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〇八.献策と秘策と

本日2話目です。2/2

 城に戻ってからは、一通り城内も案内してもらった。

 図書室で「細かい歴史や周辺国については本を読んで学習しろ」と言われたが「読めない」と答えると、「そうだったな。まずは文字を学習するといい」と学習セットを渡された。

 メラン王国民は少ない上、傭兵という仕事をしながら他国の情報を持ち帰る必要性から、識字率は100%。小さい子が学ぶためのカリキュラムがすっかり整っている。

 おかげで、城の自室に戻ってからの健一郎は、ざっくりとした歴史を二人から聞き、見慣れぬ文字の書き取り練習をすることになった。


 「ネスと話したい」と健一郎が二人に伝えていたが、ネストル王子が健一郎の部屋を訪れたのは、真夜中になってからだった。


「お待たせしました」


「毎日こんな時間まで仕事があるのか? 体を壊すぞ」


 ネストル王子はどこかぼんやりした様子で、健一郎が書き取り練習をしていたテーブルセットの椅子に座った。

 

「話とはなんですか? 私の体の心配ではないでしょう」


「あ、あぁ。秘策とか献策とかってなんだ? どうするつもりなんだ?」


「御三方に会ったのですね」


 ネストル王子は眉根を寄せた。


「まず、献策から説明しましょう。異世界生物を今以上に召喚する策です。御三方は異世界生物が増えていく時代を生き抜いてこられた。メラン王国とネモフィラ王国は、すぐに異世界生物を召喚することを止めましたが、他国は可能性を捨てきれず、一度ならず何度も召喚したのです。そのしわ寄せを受け、メラン王国に異世界生物が繁殖したことから、御三方は他国に少なくない恨みがあるのでしょう。今度はこちらがもっと強い異世界生物を召喚し、傭兵を雇わざるを得ない状況を作れば良い、という策です」


「それは……マズいだろう」


 健一郎の頭の中に、巨大な竜が暴れまわる様子が浮かんだ。人の手で倒せればいいが、倒せないなら共倒れだ。


「ええ。私もそう考えています。どれだけ強い異世界生物を召喚したところで、異世界術の結界で阻めてしまえば意味はない。召喚する危険を冒すわりに、根本的な解決にはなりません」


「じゃあ秘策は根本的な解決策なのか?」


「私としては、召喚した異世界人から知識を得て、他国にない技術で産業を発展させることが一番良い策だと考えています。それで何度も召喚していましたが、今まで思うような知識を持つ異世界人を召喚できませんでした」


 召喚でつながる世界は6つ。

 うち2つはどの国で召喚しても異世界生物しか召喚できなかったことから、異世界生物しかいない世界だと考えられているので、知識を得る召喚先としては成り立たない。

 残る4つのうち、ひとつはネモフィラ王国が滅んだ日につながったとされるので、危険なことから候補に上げられない。

 さらに残る3つのうち、ひとつは健一郎がいる地球だが、現在、健一郎が召喚されているので、他の世界につながれない。召喚された異世界人が死ぬか戻るかしないと、召喚口は別の世界とつながれないのだ。

 健一郎が攻撃的でない異世界人だとわかったことから、ネストル王子としては、健一郎の世界から週一でじっくり異世界品を召喚して、より良い知識を得ようと考えていた。


「しかし残念ながら、もう一刻の猶予も許されないのです。私の力では、御三方を含む血気盛んな方々を押さえておくことはできません。もっと即物的で短期決戦でないと……」


 疲れたようにネストル王子の口からため息がもれた。


「そんな策があるのか?」


「もうすぐ、私の誕生日なのですよ」


「?」


「十四になれば結婚できます。どこか力のある国と私が婚姻関係を結べば、目の前の危機は防げます」


「え、いや、ちょっと待て。第五王子ってことは、上に王子が四人いるんだろう? 兄王子たちはみんな結婚しているのか?」 


「兄たちは……傭兵としては優秀なのですが……」


 脳筋なんだな、と健一郎は納得した。


「いえ、強いことはメラン王国では良いことなのです。大会で毎回一位をとる王でないとメラン王国を治めきれません。私のような者の方が珍しいのです。……ゼノン兄上がいてくだされば、また別の策を考えられたかもしれませんが」


 『ゼノン』は、ついさっきアントニスとレオニダスからも聞いた名前だった。

 ネモフィラ王国が消えたときにネモフィラに滞在していたので、一緒にいなくなってしまったと話していた。ネストルより優秀な王子だったと。


「私では、これ以上の策が思い浮かびません。明日にでも、父上から嫁探しの旅の許可を得ます。ケンにも旅につきあってもらいますよ」

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