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〇七.メラン王国の内情(下)

本日20時にも投稿します。1/2

 その後、健一郎はアントニスとレオニダスの仲間だという男三人と手合わせをした。 


 どうしてわざわざ二人の知り合いと手合わせするのか健一郎がたずねると、慣れた相手の方が手加減してくれるからだ、と返ってきた。


「粋がった若い者と手合わせをすれば、無用な怪我をするからな」


「怪我で済めばいいが、命はなくすとどうしようもない」


 二人の言葉通り、レオニダスと同じかそれ以上に強そうな三人は、健一郎の様子を見ながら剣を合わせてくれたし、的確な助言もくれた。

 三人は売れっ子の傭兵だったが、仕事にあぶれている今は、メラン王国民への指南役として働いているらしい。


「指南するのは(やぶさ)かではないのだが、わしらは国を出て働きたい」


「国から給金をもらっていては、国のために役に立っているとは言えぬ」


「このままでは国もろとも滅んでしまうだろうに。なぜネストルはわしらの献策を蹴り続けるのか」


 健一郎との手合わせの後、三人は隠しきれない不服をレオニダスに唱えた。


「すまないが、今しばらく待ってはくれまいか。ネスはお前達のことを忘れてはおらん。今はお前達の指南役が本当に必要だから頼んでいるのだ」


「…………」   

 

 三人は不承不承(ふしょうぶしょう)に、それ以上は言葉を重ねず去って行った。


「もう猶予はないな」


「急がねば、内側から崩れるぞ」


 アントニスとレオニダスは低い声で言葉を交わしたが、健一郎を振り返る時には笑顔を浮かべていた。


「これで朝の訓練は終わりだ」

 

「ケン、メラン王国を案内しよう」


 異世界術で武器と服ごとさっぱりした後、武器を倉庫に戻す。

 アントニスとレオニダスは、まず城の上階へと連れて行く、と宣言した。

 城の階段は傾斜がきついからか、すぐに息が上がり始めたが、目的の階にはまだ着かないらしい。

 荒い息で、これも訓練の一環なのかと健一郎が思い始めた頃、ようやく心待ちにしていた言葉をもらえた。


「着いたぞ」


「こっちだ」


 まぶしい光が差し込む方へ向かうと、張り出した露台(ろだい)で二人が待っていた。


「これがメラン王国だ」


「……きれいだな」


 健一郎の目にまず入ってきたのは、自然の緑。

 濃い緑と薄い緑の間に青々とした川が流れていて、川沿いに白い壁の家が建っている。屋根の色は茶系や赤系だ。

 その向こうに青と白の山々。青く見える部分は岩肌で、白い部分は雪と雲。

 朝起きてから動いてばかりだったので、あまり寒さを感じなかったけれど、標高が高いゆえの肌寒さがある。

 いつも以上に息切れしていたのは標高が高く空気が薄いせいだったのか、と健一郎は納得した。


「もともとメラン王国は、山々に囲まれて家畜を育てる、のんびりとした国だったんだ」


「それが、異世界召喚で異世界生物が召喚されてから、家畜がどんどん食い荒らされていった」


「他国で召喚された異世界生物も、この山々に住み着くようになったからな」


「家畜や家族を守るために戦い始め、やがて異世界生物を狩ることが生業となり、他国へ出稼ぎに行くようになった」

  

 下に先程までいた訓練所が見えた。どうやら訓練所は城の敷地内にあったようだ。

 訓練所は王国民の避難所でもあるそうで、そこだけは異世界品で雨風もしのげるような結界がはってあり、訓練所内から外の様子はぼんやりとしか見えないようになっている。

 なだらかな勾配なのは城と訓練所が建つ場所だけで、周りは基本隆起しているので、家々もぽつぽつとしかない。


「異世界生物も食べられるものがあるので自給自足はできているが、それまで輸出していた畜産、酪農物の代わりにはならなかった」


「異世界生物を狩る傭兵部隊としてやっていけるようになったと思ったら、異世界術が発展して、傭兵部隊は用なしとなり」


「メラン王国は、また岐路に立たされているわけだ」


「なるほど」


 ただの脳筋集団じゃなかったのか、と健一郎はメラン王国民への認識を改めた。

 

「さて、町へ下りようか」


「狭いから、一日でまわることができるぞ」


 実際、メラン王国は、山間の小さな村のようなものだった。

 国土こそ広いけれど、国土の半分以上が山で、山の半分は人も住めない高山。

 美しい風土なので、異世界生物がいない頃は他国からの観光客もいたらしいが、今は道中で襲われる可能性が高いので、ほぼゼロだという。 


 結婚してこの地に住み着いている女性たちは貴重なので、国の中心部の一番安全な場所で固まって暮らしている。ちなみに城は、背後から攻められる可能性がない高い岩山に張り付くようにして建っている。

 女性たちは、洗濯や食事作りといったことを、国民全員分手分けして仲良くこなしている。手伝うのはまだ幼い子供達と前線をリタイアした大人達で、王国がひとつの大家族といった雰囲気だ。


 健一郎達はそこで昼食を食べさせてもらった後、山際まで歩いていった。


「町には異世界生物だけ排除する薄い結界を施しているが、この山の中には何隊かが常駐していて、異世界生物を警戒している」  


「増えすぎないように、かつ減りすぎないようにな」


 貴重な食料だから仕方ないが、複雑な心境だろうな、と健一郎は思う。


「現状を打破する秘策ってなんなんだ? さっきの三人が言っていた献策って?」


「……それは、俺たちからは言えない」


「ネスに聞けば教えてくれるだろう。おそらく、お前にも協力してもらうことになるからな」

 

 この状況で、俺が協力できることなんかあるか?


 健一郎には思いつかなかった。

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