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〇二.夢だったらいいのに

10万文字を超すまで連続投稿します。2/4

 ネストル王子の隣の部屋は、すでに異世界人を迎える用意がされていた。

 健一郎を介助していた男二人が、健一郎を椅子に座らせる。

 ネストル王子が健一郎の前に立って手をかざすと、何度も床に倒れて汚れていた健一郎が部屋着のスウェットごときれいになった。

 召喚があるのだから魔法もあるのだろうと、健一郎はうっすら思う。

 すぐに男二人が健一郎を椅子から立ち上がらせ、寝室へと運ぶ。

 男達の補助で、健一郎が無事にベッドに腰掛けたのを見届けると、ネストル王子が声をかけた。


「着替えは明日しましょう。今日は寝てくれてかまいません」


「待ってください! まだ話を」


「ゆっくり眠りたいのではなかったのですか?」


「先に話を聞かせてください。そうじゃないと眠れません」


「わかりました」


 ネストル王子は視線で男達を追い払うと、自分でベッドの横に椅子を持って来て座った。


「なにが聞きたいのですか?」


「いつ帰れるかです」


「……どうしてそんなに帰りたいのですか?」


「先程も言いましたが、俺の祖母は一人にすると命に関わるんです。台所で火をつけたことを忘れてしまったら、勝手に道路に出て交通事故にでもあったら……。とにかく目が離せない」


「ケンはお祖母様のお世話をしていた、ケンが目を離している間に、お祖母様になにが起こるかわからなくて不安だから帰りたい、で合っていますか?」


「その通りです」


「では、その不安は杞憂だと言っておきましょう。ケンがこちらにいる間、ケンの元の世界の時間は流れないので心配いりません」


「どういうことですか?」


「ケンが元の世界に戻るときは、ケンがこちらに喚ばれた直後に戻るのだと考えられています。こちらでどれだけ時間を過ごそうとも、元の世界は止まっていると考えてください」


「本当ですか?」


「まぁ私が実際に異世界に行って確認したわけではないのですが、そう考えられています。今まで、何年もかけて何度も異世界品を召喚してきましたが、その時の異世界の様子が最初とまるで変わらないと、これまでの異世界人から聞いています。異世界人がこちらにいる限り、向こうの世界の時間が止まるようですね」


 健一郎にはネストル王子が話す内容が真実なのか嘘なのか判断できなかった。


「俺は媒体とかいうのをすればいいんですよね? それさえすれば、帰らせてくれるんですよね? 明日でもいいのでやらせてください」


「……次に召喚術を使うのは、早くても7日後になるでしょう。召喚できる周期があるのです」


 説明したところで理解できないかもしれませんが、と前置きしてネストル王子は話し出した。


「この世界では異世界からの落とし物がよくあります。こちらから召喚するようになって、別の世界と重なって存在しているからだと考えられるようになってきました。重なっている世界の種類は6つ。それぞれの世界とより強く重なった時でないと召喚はできません。これは何度も検証して実証されたことですから、ケンの世界と一番強く重ならない日に召喚することは術力の無駄遣いになるので、許可できないのです」


「じゃ、じゃあ、その7日後の召喚でなにを召喚すれば帰ることができるんですか?」


「ケンのいた空間にあるすべての物を召喚すれば、ケンの役目は終わりです」


「すべての物?」


「召喚術は空間が限定されています。ケンが召喚できるのは、ケンが召喚された時にいた空間にあった物だけです」


 ここに喚ばれた時、健一郎は祖母宅の自分のベッドで眠っていたはずだ。

 健一郎は自室を思い浮かべた。

 狭い自室には、シングルベッドとテレビと本棚と机があった。こまごました物も合わせると覚えていないくらい物がある。


「おそらく、一気にすべての異世界品を召喚することは不可能でしょう。術力がかかりすぎます。ケンは異世界品を指定するだけですが、無理せず少しずつ召喚する方がいいと思いますよ」


 さぁもういいでしょう、とネストル王子が立ち上がりかけた。


「あと一つだけ! 召喚の媒体以外で俺がしなくちゃいけないことってないんですか?」


「あぁ。忘れていました。召喚の儀が行われない時は、兵士と一緒に訓練してもらいます。メラン王国では、強くないと生きていけません。せいぜい元の世界に帰るまで生き残れるように頑張ってくださいね」


 ネストル王子は立ち上がって椅子を戻すと、「では、おやすみなさい」と寝室をあとにした。


「訳がわからない」


 ネストル王子が話している内容は理解できたけれど、なんでこんなことになっているのかがわからない。

 疲れてるんだ。明日起きたら、なんて設定の細かい夢を見たんだって笑い飛ばせばいい。

 そう願いながら、健一郎はベッドに体を横たえ目を閉じた。

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