25.双子の一日
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約束の日、朝食を食べ終わるとすぐに双子の部屋へと向かった。
「ようこそいらしゃいましたー」
「おきゃくさま、いっぱーい」
朝から双子は元気一杯で、ビアンカ様、ルチアーノ先生(長丁場なのといざというときの護衛を兼ねて男装)、私の三人を迎えてくれた。
「朝から失礼致します。今日は、ディーノ殿下とティナ殿下がどんな風におすごしになっているのか見せていただくために、ご一緒させていただきます。よろしくお願い致します」
「いいよー」
「たのしみー」
ご機嫌な双子は私たちのまわりをコロコロ走り回っている。
ルチア先生が王様に「将来、私のように王を支える存在として、きょうだいで普段から過ごす時間をとることも重要」と話して王の許しをもらい、周りも説得してくれたおかげで、じっくり双子を観察できるチャンスをもらえたのは嬉しい。
ありがたいんだけど、部屋に王族ばっかりな状況がツラい。
侍女や侍従的な人はいるけれども、ここにいる人たちは王妃派らしいので、双子との会話は主に私がして、ビアンカ様とルチアーノ先生は基本見守るだけと、先に話し合って決まっていた。
話ができないと困るので、今回ばかりは長期間の翻訳アメの使用を許してもらっている。
「せんせいがくるまでこっち」
「みてみてー」
双子に引っ張られるままに行っていいのかと、周りに視線を流すと頷かれた。連れて行かれた先は双子の寝室だった。
「うわぁ」
一歩入っただけで、色彩と素材量に圧倒された。
壁やら天井やら、いたるところに異国の小物が所狭しと飾られている。
なんだろう? 魔法の素材でいっぱいの魔法使いの部屋みたいにカオスなんだけど、不思議と調和している。
双子の寝室には入ったことがなかったのか、ビアンカ様もルチアーノ先生も驚いた顔だ。
「これいまのおきにいりー」
「どう? どう?」
小さなちいさな見たこともない動物が箱庭のような箱に生活しているように飾られている。
「素敵ですね」
「でしょー」
「いつかほんものみにいくの」
「お二人は、国外に行きたいのですか?」
「おかあさまとおなじしごとしたい」
「めずらしいものいっぱいみるの」
ここにある小物は、すべて王妃様からのお土産らしい。
いくつもいくつもある小物を、双子はすべてちゃんと覚えてるっぽい。気になったものをたずねると、喜んで説明してくれた。
きっと王妃様が双子に話して聞かせたんだろう。
寝室にいる間は、双子は走り回ったりしなかった。
お土産にまつわる話を聞いていると、双子の先生が来た、と知らせがあった。
双子が授業を受けるのは離れた場所にある応接室。
広い応接室なので、邪魔をしない約束をして、同じ部屋の隅に私たちがいることを許してもらっている。まさに授業参観って感じ。
本日最初の双子の先生は歴史家らしく、うまく興味を引いて歴史を説明していた。
先生が入れ替わる時間に、飲み物やトイレを済ませ、次の先生を迎える。
地理、言語と続いてお昼になった。
お昼はマナーの先生だというおばあちゃんがやってきた。
双子はもちろん、ビアンカ様もルチアーノ先生もビシッとしている。
ビアンカ様もルチアーノ先生も最初はこのおばあちゃん先生に習ったらしい。
「まぁまぁ。今日は珍しい顔ぶれね」
「ご無沙汰しております、カルロッタ先生」
ルチアーノ先生がおばあちゃん先生に紳士の礼をとって私を紹介してくれた。私は淑女の礼をする。
「初めてお目にかかります。異世界人のゆりあと申します」
「貴女が異世界人……初めましてユリア様。カルロッタです。今日はご一緒できて嬉しいわ」
「私もお話しできるのを楽しみにしておりました」
食事自体は、お食事会とメニューは違えどマナーは同じ。
順番に出てくるお皿をそれほど緊張せずに食べていると、おばあちゃん先生が興味深げに口を開いた。
「ユリア様は本当に異世界人なの? こちらのヒトと変わらないように見えます」
私もさすがに慣れたので、さらりと流す。
「ありがとうございます。まだこちらの言葉を話せなくて、翻訳アメをいただいているので、そう見えるのでしょう」
カルロッタ先生は、しばらく考えてから、ゆっくりと言った。
「……ユリア様が本日のことを望まれたと聞いております。なにか感じたことがあればわたくしにも教えてちょうだい」
「そうですね。授業内容が面白いと思いました。最初に歴史を軽く流してから、その歴史に出てきた地理をさらい、それぞれの言語を習う。興味深くて私も真剣に聞いてしまいました」
「あらあら、それは先生方にも伝えておきましょう。喜びますよ」
「よろしくお願いします。あとは、ディーノ殿下もティナ殿下も、とても勉強熱心でびっくりしました」
いやほんとマジで。
お菓子テロしてる姿から、お行儀よく座っていられるのは食べてる間だけかと思ってたけど、授業中もずっといい子だった。
むしろお菓子テロが異常な感じ。
「わたしたちしっかりべんきょうしておかあさまのやくにたつのです」
「いっしょにおそとにいくのです」
双子の原動力は大好きなお母様っぽい。
「この調子で励むといいですよ」
カルロッタ先生はにっこり笑う。
「知識は力ですからね。ただ、勘違いしてしまう方もいるので困っているのです」
あなたたちは大丈夫そうで安心したわ、とカルロッタ先生は目元のしわを深めた。
和やかな昼食後、剣と楽器に別れての授業になるので、私とビアンカ様がティナ王女の楽器、ルチアーノ先生がディーノ王子の剣を見に行く。
初めての楽器を楽しみに楽師の待機している部屋に向かうと、少しずつ違う形のハープみたいなのが置かれていた。
ティナ王女はちゃんと曲を奏でていたけれど、弾いているのを見る限り、けっこう指の力がいりそうだった。
途中でおやつの時間になり、ティナ王女は嬉しそう。
部屋でディーノ王子と合流すると、私たちにお菓子テロを炸裂。
今回は私も、前のビアンカ様みたいに最初からお上品に食べたので、やれ食べてそれ食べて攻撃のストレスはかかったけど、口から出そうなほどにはならなかった。
そして、最初の部屋に戻って算数の授業。
本日最後の授業らしいけど、ここで初めて双子が不満を言い出した。
不満といっても内容はなく、言いがかりに近いんだけど、授業はちっとも進まず、なだめすかしていた算数の先生が疲弊するだけで終わった感じ。
授業はすべて終了し、この後は湯浴みと夕食ということで、私たちはお暇しようと席を立った。
この時も双子は「もうかえるのー」「かえっちゃいやー」と泣き叫んでいた。
うん。よくわかりました。




