〇三.暑苦しい現実
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「おい、さっさと起きろ!」
「飯なくなるぞ!」
「……は、え?」
ばさりと音をたてて、掛け布団がめくられる。
見知らぬホテルのような部屋に、大男が二人はいり込んで、やいやい騒ぎ立てている。
「これに着替えろ!」
「身を清めたいのか? ほれ」
昨日同様、全身が服ごとさっぱりした。うっすら生えていたひげまでつるりとなっている。
夢も見ずに熟睡したからか、清めてもらったからか、健一郎は頭もスッキリした。
そうだ。昨日、よくわからない異世界に召喚されたんだった。夢オチにならなかったのか。
心の中でため息をついていると、
「俺たちがお前の世話役になった。俺はアントニス。アトスと呼べ」
「俺はレオニダス、レオだ。あんまり世話焼かせるようなら放り出すから、そのつもりでやれよ!」
昨日の召喚時にいた男達のうち、介助もしてくれた二人がにやりと笑った。
「俺は……」
「ああ、名前を言うな。縛られるぞ。お前のことはネスから聞いてる」
「ケンだろ? さぁさっさと着替えて食堂に行くんだ」
急かされるままに用意されていた兵士の服に着替える。
作務衣のようで違う服は、カンフー映画に出てくる服に似ていた。ボタンなどはなく、左右重ねて帯でとめるものだ。上着は長すぎず、生地もしっかりしているけれど動きやすい。
着替えてからそういえばトイレの場所を聞いていなかったとたずねると、部屋の隅にあると教えてもらえた。
横にはバスルームもついていて、本当にホテルのようだと健一郎は思う。
「いい部屋を用意してもらえて良かったな」
「さすがに今回は長持ちしてもらいたいんじゃないか?」
「違いない」
どういうことか詳しく聞きたかったけれど、そんな暇はなかった。
少し離れた場所にある食堂まで走って行ったものの、食堂はすでにたくさんの兵士でいっぱいだった。
美味しそうな匂いと食器をこする音で満ちた空間を横切り、アントニスとレオニダスが「こっちに並ぶんだ」と食堂の使い方を教えてくれる。
「基本、なんでも早い者勝ちだからな」
「たくさん食べたきゃ、要領良くやるんだぞ」
「わかりました」
「あぁ、俺たちに敬語はいらない」
「まどろっこしいからな」
「わ、わかった」
見た目だけだと、アントニスは三十代くらいで、健一郎と同い年くらいに思える。
レオニダスは四十代か下手するともっと年上かもしれないが、覇気にあふれていて若々しい。
世話になる二人に敬語を使わずに話すのは、それはそれで緊張するのだけど、使うなというなら仕方ない。
重くなったおぼんを手に、空いた席に三人で滑り込むと、アントニスとレオニダスはガツガツ食べ始めた。
食堂のおばちゃんに量を指定してついでもらう方式だったので、内容はみんな同じで量だけ違う。
アントニスとレオニダスのおぼんは山盛りで、朝からその量は多いだろ、と健一郎は内心思っていたけれど、みるみるうちに減っていくので適量だったようだ。
虫だとか精神的に受けつけない食べ物はなくて良かった、と健一郎はほっとする。
「アトス、レオ、食べたらどうするんだ?」
「ん? 朝の訓練だ」
「まずはケンの武器を選ばないとな」
ここメラン王国では、『男子たるもの生きる限り戦え!』という教えらしく、週一でチーム勝ち抜き戦を行うという、なんとも暑苦しい制度がある。
チームメンバーは毎回同じでもいいし、替えてもいい。どのチームに所属してもいいけれども、十歳を過ぎた男子王国民は勝ち抜き戦に絶対参加で義務だった。
現在、トップは国王チーム、ついで王子チームとなっている。
しかし、第五王子であるネストルのチームはなかなか上位に食い込めずにいた。
そんなネストル王子のチームメンバーが、アントニスとレオニダスだという。
「今回、ケンにもネスチームに入ってもらうからな」
「ネスは忙しすぎるんだ。もっと訓練に出られればなぁ」
「かしこいのも問題だな」
どうやら頭の切れるらしいネストル王子は、王国の仕事をかなり担っているようで、訓練にも参加しないことが多いらしい。
まだ学生くらいの歳だろうに、と健一郎は複雑な気持ちになった。
自分が学生の頃は、部活ばっかりやってて勉強は全然しなかった。ましてや家のことなんて、なんにも考えていなかった。
「食べ終わったならさっさと行くぞ」
「武器も早い者勝ちだからな」
すみません。○レオニダスを×レオダニスと間違っていたので修正しました。




