26.すいみんぶそく
「ディーノ殿下もティナ殿下も睡眠不足です。お昼寝させてあげてください」
「……は?」
ビアンカ様、ルチアーノ先生、アルベルト、私で夕食を食べながら話すことになっていた。
席についてすぐは、一緒に行動していなかったアルベルトのために、どんな一日だったかをざっくり説明した。
その後でようやく言えてスッキリした。
マジ切実にお願いしたい。
だって考えてもみてほしい。
園児が朝から夕方までみっちり勉強って、どんな大人よ。私でもしんどいわ。
授業が面白いから、頭のスッキリしている午前中は集中できても、午後からおやつ休憩を挟んだとしても夕方まで続くのは、体力的にも精神的にも幼児の限界を超えてると思う。
まだ剣の稽古や楽器の演奏は実技で良かったんだろうけど、昼食やおやつの後に算数って、眠れと言ってるようなもんだ。私なら寝てしまう。
「昼食を食べてすぐに短いお昼寝をはさむとか、午後からの授業を実技だけにするとか。算数はおやつの時間に、おやつをお皿に数えてわけるように促すとか、目の前で大きなケーキを切り分けるとかするのはどうでしょう? おやつの時間がイヤになっても困るので、散歩を兼ねて花を数えるとか、虫を見つけるとかでもいいですけど」
「待ってください。それは授業内容についてですよね? 眠ったからといって王子殿下と王女殿下の行動が変わるとは思えないのですが」
「アルベルトは昼食後に眠くならないのですか?」
「眠れる時は寝ますが、仕事中は起きておかなければなりませんから、眠気は感じません」
アルベルトさんの自制心ぱないです。
「さすが騎士ですね。ディーノ殿下もティナ殿下もまだお小さいです。一日ずっと緊張するのはまだ難しいと思います。私には、気持ちは勉強したいのに、疲れや眠気で思うようにできないことに戸惑っているように見えました」
「しかし姫様にはそのようなことはなかったのですが」
「ビアンカ様にそういった様子が見られなかったのなら、ビアンカ様は眠たくなると素直に眠れる体質なのかもしれません。ディーノ殿下とティナ殿下は眠くなると気持ちが高揚する体質のようです」
確かに双子が荒れたのは午後からだったね、とルチアーノ先生。
「……そういえば、わたくしがあの子たちくらい幼い頃は、昼食の後は母様とお話をしていたように思います。そのまま眠ってしまってもいいのよ、とソファでゆったり座ってお話する時間でした」
懐かしそうにビアンカ様が言うと、アルベルトも当時の様子を思い出したようで納得の表情になった。
「お昼寝ができたら『お菓子食べて攻撃』も落ち着くと思うのです。落ち着くまでは、お菓子の前に温かいお茶を一杯飲んでもらい、お菓子の種類と数を指定して、数を数えながらとってもらうとか、種類で並べ替えてもらうとか。おやつの時間にお土産をそれぞれ一つだけ持ってきてもらってお土産のお話をしてもらうとかどうでしょう? 話してる間は食べられませんし、異国の勉強になりますし、ビアンカ様にも復習になると思います」
「いいね! 私はあのお土産を見たことがなかったから、毎日でも解説してほしいくらいだよ」
「あのお土産には驚きましたわ。わたくしがお土産にいただくのはお菓子ばかりでしたので」
「やはり自分の子と差別されているのか」
「いえ逆です。王妃様はビアンカ様に気をつかっているんだと思います」
「わたくしに気をつかっているの?」
「はい。ディーノ殿下とティナ殿下の寝室、凄まじかったですよね。ビアンカ様、あの勢いで物が増えたら困りませんか? 困らないなら、おねだりしたら喜んで用意してくださると思いますけど」
「……いえ、わたくし、これからもお菓子をありがたく頂戴することにします」
うん。お土産に消え物は無難だと思う。
昼寝や授業の方はルチアーノ先生が調整するようかけあってくれることになった。
「算数の授業を受け持っていたのって、知り合いの学者なんだけどね。あいつがあんなに困ってるの初めて見た。ふふ。この機会に、せいぜい恩を売らせてもらうよ」
先生ー、悪い顔になってますよー。
王族の講師となるのは名誉なことらしく、うまく教えられなければすぐにすげ替えられるらしい。
「今日の話だけ聞いていると、王妃殿下も王子殿下も王女殿下も、姫様に対して悪意があるようには思えないんですけどね」
アルベルトは困った表情だ。
「私も悪意は感じませんでしたけど。今までに、王妃殿下がビアンカ様に直接なにかされたことがあるのですか?」
確かにお菓子テロで時間泥棒されるのは困る。
だけど、王妃派があるだけで、ここまで警戒しないよね?
ビアンカ様、ルチアーノ先生、アルベルトが顔を見合わせる。
「ユリア様、今夜はわたくしの部屋で寝ませんか?」
え? なんのお誘いですか?




