42.こっちは
前回のあらすじ
セシリアとカリスが採集をするところに着く。
「ティアナ、そう言えば初めて2人森に行ったときもこんな感じじゃ無かったか?」
「そうでしたね。つい最近のことのようですがあれから数年も経っています。しかし、エンセリアさん?」
「ん? しかし、なんなんだ?気になるぞ」
エンセリアには自分の言ったことが何か間違っているということまでは気付いたようだが、それが何かまでは分からなかった様子である。
「あのときは2人ではありませんでしたよ? 同伴として、村の冒険者の方々もいらしてましたからね」
ティアナの言葉でやっとエンセリアが思い出したようで何度も相槌を打つ。
「そうだったぞ〜。さっきまでの記憶では二人きりに補正が勝手にされていたから、ついうっかり」
「全く、しっかりしてくださいよ? 今回、採集する薬草までうっかりで全部違うものを採ってきたとなったらセシリアさんとカリスさんに呆れられてしまうかもしれないですからね」
斯く言うティアナも既に若干呆れた様子であるが。
「そうならないために余分に採っていくというのはどうだ? 多くて困るようなものでも無いとボクは思うからな」
エンセリアはなかなかいい提案をしてきて、ティアナは少しエンセリアの理解力を上方修正する。
「余分に採ったら依頼とは別に報酬が増える。エンセリアさん、いい提案ですよ!」
特に考えもせず、パッと思い付いたことを言っただけのエンセリアは少し驚いた感じだったが――
「まあ、ボクにとっては造作もないことだぞ〜♪」
――まるで当然の如く上機嫌で言葉を返す。
ガサッ、ガサガサッ――
草が他のところより生い茂っているところから物音がする。
自然とエンセリアとティアナの視線もそちらに向いた。茂みからの物音は風で出るような音では無い上、茂みと言っても街路樹の低木が並ぶところほどの密度は無いため中の様子が何となく見えている。
そこから見えたのは数匹の魔物だ。
「ティアナ。魔物がこっちに来てるみたいだぞ」
さっきまでの会話ではほとんどお互いの顔が見える程度に視線が向いていたが、今のエンセリアはそっちから視線は外さなかった。
「エンセリアさん、どうしますか?」
ティアナも同じく視線を外さなかった。その上、自然な動作で腰にある鞘から剣を抜いて構える。
「うーん……ティアナに魔物は1日任せてもいいのか?」
エンセリアは少しだけ考えて結論出す。
「もちろんいいですよ。では、倒してきてしまいますね」
魔物たちはまだ茂みの中にいる。向こうもこちらの存在に気付いているようで物音が今はほとんど消えて向かってきていた。
しかし、そんな警戒の意味も虚しく散ることになった。なぜなら、ティアナが剣を茂みに向かって1振りすると衝撃波のように魔物たちへ躱す暇を与えることなく、ティアナを起点に波紋のように広がっていったモノに斬られたからだ。
「ほんと、いつ見てもティアナの剣は不思議だぞ。前から気になっていたんだが、あれはどういう仕組みなのか?」
魔物が去ったことでさっきのときのように視線は通常時に戻る。
「やはり気になりますか!?」
ティアナは自分の剣技に興味を持たれたことでとても嬉しい感じだ。
「あれは、剣に風の魔法を乗せて剣を振る時の遠心力を利用して高速で放つというものなんです! 腐食効果や爆破効果も上乗せしたかったのですが残念ながら2つ同時魔法を使うというのは今の私では少々無理があるといいますか……でも! 剣にはしっかりと精神を蝕む効果を付けています! 腐食効果や爆破などは私自身に被害が出る可能性があったので却下としましたが、いつかさっきの風の魔法に上乗せするつもりです!――」
「ちょ、ちょっと落ち着いてくれ……ると嬉しいぞ」
流石にエンセリアもティアナの勢いに付き合えきれず、ギブアップする。この判断は良かっただろう。何故なら、ティアナには申し訳ないが遮らせてもらわないと一段落つくまで相当時間がかかってしまうと思われるからだ。
「ゴメンな、ティアナ。話しを遮ってしまって」
まさか、理由が勢いについていけないからなんて言ったらティアナを傷付けてしまうかもしれないし、理由を言わないと遮られたのは自分が悪いと傷付いてしまうかもしれない。だから、いい理由を考えなければとエンセリアは思考する。
そして、ふと目に入ったのは赤い大きな葉っぱが付いた植物だった。
「ほら、今日依頼された【タリーフィ】だったか?それがそこら辺にたくさんあるんだぞ。それで頼みたいことがあるんだけど、先ず聞いてもらってもいいか?」
「別に構いませんよ。それで頼みと言いますとなんですか?」
ティアナはいつもの雰囲気に戻った。エンセリアはそのことに少し安堵する。
「今日は魔物を倒しに来た訳じゃなくて採取で来てる訳だから魔物をティアナに引き受けて欲しいと思うんだけど、頼めるか? ボクは鑑定魔法のために魔力を温存しようと思って」
エンセリアの魔法はどれも過剰に魔力を消費している。だから、鑑定魔法のために魔力を温存するというのは聡明な判断だろう。
この考えが出てきたのは、エンセリアを思考モードに変えたティアナも関わってると言える。
「そんなことならいくらでも引き受けますよ」
「ティアナありがとうだぞ! この借りは近いうちに返すぞ!」
エンセリアにとってこれは相当頑張って得られた結果である。
「借りなんかにこのくらいは入りませんよ? パーティーというのはこうやって助け合うものですから」
「ありがとう! じゃあ、早速タリーフィを採集しようか」
素直に受け入れたように見えるがエンセリアは何らかの機会でティアナにお返しをしてあげると心に留めておいた。
それと同時にこちらでも採集が始まるのであった。




