一郎の気分は、親戚の子供を心配するおじさんだった。

 

 俺が中一の頃ってなにやってたっけ?

 思い出せるのは部活で汗を流したことと、祖母の作るお弁当や差し入れが美味しかったことくらい。


「行くよ。けど、ほんと悪いけど、俺が一緒に行ってもなにかの助けになるとは思えないんだけど……」


「契約した異世界人とあまり離れるわけにはいかないのです。道中、召喚はできませんが、産業のきっかけになるような知識をケンから得られたら重畳、とは考えていますが。そんなに気を張らなくてもいいですよ」

 

 もし健一郎が異世界モノを知っていたなら、日本人の豊かな生活を活かした、この世界にはないグルメや手作り品、進んだ技術といった提案をできたかもしれないが、異世界モノの知識が皆無の健一郎は、『産業のきっかけになるようなご立派な知識』と言われると、まったく想像もつかなかった。

 後でじっくり考えよう、とひとまず今は考えるのを放棄する。


「明日、いえ本日、父上から許可を得られたとしても、引き継ぎなどがありますので、出発は早くても三日後になります。それまでに準備を整えておいてください。必要な物があれば世話役が用意しますので、遠慮なく伝えてください」

 

 健一郎は今日一日ですっかり馴染んだアントニスとレオニダスを思い浮かべて頷いた。


「大丈夫そうですね。では、私はこれで」


「あ、忙しいのに来てくれてありがとう。もう眠れるんだよな? おやすみ」


「……おやすみなさい」


 いつも硬い表情だったネストル王子が、ほんの少しだけ唇を歪めて部屋を出て行った。


 ほんとできた中学生だよなぁ、と健一郎は思う。

 しかし長い一日だった。

 朝は元の世界に戻れていないことに落胆したが、祖母を心配する必要がなく、自然の中で体を動かせたことで、ありえない状況ながら、気持ちは最近で一番スッキリしていた。

 

 ここで世話になっているのだから役に立ちたい、と健一郎は素直に思う。


 産業のヒントになる知識って、車か? 無理だ。

 パソコン? もっと無理だ。

 時計? 作り方がわからない。

 仕事柄、介護の知識はあるけれど、訓練所や町中の様子を見る限り、老若男女みな健勝で、介護など必要なさそうだった。

 

「いやいや、俺が勝手にそう思ってるだけで、案外困っていることがあるかもしれない。ここがどんな世界か二人に詳しく聞くか」


 まだ一日目だ。焦らなくていい。  


 健一郎は自分に言い聞かせて寝床についた。

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