41.数え歌
『数え歌』を歌って作ると光るということは、菓子職人は術使いなの?
「どういうことですか?」
「この二人は術使いなのですか?」
「違います!」
「私たちは菓子職人です!」
お付きと菓子職人の間にカルロ所長が割って入る。
「不思議だよね。僕も不思議に思ったから、他の調理人にも聞いてみましたー」
「私とマルコが、本日城にいる調理人全員から聞き取り調査をした結果、貴族系の調理人は『数え歌』を知りませんでした。『数え歌』を使うのは市井出身者だけです」
「なんでかわかる?」
どうして市井の調理人だけ『数え歌』を使うのか。
「文字を書けないからだ」
私はつぶやいていた。
「その通りです、ユリア様。貴族系の調理人は皆、レシピを書いて伝授しますが、市井の者は書けません。だから伝えたいレシピを『歴史歌』のように『数え歌』として伝えるのだそうです」
「覚えたいレシピを、自分でわかりやすい『数え歌』にすることもあると言っていたから、僕たちが知らないだけで、市井には『数え歌』があふれているのだろうね」
ここからは、私たちの想像ですが、とアルベルトが前置きをした。
「市井で『数え歌』が使われて調理されたものには異世界エネルギーが含まれるようになります。それを食べた市井の者達は、身のうちに異世界エネルギーを取り込むのではないか、と」
「今回は調理人が使う『数え歌』だったけど、きっと、他の職人の間でも、なにがしかの『歌』の形で技術を伝達しているんじゃないかなー」
「市井では、それでうまくまわっているのだと思います。エネルギーが含まれたものを食べても、エネルギーを『歌』として使うことで、身のうちにエネルギーがたまらないのです」
「技術を引き継ぐほどの大人であれば愛の歌も歌うだろうし、引き継いだばかりの若者なら覚えるために何度も歌うだろうからね。でも、王太女殿下、王子殿下、王女殿下は、日常生活で歌われることはありませんよね?」
だからエネルギーが滞ってしまったのか。
「菓子職人、お前達が城に上がったのはいつからだ?」
「新しい王妃殿下と婚礼される、数年前からでございます」
「外に出られなくなってしまった先の王妃殿下のために、少しでも違う味を楽しめる食卓を作り上げて欲しいと望まれて、城に上がりました」
ビアンカ様の姿が変わり始めたのに気づいたのは、新しい王妃様が来たくらいだと聞いた。
ディーノ王子とティナ王女の姿が変わり始めたのが、お茶会をし始めたというよりも、おやつを食べ始めてからだと考えれば、タイミングも合う。
エネルギーは三人にゆっくり少しずつ蓄積されていったんだろうな。
まぁ、双子はあれだけ食べていたから、途中から双子だけ加速度的に変化したと思うけどね。
だから余計に、お茶会をしていたビアンカ様に疑いの目が向けられたんだね。
ビアンカ様とティナ王女は、今回歌ったことで、滞っていたエネルギーが動いて元の姿に戻ったんだ。
「しかし……」
「異世界エネルギーは異世界品にしかないと聞いていたのですが、違うのですか?」
ですよねー。
私だって、この前カルロ所長から、異世界エネルギーじゃなくて歌エネルギーだと聞いてびっくりしたところだしね。
いまさらエネルギー違いでしたと言われても、この世界に生きている人には到底納得できないんじゃない?
アルベルトもカルロ所長も、どうするつもりなんだろう?
「実は今回、ユリア様に協力してもらったのは、そこなんです」
「王子殿下と王女殿下、それぞれ別の技術を教えていただいたのには理由があったのです」
アルベルトがルチアーノ先生に目配せすると、ルチアーノ先生はにっこり笑って頷いた。
「ねぇ君たち、君たちは、ディーノ殿下のこともティナ殿下のことも大事に思ってくれているよね?」
「もちろんです!」
「大切な主です!」
「その言葉、信用するよ」
ルチアーノ先生は立ち上がると、ディーノ王子を連れて寝室へ向かい、妖精のように可憐な姿になったティナ王女を連れて戻ってきた。
「ティナ王女殿下!」
侍従と侍女はその場で跪いた。




