33.検証~第1日目ディーノ王子
ヨガと歌を双子それぞれ同時に教えることはできないので、先にヨガ、後から歌になった。
ディーノ王子は昼食後すぐに騎士団の訓練に参加する。
この一週間だけはディーノ王子の昼食を早めて、訓練の前にヨガをしてもらうことにした。
立ち会うのは、ルチアーノ先生、アルベルト、カルロ所長。
借りた応接室では、机やイスを端に寄せ、真ん中に5人全員がゆっくり寝転べる絨毯を床に敷いている。
「一週間よろしくお願いします」
私は挨拶をすると、みんなの目の前で絨毯に『清める』をかけて、裸足になって絨毯に乗り、みんなにも同じようにしてほしいと促す。
ディーノ王子は訓練前なので簡易騎士服、ルチアーノ先生も簡易騎士服、アルベルトは騎士服。
私もドレスでは動けないので、異国のゆるい長袖長パンツを借りている。アチョーってやりたくなるような服だ。
カルロ所長に『防音』をかけてもらい、まずはみんなにあぐらをかいてもらう。
男性陣にあぐらの説明をするのが意外と難しかった。
反対に、苦労すると思っていたヨガの説明はすんなり受け入れられた。
「きしだんでいわれたのとにています」
どうも剣技の師匠の教えとヨガが似ているらしく、初めての三人とも騎士経験があるからか抵抗なくついてきてくれる。
ディーノ王子は教わる立場だからと、私に丁寧に話してくれるようになった。
丸い体を懸命に動かしながら、「こうですか? あってますか?」とキラキラした目を向ける幼児がカッコ可愛すぎます!
「面白いね。体術とも似ているから、考え方の根本が同じなのかもしれない」
「ヨガとはこういうものだったのですね。驚きました」
ヨガを初めて見るルチアーノ先生とアルベルトも一緒に体を動かしている。
ルチアーノ先生とアルベルトとカルロ所長は私の見張り役という設定だけど、王子一人だけにさせるより一緒にする人がいた方が王子も安心できるだろうし、ヨガを体感したいと言われたので、こうなった。
カルロ所長は黙って体を動かしながら異世界エネルギーに変化がないか見ている。「下手に話すとうっかり余計なことも言っちゃいそうだから」と、終始無言だ。うん。それがいいと思う。
終わると、私はみんなに『清める』をかけた。
みんなどことなく夢から覚めたような、でもスッキリした顔だ。
「ありがとうございました」
ディーノ王子はきれいにお礼をいうと、王子が持ってきていた飲み物を飲んで、部屋を出ていった。
部屋の外にはディーノ王子の侍従と護衛騎士が待っていて、ちらりと見えたとき、こちらを睨んでいた。
本当なら、双子の陣営にも、ビアンカ様の姿の変化のこと、双子も異世界エネルギーが滞っていることを説明して協力してもらうのが筋だろう。
でも、エネルギーを歪めている犯人がどこにいるのかわからない今は、それができない。
今回の検証の表向きの目的は『王族に私の世界の秘密の技術を教える』なんだけど。
これ、双子派側からしたら気が気じゃないよね?
王命だから従っているけど、見えないところでビアンカ派になにされてるんだろうって思うよね?
「まさかとは思いますけど、ルチアーノ様もアルベルトも、今までディーノ殿下やティナ殿下になにかしていませんよね?」
「なにかって、いわゆる陥れるようなことかい?」
「する必要もありませんね」
ですよねー。
「躾の範囲では口を出すけど、それ以上はないかな」
「こちらに害のない限り、あちらには関わりませんよ」
「じゃあ、どうして敵みたいに睨まれるんでしょう?」
なんかライバル視されてるというより、明らかに敵視されてるんだけど。
ふむ、とルチアーノ先生は考え込んだ。
「言われてみれば妙だね。私はずっと、双子を跡継ぎに推したいからだと考えていたけど、別の理由もあるのかな?」




