73.ジャングルみたい
前回のあらすじ
ダンジョンの入口でいろいろ話した。
壁には所狭しと細い糸のような蔦から樹木のゴツゴツとした根が黒い坑道の壁のようなところを張り巡っていた。地面からはジャングル宛らに草や木が無秩序に生えている。
しかし光はこの空間に等しく広がっており、小鳥の囀り、風の流れもロクに感じることが出来ず、ところどころに燃えたのか地面の表面がポツンと抜けているところや不自然に木が切られているなどなんとも不気味な雰囲気を作り出している。
そんな自分たちが歩く音しか聞こえないくらいの静寂に包まれている。
また、周りに魔物の反応はない。少なくとも俺たちに敵対するものは直径500メートルいない。
これが分かったのは前に俺が作ったあのステッキだ。もちろんこれを取り出したときは大いに盛り上がったのだが、今はあまり話題もなく随分暇だ。
だからそんなどーでもいいことばかり考えてしまう。
それにしてもこのステッキ便利だよな。ここめっちゃ見通し悪いから目視で確認できないからね。
「ダンジョンに入ってからどのくらい経ったスか?」
ケイはまだ魔物とでくわせていないせいかソワソワしている。召喚してからここまで来るまでの間の道中懐かしいスライムや狼の魔物を倒したがやはり物足りないのだろう。
ちなみにそのソワソワの仕方が大剣をブンブン振り回すというものでうっかり手を滑らせ身体が真っ二つとかなりそうで怖い。しかも、俺が先頭で歩く形なので常に背後から空を切る音が絶え間なく聞こえ、たまに周りの木に当たって枝とかもまだ当たってはいないもののボンッボンッと落ちてきている。
しかし注意して重い空気にするのは好きじゃないし、ケイも意外に楽しそうな感じなのでこのまま放置しよう。
「大体20分くらいだな。こういうダンジョンもあるものなのか」
ここ以外にはまだ1つしか行ったことがないのでよく分からないが、ダンジョンとはこういうものもあるのかと納得することにする。管理事務所も異常事態が起きているといった様子も見られなかったしね。
「私が魔物探してみてもいい? 直径500メートル圏内にいないならそれ以外の場所からも探すよ!」
その手があったか! 魔法でマッピングをしているのだがここの階層、一階層の広さは大凡3平方キロメートルと魔物がギリギリこのステッキの効果範囲に入っていないだけという可能性は少なからずある。
「なら頼むよ」
「任せてね!」
するとアリスはしゃがみ込んだ。手に地面を付けると目を瞑りそのままの姿勢でしばらく。
10秒ほどすると終わったのだろうか、立ち上がる。その嬉嬉とした様子から多分見つかったと推測できる。
「いたよ〜、私に付いてきてね」
やはり見つけたか。……というか普通の人は魔物いたら喜ばないよな。俺の感覚ってもう狂い出してるのか。
アリスに後をついて、小走りで移動すること約1分。
目の前にはここのジャングル(?)の木の葉っぱを食べる全長5メートルの体高2.5メートルくらいもあるサイのような魔物がいた。
一瞬動物かと思ったが、魔物特有の目視で確認出来るほどの魔力に常に覆われており、動物とは思えない大きな体躯と長く伸びた鋭利な角が5本も生えている異質な姿はまさに魔物だろう。
しかし、木の葉を食べていて害を為すようには見えない――、と考えているとこちらに気づいたのか、俺達が隠れている茂みにギロりと紅に染まった瞳を向けてくる。
そして、こちらに向かい突進しようとしてきた。
やはりこれは危ない。俺はそう判断する。
これは明らかな殺意だからだ。
2人の実力もゲーム時代と同じなのか、またゲームと変わったところがあるためにどっちが狩るか訊こうと思っていた。
しかし、その前にケイが動いた。
「なかなか面白そうなやつじゃないっスか! 俺がその攻撃跳ね返してやるっスから覚悟しておくといいっスね」
地面を軽く抉って森の中に疾風の如くその魔物一直線に駆け抜ける。随分と好戦的だな。
数瞬後には森の中に激しい衝突音が走る。
「これからが本番っス! ……あれ、盾で弾いただけでそんなに遠くに飛ぶはずはないっスし、この黒い霧はなんスか?」
いやお前強いな。というか盾って殴るためのものだっけ? それは一先ず置いておこう。
正直俺もこれからが本番だと思っていたがこの盾の効果は衝撃を四散させずに自身に負担はその分かかるが同時に何割か跳ね返すというものがある。
きっとその効果だろうが一体何割にしているんだ?
いや、単純なパンチ力っぽい。なぜなら、跳ね返す効果を使ったならば今飛びながら殴った時を例にすると少なくとも今のように綺麗なアーチ状の軌道は描けないだろうからな。
恐ろしい力だ。




