30.めでたしめでたし、じゃないの?
ビアンカ様が元の姿に戻って、めでたしめでたし、じゃダメなの?
「姿が戻ったのはいいことなんだけど、急過ぎる。あの姿になるのに何年もかかっているから、戻るにしても時間がかかった方が説得力があるんだよ」
呪いが一気に解けたってことでいいんじゃないの?
「ビアンカ様が望んだわけじゃないけどあの姿になったことで信用を失っているからね。その上、一晩で変化したとなれば、もっと失ってしまうよ」
私の、意味がわからない、という表情に、ルチア先生が困ったように肩をすくめた。
「この世界では急な変化を受け入れられないってことさ」
好きな色に髪を染め変えたりカラーコンタクトで目の色を変えられたりする世界とは、許容範囲が違うってこと?
こっちにはゲームや物語で魔法という概念がない分、拒否反応がでちゃうのかな?
私だってビアンカ様の変化に驚きがないわけじゃないんだけど、すぐに納得できちゃうのは「魔法だったらあるあるネタだし、ここ異世界だしなー」だからだし。
リアル世界で考えたら……うわホラーだ! 怖い!!
うん。理由付けしたり時間かけたりした方がいい。
「お待たせしました!」
「……っした」
アルベルトに引きずられるようにして、カルロ所長も入室した。
「ビアンカ王太女殿下……!」
カルロ所長はビアンカ様を一目見るなり、すぐに膝をつき頭を垂れた。
王家の者に対する正しい反応だ。
まぁこんだけ麗しかったら、跪きたくなるよね。わかるわー。
アルベルトが涙目で微笑む。
「姫様、本当に良かったですね」
「……アルベルトも喜んでくれますか?」
「もちろんです! どうして戻れたのか気にはなりますが、まずは今の姫様を周囲にどう説明するかが最優先事項だと考えています」
おぉ。アルベルトもルチア先生と同じことを言ってる。
やっぱり姿が変わるのに相当抵抗があるんだね。
この感じだと、ゆっくりでも見た目が変わってしまったビアンカ様って、すっごく気味悪がられてたんじゃない?
「酷く体調を崩して治ったら姿が戻った、というのはどうかな?」
「いいですね。それでいきましょう。何日くらい寝込むことにしますか?」
ルチア先生とアルベルトがどんどん話を詰めていく横で、
「王太女殿下、発言をお許しください」
「許します」
「ユリア様と話してもいいでしょうか?」
「もちろんですわ」
許可を得たカルロ所長が立ち上がって、私の方へ近づいて、小声で話す。
「ユリア様、君、王太女殿下とヨガしたでしょ? 王太女殿下の異世界エネルギーがきれいに通ってる。この前まで滞っていたのが嘘みたいにスッキリしてるよー」
「ヨガもしましたが、歌ったり踊ったりもしたので、どれが作用したのかはわからないんですよ」
「へぇ。なに歌ったの? 聞きたいなー。今歌ってよ」
相変わらず、カルロ所長は歌好きだ。
でも、あれをそのままここで歌うのはダメな気がする。あれは女子会仕様だ。
歌ってもいいか許可を得るときビアンカ様も歌いたがったけど、「あれは二人だけの秘密です! 絶対に他の人の前で歌っちゃダメですからね!」と必死に止めた。今の姿のビアンカ様が歌うとマジでシャレにならん。
ルチア先生とアルベルトが話し合ってる内にと急いで、私だけで健康的な可愛さ前面で、身振り手振りもなしで歌ったんだけど、一番を歌い始めてすぐに、
「破廉恥な!」
「露骨すぎる」
眉をひそめたアルベルトとルチア先生に止められて、お説教されました。
あああ。最初はホラー妄想から逃げるためだったんです。途中から女子会のテンションで楽しくなったなんてことは、げふんげふん。
「先程、異世界エネルギーがどうとか聞こえたが」
アルベルトにカルロ所長が頷く。
「僕には異世界エネルギーが見えるんだけど、王太女殿下はずいぶん前から滞っていたんだよー。通ったから元に戻ったのかなーって」
「なぜそんな大事なことを言わない!」
「言ったよ-? アルベルトが話半分にしか聞かなかったんでしょ。『そんなものあるわけない、見えるわけない』って」
ぐ、と言葉に詰まるアルベルト。
「カルロ、他にも異世界エネルギーが滞っている人はいるのかい?」
「いらっしゃいます。ぼ、私もこの前初めてお近くで拝見して気づいたのですが、王子殿下と王女殿下がそうです」
え? あの二人が? いや、その前に。
「ちょっと待ってください。カルロ所長は、この世界の人の中にも異世界エネルギーが見えるのですか?」
「見えるよー。でも見えるようになったのは途中からで……あれ? おかしいな。王族の方々はお城の中で異世界品と間近に接していらっしゃるからかなーって思ってたんだけど、それならアルベルトだって先生だって同じはず……」
しばらく考えてこんでいたカルロ所長は瞳を輝かせて顔を上げた。
「実験しましょう!」
カルロ所長、だから『検証』とか言葉を選んでください!
 




