13.2回目の召喚
この世界のことを知りながら生活するのは、まるで良くできたゲームをしているみたいで楽しい。
異世界エネルギーが発展途上中で、術の全貌が明らかになっておらず、新しい呪文を自分で発見できるとか面白いし。
離宮で勉強して、研究所で子供達とわいわいやってると、まるで望まれて異世界召喚されたみたいに思える。
『あなたの頑張りでこの世界は助かります』そう言われているように感じていた。
でも、違う。
昼過ぎ、私を研究所へ送るために来たアルベルトが「明日は午前から来ますね」と言った。
ようやく王女様と謁見できるのかと思ったら。
「ユリア様、明日は召喚の儀を行います」
そうだった。
私は、異世界品を召喚するための媒体だった。
「召喚する異世界品を考えておいてくださいね」
王女に名前をとられて契約した私に、否やは許されない。
私のライフ数である異世界品数のカウントダウンは止められない。
かといって、頑張るのをやめたら、媒体としての役目を果たせないのなら、即使い潰される。
「……わかりました」
私やまりあさんが好きなものは絶対に召喚したくない。
家電ならまぁ許せる範囲だから、次も家電にしようと考えてはいた。
テレビが高エネルギーなのは意外だった。毎日使っているからエネルギーが高いとか?
翌朝、儀式の間では前回と同じように、召喚術を行う四人の術使い、その外を騎士達が囲い、二重の円を描いている。
異世界服を着ている方が召喚しやすいということで、懐かしの白いふわもこルームウェアを着て裸足になった私は内側の円の一部になる。
着替え中とかお風呂中とか、裸で召喚された人がいたら大変だっただろうね。ルームウェアでも着ててほんと良かったよ。
「いいですか? 始めますよ?」
「はい」
術使い達が異世界品を手にして『繋がれ』と願う。
目を閉じた私は、懐かしいマンションのリビングを見る。
うちのマンションはリビングダイニングという、台所も同じ空間にある造りだ。
ダイニングも見えるかな? と考えると、視界が動いてダイニングが見えた。
よし! 今回は、これだぁ!
毎日使う、ないと困る、かなり重要な家電、炊飯器!
ぐっと引っ張られる感覚がして、円陣の中に見慣れた炊飯器が現れていた。
「おぉ!」
「お?」
「あれ? ん?」
なぜか反応がかんばしくない。
エネルギー量を計測する術を使っていた術使いが、がっかりした声を上げた。
「これには、ほとんどエネルギーがありません」
なんで?
大事にしているし、毎日それなりに感謝もしてるから、執着がないってことにはならないと思ったんだけど。
術使いの一人が遠慮がちに提案した。
「あの、アルベルト様、今からもう一度、召喚してもかまいませんか?」
「かまわないが……続けて召喚できるのか?」
「はい。今の召喚にはそれほど力を使わなかったので、あと一回くらいはできそうです。なぁ?」
他の術使い3人もうんうんと頷いている。
「ユリア様、どうされますか?」
「……やります」
今の提案は私のためにしてくれたはずだ。
やらない選択肢なんかないっての。
「では、お願いします」
炊飯器はすでに別の騎士が円の外側に持って行った。
召喚の邪魔にならないようアルベルトも私たちから離れると、術使い達は再度『繋がれ』と願った。
考えろ考えろ考えろ!
私に召喚する媒体の価値がなくなったら、私自身が異世界品として扱われることになる。
ライフ数が一気になくなるのは嫌だ!
焦った私は、リビングのテーブルに置いてある携帯音楽プレイヤーを目にして、あぁゆっくり音楽を聴きたい、と思った。
「おぉ!」
「す、すごい!」
「あふれている!!」
選んだつもりはなかったのに、円陣の中には携帯音楽プレイヤーが現れていた。
術使い達は嬉しそうだけど、アルベルトの声は硬かった。
「これは……厳重に扱わねばなりませんね」
携帯音楽プレイヤーから、なにかがもやもやと漂うのが私にも見えた。




