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20.お食事会 3

『私たち友達でしょ?』

『友達だったら、教えてくれるよね?』


 嫌な記憶があふれそうになって、慌てて蓋をする。

 今はそんなことを思い出してる場合じゃない。


 そしてビアンカ姫、ちょっと待ってほしい。


 まだ私は初めて聞いた『血まみれ事件』や、『消えたネモフィラ』に出てきた異世界人のことを考えていて、お友達がどうとかまで意識が向いていなかった。

 ビアンカ姫が言う『お友達』と、私が思う『お友達』が同じかどうかもわからないのに、返事ができるわけがない。

 私の今までの『お友達』は、最初は仲良くても途中で裏切るものだった。

 そんなつながりはいらない。


 そう思っているのに、私の口が勝手に開こうとする。

 「光栄でございます、ビアンカ様」と言いそうになって、慌てて片手で口を塞いだ。

 

「あー。王太女殿下。ユリア様は王太女殿下と契約しています。王太女殿下が望んだことには肯定しか口にできませんが、いいですか?」


 私の様子を見抜いたカルロ所長が指摘すると、ビアンカ姫は目を丸くした。


「そんな、おかしいですわ。契約解除を」


「姫様、異世界人との契約を解除すれば、ユリア様は今までのように生活できなくなりますよ」


「王族に繋がれていない異世界人は、異世界品として扱われるからね」


 アルベルトとルチア先生の言葉に、ビアンカ様は絞り出すように言った。


「……ユリア様、先ほどのお願い、なかったことにしてくださいませ」


 やっと私の口のむずむずがなくなってほっとした。

 席に戻ったビアンカ様は、真剣な顔でにっこりと笑った。


「アルベルト、ユリア様に、しばらく城で過ごしてもらうことは可能かしら? 先生も授業で移動なさらない方が効率的ではなくて?」


「可能です」


「いいね」


「では決まりね」


「あのー。今まで通り研究所へも通えるようにしてくださると、ぼ、私としても大変助かるのですが」


「もちろん許可します」


 カルロ所長、どれだけ私をあてにしてるんですか!

 でも研究所通いが続けられるのは私も助かる。

 肝心の召喚術を理解できるまでは、子守だってなんだってするつもりだ。

 

「ユリア様、わたくし契約について勉強不足でした。貴女をしばるつもりではなかったのです」


「……私も、契約が私を守ってくれているとは思っていませんでした」


 まさか契約解除したら今以上に人権がなくなるとは思わなかった。

 お互いさまですね、と少し和んだところで、みんな再びお皿に向かう。


「ユリア様、これからはどうぞビアンカとお呼びくださいね」


「……ありがとうございます。ではこれからは、ビアンカ様と呼ばせていただきますね」


「うふふ。嬉しいです」


 ビアンカ様は私になにを言っても強制命令になってしまうから、友達関係を願うのではなく、名前呼びをねだったんだろう。 

 アルベルトやルチア先生がビアンカ様を守りたくなるのもわかるな。

 私も今回で3回しか会ってないけど、かしこくて、まっすぐな王女だと感じた。

 契約者がビアンカ様で良かった。


 続く会話はあたりさわりないものになったので、私も聞きたかったことを聞くことにする。


「これまでに召喚された召喚品はどうしているのですか?」


「エネルギーがなくなっても、危険でないものはすべて倉庫にしまってあります。術使い研究所が落ち着けば、異世界品研究所も作る予定です」


 とりあえず即捨てじゃないことがわかってほっとする。

 なんとしても、壊されたり捨てられたりする前に取り戻さないと。


「見てみたいです。他の異世界に興味があります」


「上に聞いてみましょう」


「後でいいから、ユリアにまた歌って欲しいなー」


 カルロ所長の言葉にルチア先生とビアンカ様が固まった。

 おそらく私にアプローチしたように聞こえたっぽい。


「あぁ、誤解されたかと思いますが、こちらとユリア様の世界では、歌の認識が違うのです」


「……そうなんだね。それならそうと、先に前置きしてほしかったな」


 慌ててフォローするアルベルトにルチア先生は緊張を解いた。

 そんな様子をまったく気にせずカルロ所長は聞いてくる。


「こっちで『歌』って言ったら『愛の言葉』だけど、ユリア様の世界では『歌』ってなんなの?」


「愛の歌もありますけど……どちらかというと『詩』でしょうか?」


「し?」


「ええっと、気持ちをこめた言葉であったり、物語のようなものだったり?」


「ものがたり?」


 こっちには詩や物語がないのか、翻訳しきれていないのか、もどかしい。


「うまく説明できないので、短いものを歌ってもいいですか?」


「いいよね?」


 アルベルトは穏やかに、ルチア先生とビアンカ様は瞳を輝かせて、頷いてくれた。


「では『あめふりくまのこ』を歌います」


 四番まであります、と先に伝えてから歌い出した。

 雨の日の小熊の話で、短い絵本みたいな内容だから、この曲を選んだんだけど。

 そういえば、クマってこっちにもいるのかな?


「なるほど。『歌』とは違いますね」


「吟遊詩人の歴史歌でもない。こちらでいうところの『読み物』みたいなものかな」


 良かった。伝わったということは、きっとここにもクマみたいな動物がいるんだろう。


「続きはありませんの?」

 

「この歌はこれでおしまいなんです」


 ビアンカ様は残念そうだ。

 わかる。私も小さい頃は、魚が見つかって欲しいなって思ったもん。

 五番目に魚が出てきてから終わったらいいのにって、ずっと不満だった。

 でも、ちょっと大きくなると、雨水に魚はいないって気づくんだよね。  


「あの歌は君の気持ち?」


「どの歌ですか?」


「さっき部屋で歌ってた」


「ああ、違います。あれは物語の中に出てくる登場人物の気持ちです」


「どんな歌なんだい?」


「聞きたいです」


 ルチア先生とビアンカ様が興味を持ったので、また歌うことになった。

 さすがにあれは座ったままでは歌えない。立ち上がることを許してもらう。


 姿勢を正して、集中!

 二重唱の部分を一人用に微妙にタイミングや歌詞を変えて歌うのを忘れずに思い出す。

 目を閉じて息を吸って、目を開くと、そこは歌の世界。

 私はマイペースな妹、秘密をかかえる姉になる。

 

 夢中で歌い終わると、なぜか微妙な空気になっていた。

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