22.お食事会 5
恋に落ちなければ歌えないって、どんな鳥よ?
まぁここはそういう世界なんだよね。
異世界だから、深く考えても仕方ないよね。
無理矢理納得していると、アルベルトが表情を整えて口を開いた。
「ユリア様、あの召喚品は暴走しませんか?」
いつも以上に真剣な声だったから、それをずっと聞きたくてアルベルトはこの場に同席したんだな、とわかった。
私も、『消えたネモフィラ』の話を知って、携帯音楽プレイヤー召喚時の騎士達の怯えた様子に合点がいったしね。
「大丈夫です。あれは兵器や武器ではありません」
ただの携帯音楽プレイヤーです。
だいたい一般家庭に武器も兵器も置いてないっての。
そう考えると、国ひとつ吹き飛ばすような異世界品を持ってたネモフィラの異世界人って、本当に何者だったんだろう? 兵器開発者とか?
「あんなに誰でも見えるくらいエネルギーがもやもやしてる異世界品って初めてなんだよねー。そんなに思い入れがある物だったの?」
カルロ所長はすっかりいつも通りの口調に戻っている。
「私にもよくわからないんです。最初に召喚したテレビも、次に召喚した炊飯器も、同じくらい使うし思い入れもあると思ったんですけど、どうして全然違ったのか……」
他に毎日使う家電って言ったら、掃除機、冷蔵庫、洗濯機。
冷蔵庫はないとすごく困るし、洗濯機は召喚範囲外だから、次に召喚するの、リビングの隅で待機してるお掃除ロボットか、ダイニングに立てかけてあるスティック掃除機にしようかな。
「早く研究所のみんなと話したいです。今までに召喚された他の召喚品を知ってる人に聞いたら、共通項が見つかるかもしれませんし」
「召喚品を術使い研究所預かりにできないか上に聞いてみましょう」
「ありがたいねー」
「ぜひお願いします」
「では、明日からは、午前は城で姫様と一緒に先生からご教授いただき、午後からは研究所へ向かうということでよろしいですね?」
「わかりました」
「城での部屋は異世界品で守られていますが、くれぐれも、お一人で出歩かないようにお願いします」
「こちらにいる間は、わたくしがなるべくそばにいますわ」
ビアンカ様は嬉しそうだ。
「それがいいね。あの子たちをビアンカ様一人が相手するのは大変だよ」
あの子たちって? と、ルチア先生の言葉を聞き直そうとしたところで、扉が大きく開いて、小さな丸い幼児が二人なだれ込んできた。
「ねえさまー、あそぼー」
「ねえさまー、おやつたべよー」
まさにコロコロという感じで、テーブルの周りをくるくると走り回る幼児二人。
「真面目な話はここまでですね」
アルベルトは仕方なさそうに立ち上がった。
「私はこれで失礼します。無礼をお許しください」
「許します」
「ぼ、私も失礼します」
アルベルトは私の後ろに立ち、カルロ所長は慌てて部屋を出て行った。
「君たち、おやつを食べるのは席に着いてからって言ったよ?」
「上手にできるかしら?」
慣れた様子でルチア先生とビアンカ様が声をかけると、幼児二人はピタッと止まり、いそいそと、たった今空いたイスに近づいた。
幼児に陰のようについていた侍女と侍従が二人をそっとイスに乗せる。
「よくできました」
「ディーノもティナもえらいわ」
ルチア先生とビアンカ様に褒められて、幼児二人は誇らしげだ。
もしかしなくても、この二人ってビアンカ様の異母弟妹だよね?
私も失礼していいかなー?
「ちょうど良かったですわ。こちらがディーノ、こちらがティナ、わたくしの異母弟妹です」
しまった。逃げるタイミングを失った。
席から立ち上がり、しっかりと腰を折る。
「初めまして。お目にかかれて光栄です。ディーノ王子殿下、ティナ王女殿下。ゆりあと申します」
「ユリア、かわいー」
「ユリア、きれー」
「あ、ありがとうございます」
褒め返さねばと思っていると、
「いっしょにたべよー」
「おいしいよー」
いつの間にか食事の皿が片付けられて、すっかりティータイムなテーブルに早変わりしていた。
お茶はいいんだけど、お菓子がこれでもか! と山盛りに詰まれている。
いやいや、今、昼食を食べたばっかりなんですけど。
お茶だけで十分です、と断ろうにも、なぜか二人の手で「これがおススメー」と、すでにお皿にどんどん載せられている。
いやいやいやいや。
待とうよ。てか、そんなに盛らないで!
あー。だから丸いんだね、うん。




