〇六.メラン王国の内情(上)
お久しぶりです。
またよろしくお願いします。
息つく間もなく、アントニスがレオニダスに猛攻をかけている。
レオニダスは大斧を使って、受け流しているが、たまに弾いてレオニダスからも攻撃を仕掛けていた。
それにしても速い。
大剣と言っても、ゲーム上の見るからに分厚くて幅広の物ではなく、折れない程度の幅の刃が長くある実用的なものだ。それでも重くて、健一郎には持ち上げるので精一杯だったけれど、振り回せるのなら剣の自重で速度が出るようだ。
重い金属音が止まり、すっと二人が離れた。
健一郎はすっかり数えるのを忘れていたが、二人は90秒の手合わせに慣れているようで、武器を下ろすのも同じタイミングだった。
互いに礼を言って離れる。息切れもしていないレオニダスがにかっと笑った。
「さぁケン、次は俺とだ。今度は打ってこいよ?」
言葉通り、開始の挨拶をしても、レオニダスからは攻撃してこない。
とにかく当てなくてはと思い、棒を振り下ろすが、繰り返す鈍い音と共に持つ手がしびれてきた。
「落ち着け。ただ打ち込むんじゃない。棒を持つ位置をもう少し外側にしろ。そうだ。あと、握り込みすぎるな」
健一郎は素直にレオニダスの助言に従う。
それこそ小さい頃は戦いごっこといった、ただの棒きれや木刀、スポーツチャンバラの剣で遊んだことがないわけではないのだけど、木刀よりも今握りしめている棒は短いし、スポーツチャンバラでの剣であるエアーソフト剣よりも重いので、感覚がつかみきれない。
90秒は短いようでけっこう長いので、重くはないけれども適度な重さの棒を振り回すには意外と体力がいる。
最終的に、健一郎は打ち込んだ棒がしびれた指から離れてしまった。
「そこまで!」
アントニスの声に、健一郎は息を吐いた。
挨拶を交わすと、レオニダスはにっかりと笑った。
「想像していたよりも悪くなかったぞ。訓練を続ければすぐに上達するだろう」
「……訓練は、毎朝、あるのか?」
「特に行事がない限り毎朝あるな」
「どこかと、戦争しているのか?」
「いいや。自衛のためだ」
「昔、この世界にいない生物が召喚された。それが逃げてあちこちに住み着いて繁殖しているんだ」
ゲームでいうところの敵、魔物のような存在か? と健一郎はイメージする。
「メラン王国では男子国民しか産まれない。この土地は痩せていて、特別な産物もない」
「俺たち自身が売り物なんだ」
男しか産まれないってなんだよ。じゃあ結婚はどうやってるんだ。産業もないのか? と色々ツッコみ所満載だが。
「……国民全員が傭兵ということか?」
「そうだ。俺たちは国の支援を受けて体を鍛えて、各国の防衛部隊として雇われると一部を国に返金する」
「今までならそれでうまくいってたんだが、異世界術が使われるようになってから、雲行きがあやしくなってきた」
異世界生物退治部隊として各国で重宝されてきたメラン王国民にとってかわったのは、異世界品を使った異世界術での結界だった。
異世界品があれば、傭兵を雇わずとも国を守れる。
メラン王国以外の国は、異世界術で国を守るようになってしまった。
今は細々と生活をつなげているが、メラン王国の経済は破綻寸前だという。
健一郎は、ここは武闘大会を開きまくる、まさにゲームのようなお気楽な世界だと思っていた。自分がここにいる間は地球での時間も止まるらしいから、気がかりだった祖母も危険じゃない。長い夢を見ているようなものだ。それならしばらく旅行気分で楽しめばいいか、とさえ思い始めていただけに、目を見開いた。
「大変じゃないか!」
「わかってくれたか」
「これから国はどうするつもりなんだ?」
「新しい産業を考えようにも、今までそんなことしたことないからな」
脳筋の集団なんだろうな、と健一郎にも想像がつく。
「今はネスがなんとかしてくれているが、そろそろ限界が近いらしい」
「大丈夫なのか?」
「秘策があると言っていたから、大丈夫なんだろう」
「ネスはかしこいからな」
少年王子に丸投げって、全然大丈夫じゃないだろう、とは言えなかった。
 




