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18.お食事会 1

 エレナ曰く、まず、淑女が殿方の前で大口を開けるのがマズいっぽい。

 淑女は殿方の前では発言も控えるのが美徳だとか。

 王太女殿下が直接言葉を交わすなんてことは滅多にない。

 本来なら、隣に座っていたルチア先生がビアンカ姫から言葉を耳打ちされ、先生が私に発言する形になる。

 だからエレナは、さっきビアンカ姫が私と直接話したことに、内心すごく驚いていたそうだ。


 それは私もマナーとしては教わっていた。

 でも、ビアンカ姫から翻訳アメを渡されたことで、直接腹を割った話し合いをするんだと思いこんじゃったんだよね。言い訳にしかならないけど。


 ちなみに高貴な方でも男性は例外的に求愛行為として意中の女性にだけ歌う。

 だから淑女が不特定多数の殿方相手に歌うのは破廉恥な行為で、色を売る女性として見られる。

 それで地下牢で歌いまくっていた私は誤解されたわけだ。


 女性は歌わない代わりに楽器を奏でるのがステイタス。

 楽器は色々あるらしい。私の勉強がそこまで辿りつけていないのが悔しい。

 なんせ最優先事項は、ビアンカ姫と話せるレベルのマナーと言語の習得だったもんで。


 文字の読み書きがなんで必要かというと、めったに声を出さない淑女の連絡方法は手紙が主流で、やりとりが素早く、美しい文字と適切な内容が書けるほど良いとされているから。


 楽器の演奏の腕前と筆跡の美しさと内容重視って、顔は隠してないけど平安時代みたいだと思った。

 

 それはともかく、少しでも歌ったおかげで体も気分もほぐれた。

 エレナの用意してくれた格式高いドレスも着たし、戦闘準備完了!

 いざ、昼食会(せんじょう)へ!!


 アルベルトの案内で、エレナとカルロ所長も一緒にビアンカ姫の指定した部屋へと向かう。

 緊張しているのか、カルロ所長が珍しく硬い表情で黙っている。


 私にあてがわれた部屋より数段以上きらきらした部屋に入ると、大きな丸いテーブルに、ビアンカ姫、アルベルト、私、カルロ所長、先生、の並びで、ぐるりと座る席が用意されていた。


「ぼ、私もご一緒してよろしいのですか?」


 カルロ所長の驚いた声に、すでに座っていたビアンカ姫は頷かれ、隣に座っているルチア先生が答える。


「ビアンカ様は、術使いからの忌憚なき意見を聞きたいとご所望だよ」


「……ご期待に添えるよう尽力致します」


 おぉ、カルロ所長の堅い口調、初めて聞いたかも。


 みんなが席に着くと、料理が運ばれてきた。

 マナーで習っていた時も思ったけど、ここでの食事マナーは、カトラリーが少ないコース料理って感じ。特別なナイフやらが必要な料理があれば、その時に持ってきてくれる。

 今回はそれもないようで、食べるだけならそれほど緊張しなくて良さそうでほっとした。


「先ほどの仕切り直しと、皆とじっくり話をしたくて来てもらったんだ。発言の許可はいちいち求めなくていいから、食べながら話そう」


 途中で給仕が入るのを避けるために、すべてのお皿がテーブルに並べられた。

 エレナも退室してから、カルロ所長が『防音』を唱える。

 王女がまず手をつけるのを待って、それぞれがカトラリーを動かし始めた。

 しばらくして先生が口火を切った。

 

「ユリア様。繰り返しになるけど、君はヒトかな?」


「私も同じことをお聞きします。ルチア先生は誘拐されて、脅迫されて、家の物を寄越せと言われたら、どうなさいますか?」


 ぎょっとしたアルベルトとは対照的に、カルロ所長は納得がいった表情になった。


「あのー、その問答の前に、いくつか有名な召喚の話をしてもいいですか?」


 ビアンカ様が頷く。


「異世界品が見つかったのは、このカルミア王国が最初だと思われていますが、実はそうでもないんです」


 ルチア先生がカルロ所長を睨んだけれど、カルロ所長は「忌憚なき意見をご所望なんでしょう?」と続ける。


「ユリア様、他国も同じように異世界品を使って防衛したり召喚したりできることを、おかしいと思いませんでしたか? 『異世界からの落とし物』はもともとこの大陸のあちこちで頻繁にあったようです。カルミア王国と同じように、たまたま術使いの素質を持つ人が術を発動させたことがきっかけで独自の発展を遂げたことになっていますが、失われた文明の言語を使うので、最初は考古学の人間が研究していました。考古学畑の人間は、国にこだわらず知識を共有しているので、術も最初は各国共通の研究で、召喚の術式も同じでした」


 ただ、術が万能すぎて危険なので、なるべく表に出ないようにして研究しているうちに、こちらから異世界品を召喚できるようになり、ついには異世界人を喚んでしまったそうだ。

 

「考古学者たちの間で隠されてきた一番有名なの召喚が『血まみれ事件』です」


 初めて喚んでしまった異世界人は、たまたま服を着ていなかった。

 見知らぬ場所で見知らぬ相手に囲まれた裸の異世界人が、恐怖とパニックで叫びながら暴れた。叫びはたまたま術となり、その場にいた術使いが何人もはじけ飛んだ。

 術使いたちの血で血まみれになった異世界人はそのまま死んでしまった。


「それ以来、召喚の条件に『服を着ている』が追記されるようになりましたが、その場にいた生き残りの考古学者たちは召喚から手を引きました」


 そりゃそうだろう。トラウマもいいところだ。

 みんな眉をしかめたけど、カルロ所長は淡々と話す。


「『血まみれ事件』で異世界品を使った術のことが上層部に伝わり、各国の王が話し合った結果、これからはそれぞれの国で偶然見つかった体で各国の自己責任で研究することにしよう、と取り決められたのです。『血まみれ事件』については、『言葉が通じないからヒトではなかった。召喚されたのはただの動物だったのだ』と学者達に言い聞かせて研究を続けさせました」


 ようやく私が何度もヒトかどうか聞かれる発端を知ったよ。

 言葉が通じないからヒトじゃないって、いくらなんでも強引過ぎる。


「それでも、しばらくは各国の考古学者たちで情報を交換していたんですよ」


 各国で協力した方が研究も進みますからね、とカルロ所長は静かに続ける。


「召喚の儀式を行っても毎回成功するとは限らないことから、召喚できる周期があることがわかりました。世界をつなぐには大きな術力がいるけれども、そこまでして召喚したからといって毎回素晴らしい異世界品が召喚されるとは限らない。こちらから闇雲に異世界品を召喚するよりも、異世界人を召喚して異世界人自ら召喚品を選んでもらった方が確実なので、『血まみれ事件』の後も異世界人を召喚することは続けられました。この世界では、名乗れば名を奪われることがわかっているので誰も安易に自分の名前を口にしませんが、異世界では違うようですね。名前を言うように仕向ければ、ほとんどの異世界人が素直に名前を答えてくれます」

 

 うちの世界じゃ、聞かれたら名乗るのが礼儀だからね。


「召喚後すぐに暴れられたら困るので武力で囲み、自由を奪って軟禁して、落ち着いた頃に安心させるように翻訳アメを使って騙すように名を奪う。名を奪われたら奪った相手には逆らえません。召喚する物がなくなるまで召喚させて、異世界人も異世界品として使い潰す。私たちにとって一番効率的な方法が繰り返されました」


 きっと、ここの人たちにとっては、異世界人も異世界品も、ただの資源なんだろうね。 


「そしてもうひとつの事件が起こったのです」

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